第33話
「殺してやるっ!」
例の木の下で蹲ったまま動けずにいた僕は、病院関係者に保護された。彼女の遺体を目にしたおばさんは僕の襟首をつかみ、引き倒す様にして圧し掛かった。
その力は信じられないものだった。あの痩身のどこに一体あれだけの力があったのだろうか。何の抵抗も出来ずにいた僕から医者や看護師が数人がかりで彼女を引き剥がした。
尚も獣の様に彼女は吠え続けた。
「『楽園』に行けるはずだったのに……!」
今となっては「向こう側」が楽園だなどという考え方はどこか滑稽にさえ思えた。もしも、その考えが正しいのだとしたら、彼女は楽園に至ることよりも、一緒に行かなかった僕を恨み続けることを選んだということなのだから。
しかし、このときの僕にはそんな事を考える余裕はなく、ただ憔悴し、押し倒されたときのまま、ただ空を見上げていた。
だから、このとき、彼女の父親がどんな顔をしていたのか、僕は知らない。
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