第17話

「少し話をさせてもらってもいいかな」


 秋も深まり、寒さが厳しくなりつつある夜の事だった。節電の為に最低限の灯りしかない病院のロビー。病院の外に出ようとする僕に言葉をかける人影。


「こんばんは……ミキハの父です」


 二ヶ月前、ミキハと初めて会った日を思い出す。あのとき、ミキハを追い掛けてきた白髪の男性。

 あの日の事を思い出し、咄嗟に身構える。ついに娘の所から僕を排除しようとしに来たのだろうか。だとしたら、僕はどうすればいいのだろう。


「ああ、何もミキハに近付かないで欲しい、とかそういう話じゃない。むしろ、私は君を歓迎しているくらいなんだ……」


 男は低く小さな声で言った。

 声や表情からは、疲れが滲み出ていた。初めて会った時の様な峻烈さは影を潜めている。事によると今の姿が彼の本質なのかもしれない。生気の薄い彼の顔を見て、そんな風に感じた。

 話がしたい、と言うおじさんの言葉に従い、僕は病院を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る