第20話

 病院を出る頃には、すっかり夜になっていた。


 寒い。


 本当に寒い。僕は思わず自分の身を抱いた。

 冬という物は、これほどまでに辛く厳しい物であっただろうか。


 僕は一人、家路につく。あと何度、こんな風にして、ミキハに会う事ができるだろうか。もし発作を起こせば、今にでもミキハは息絶えてもおかしくは無いのだ。


 どうして、こんな状態になってまでミキハは消えないのだろう。


 「消失」が発生してから、重病人は軒並みこの世界から姿を消した。それは、生きる希望を捨ててしまったからだ。ミキハが自分の死期を悟りながらも、消えないのは生きる希望を失っていない事を意味している。まだ、この世界でやり残した事があると考えているということになる。


 僕だろうか。


 僕が居るから彼女はまだこの世界を去らないで居られるのだろうか。


 こんな考えは自惚れに過ぎない。もちろん、そういう思いもある。しかし、一方でこの考えは案外的外れでも無いと考える自分も居るのだ。


 僕とミキハの関係は「友達」だ。

 それは、互いが互いを助け合う互助組合だ。そんな風に思っていた。いや、そういう風に考える事で自分の思考を無理矢理停止させていた。


 僕はミキハの事が好きだった。


 それは、もちろん単なる「友達」としてではなく、それ以上のものとして。


 だからこそ、こんなにも足繁く病院に通うのだ。ただの「友達」がここまでするはず無いじゃないか。

 ミキハの方が、僕の事をどう思っているのかは、わからない。今まで何度も尋ねようとして、結局、飲み込んだ。それで何か決定的な裁定が下りる事になるのが怖かったのだ。


 僕は臆病だ。


 ずっと怖気づいてばかりだ。


 そんな僕でもミキハの為に何かができるのだろうか。


――でも、向こうで独りぼっちになるのは怖いな……


 さっきのミキハの言葉が頭の中でずっと響いていた。


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