第25話

 「透明化」が始まってしまった者は精密な検査とカウンセリングを受けなければならない。その検査や手続きの為に、僕は病院に行く時間を見つけられないで居た。

 放任主義の両親であったが、僕の「透明化」が始まってしまった事は、流石に見過ごせない様であった。人々の「透明化」が始まって約三年、つまり、「消失」が始まって以来、「透明化」したままで元気に過ごしている人間は多い。そういった人間は全人口の約半分と言われている。だから、僕の「透明化」が始まった事が、イコール僕の人生の終わり、というわけではない。

 それでも、両親にとって一人息子である僕の「透明化」が始まったという事は憂慮に値する事であったらしい。僕はその日以来、県の中心部にある大学病院に検査の為、訪れる以外は、外に出してもらえなくなった。

 両親の心配も理解できるし、自分の身体への不安が無いわけではない。それでも、それ以上にミキハと過ごせる貴重な時間を徒に浪費しているという事実が僕を責め立てた。

 僕の「透明化」の原因は、間接的とはいえ、ミキハなのだ。その相手に会いに行く事を両親が許可するとは、到底思えなかった。




 ミキハが発作を起こしたという知らせが彼女の父親から届いたのは、ある初夏の日の事だった。

 今回は奇跡的に一命を取り留めたが、次は無い。

 ミキハとの別れは、目前に迫っていた。

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