第2話

「私と友達になってよ」


 茹だる様に暑い夏の日の事だった。

 学校が夏休みに入ってから、僕はほとんど毎日、この山を訪れていた。家に居たって出来る事は何もない。滅んでいく世界の中で「夏休みの宿題」なんて何の意味があるというのか。

 だから、僕は蝉の音を背に、汗をだらだらと流してこの山を登った。汗が肌をなでる感覚が、まだ自分がこの世界に居るんだという事を実感させてくれた。

 僕は定位置となった大きな木にもたれかかった。そよそよと流れる風が汗に濡れた身体を乾かしてくれていた。


 そんなときに現れた少女。

 見た事のない女の子だった。歳は自分とそう変わらないだろう。高校生か、中学生か。この町に住んでいて、まだ生き残っている子供は全員知っているつもりだったのだが。

 すごく髪の長い女の子だった。腰を越えるくらいの長さまであるんじゃないだろうか。小柄でがりがりにやせた身体と相まって、まるで、髪の毛の方が本体みたいだな、なんて思う。

 あと、何故かパジャマだ。ピンク色の何の変哲もない普通のパジャマ。僕の知らない間に、パジャマを着て外出する事がトレンドになっていたのだろうか。


 そして、何より。


 彼女の身体は――――透けていた。


 女の子は、健やかな笑顔で僕を見下ろしていた。

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