第28話

 おじさんを避けるようにして、病室の中に再び足を踏み入れる。親戚の輪もだいぶまばらになっていた。

 もうミキハに会うことはできなくなるのだと考えるだけで僕の心は張り裂けそうだった。痛い。本当に胸が痛い。けれどこんな僕の痛みなんかより彼女の痛みはずっとずっと強いのだ。


 でも本当に恐れているのは彼女が消えることなのか?


 心の中で悪魔が囁く。


 一緒に消えてくれ、と言われることじゃないのか?


 僕の心臓がより強く激しく、暴れるように脈を打つ。


「お願いがあるの……」


 彼女は僕の方を見ながら言った。




「すこし二人きりで話をさせて……」


 彼女はそう言って家族や関係者を病室から下げさせた。彼女の父親は少しの間、渋っていたが、最終的には折れた。「三十分だけ」、そういう条件で僕達は二人で病室に残された。


「二人きりだね……」

「今までだってあっただろ……」


 僕は努めて普段通りの会話を交わそうとする。それでも、言葉が震えるのを抑える事は出来なかった。


「カケル」


 ミキハが不意に僕の名前を呼ぶ。

 僕は彼女の瞳と真正面から向き合った。


「私は貴方の事が好き」


 誤魔化さず、照れもせず、彼女はそう言い切った。


「でも、私はもうこの世界には居られない」


 僕は一体どんな決断を下せばよかったのだろう。


「一人でいくのが、怖いの……」


 その答えが出る事はないだろう。


「だから、一緒に旅立って」


 きっと、永遠に。

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