第10話

 子供の頃、祖父が死んでしばらくして、ようやく僕は「死んだ人間には二度と会えない」という当たり前の現実を理解した。

 そのきっかけがなんであったのか、今となってはよく覚えていない。理解が現実に追いついたとき、僕は泣いた。祖父の葬式でも流さなかった涙を流した。

 それでも、子供なんて薄情なもので、次の日にはころっと忘れて、日々を過ごしていた。


 母親が猫を飼いたいと言い出したのはそんなある日の事だった。もともと母親が動物好きな事は、僕に買い与えられていた絵本が動物の物ばかりであったり、頻繁に僕を動物園に連れて行ったりしていた事からわかっていた。それでも、今までペットを飼っていなかったのは、同居していた祖父が動物嫌いであったからであった。その祖父が居なくなり、動物を飼う事に何の気兼ねも無くなった、という事だったのだろう。


「猫は絶対可愛いと思うの」


 父は、今まで自分の父親の為にペットを飼わせなかった事に負い目があったのか、猫を飼う事に特に反対はしなかった。後は、僕が「うん」と言えば、それで我が家に猫はやって来る手筈になっていたのだ。


 しかし、僕は我が家に猫を迎え入れる事を拒絶した。理由も述べず、「ただ、嫌だから」とだけ言って、我が家に新たな家族を迎え入れる事をよしとしなかった。


 結局、うちに猫がやって来る事は無かった。


 でも、その時の僕は、どうしても、僕より先に死んでしまうであろうペットの存在を、受け入れたくないと思ったのだった。

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