第14話

 この日以来、僕は定期的にミキハの病室を訪れるようになった。ミキハが僕に会うために病院を抜け出した事は、ミキハの母親も理解していたためだろうか。僕が病院を訪れる事に関しても何も言わなかった。勝手に抜け出そうとされるよりはましという事だろう。しかし、僕が病室に居る間、おばさんの空虚な瞳は僕を捉え続けていた。


 僕達は、大抵の場合、オセロで遊んだ。将棋やチェスといったゲームも一通りやったが、やはりミキハは一番オセロが気に入っている様だった。

 ミキハはオセロが強かった。僕は初日の様な大敗北こそ無かったものの、一度もミキハに勝つ事は叶わなかった。

 彼女はいつも必ず「白」を選んだ。必然的に僕は「黒」になった。

 一度、その理由を尋ねてみた事がある。


「何もかもを真っ白くしたいの」


 彼女はそう答えた。


 何もかもを白く――


 そう語る彼女の表情は晴れやかだった。

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