第12話
結局、僕は裏山を訪れていた。
一週間ぶりの裏山には、いつもと同じ様にかんかんと激しい日差しが降り注いでいた。僕は定位置の大木の陰に腰を下ろす。
なんとなく訪れがたく思っていた裏山であったが、結局、ここが一番落ち着くのだった。
そして、病院の方に目をやる。ここからは病院の様子がよく見える。そして、この周囲だけ開けてもいるから、向こうからもこちらの様子は丸見えだろう。
ミキハの部屋の位置を思いだして、気がつく。ミキハの病室はこの裏山の大木の位置から近い。つまり、ここに座り込んでいる僕の事もきっと見える。
それに気がつくと俄かに座りが悪くなる。来たばかりだが、すぐに帰ろうか、そんな事を考え始めた直後だった。
ミキハの病室の窓が開いた。
そこから、黒い布の様な物が飛び出し、風に棚引く。あれは髪の毛だ。あれだけ長い髪は――ミキハだ。
そして、ミキハは僕の方を見て、にっと笑って手を振った。
僕は何の反応も返す事ができない。重苦しい黒い影の様な物に巻きつかれる様な心地がする。ぞわぞわと僕の肌を冷たい影が撫でる。
そうだ。この影はきっとあの子の黒くて長い髪の毛だ。
そんな幻を、確かに見た。
そして、ミキハは、すぐに病室の中に引っ込んだ。
僕は詰めていた息をすっと吐き出す。
だが、同時に嫌な予感がした。
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