第29話

 僕達は病室の窓からこっそりと抜け出した。病室は二階だ。だからこそ、こんな所から彼女が降りられるだななんて誰も考えない。僕は祭壇にかけてあった白い布を命綱代わりにして窓から飛び降りた。そして、ミキハは窓から身を乗り出し、布を使って降りようとするのだが、彼女の現在の病状ではやはりそれは不可能だった。ほとんど落下する様に降りてきたミキハをなんとか受け止めることができたのは、間違いなく奇跡と言っていい。


「あぶねえ……」


 ミキハの身体がやせ細り、軽かったことが幸いした。そうでなければ、僕に彼女を受け止めることなど、到底出来なかっただろう。


「大丈夫か……?」

「……平気」


 明らかに彼女の体調は悪い。滝の様に噴き出す汗。荒い呼吸。目も焦点が定まっていない。


「いいから……行こう」


 その一言に促され、僕は軽すぎる彼女を背に乗せてゆっくりと歩き出す。一歩ずつ一歩ずつ、あの病室から、彼女が死を迎えようとしていた病室から、遠ざかっていく。


 目指すのは、僕達が出会ったあの木の下だ。

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