ブラコン王女はお兄様と手を繋ぐ

志希

1.今日は特別な日ですのよ

 あら? あなたのお顔には見覚えがありましてよ。ごきげんよう、お変わりありませんか? そちらの方は初めてお会いしますわね。初めまして、わたくし一の大陸クォーリスティリア王国の第一王女、ヴィヴィ・エフィー・クォーリスティリアと申します。どうぞお見知りおき下さいな。


 ところでわたくし、皆様にお伝えしたいことがございますのよ! なんとですね、わたくし本日めでたく7歳を迎えましたのっ。ふふ、お祝いありがとうございます。


 7歳を迎えるというのはここではとても大切なことですのよ。

 クォーリスティリア王国では、というよりはこの世界中に存在するほぼ全ての国が3歳と7歳、それから15歳を迎える日を特別なこととしています。


 産まれた瞬間から3歳までは神のご加護を与えられ、3歳から7歳までは大精霊様に見守られて子どもは成長致しますの。そして7歳は大精霊様に祝福されて、以降は精霊たちと生きていくことになりますわ。15歳は成人のお祝いですわね。


 え、精霊をご存知ありません? 魔法を使う手助けをしてくださる可愛らしい方たちですのよ。妖精とは違うのか? そうですわね、妖精は気まぐれやさんが多いですわ。決して手助けをしてくれないわけではないのですが、精霊よりずっと小さな存在ですの。少し無理をしてしまうだけで消えてしまいますから、手助けをこちらから願うこともないと思いますわ。…好んで妖精に消えてほしいと望む方がいるなんて考えたくもありませんし。


 ところが先程も言いましたが、気まぐれやさんが本当に多いのです。自由奔放という言葉がぴったりで、精霊に願ったつもりが居合わせた妖精が張り切ってしまうこともあるのですわ。困った方々でしょう? 不幸にもそれで消えてしまう妖精がいるのです。消えてしまう前に精霊が助けて下さることもあるのですけれどね。


 大精霊様に見守られているうちは、精霊たちを間近に感じることが出来ません。資質次第、ということもありますけど少なくともわたくしは何も見えませんでしたし、話すことも出来ませんでした。尤も7歳以降に精霊を見たり、会話が可能になることの方が珍しいことなのです。


 ですが、わたくしのお兄様は幼い頃から精霊の姿を見ていたのだそうです。凄いでしょう? さすがですのよ、わたくしのお兄様は!

 …え? もちろんリルヴィお兄様のことですわ! …いえ、人伝ですがリヴィクお兄様も見えていたそうですの。元々王族は資質があるのですって。………ちょっと、どうしてそこでわたくしを見るのですか! やめて、止めて下さいなっ。残念な子を見るような目を向けないで下さいませ!


 わ、わたくしだって資質がないわけではありませんのよ。気まぐれな妖精のお姿なら何度か拝見させて頂いておりましたもの。それに、今朝目を覚ましてからは昨日までと違う空気だって感じられるようになりましたのよ。

 …お兄様のように、人と同じくらい「見えるのが当たり前」と口に出来るような資質はありませんけれど、皆無ではありませんわ。それにわたくし、お兄様からとても嬉しい事実を教えて頂いてますの。

 資質はそこそこですけれど、わたくしは精霊と相性がいいのですって。


『今は大精霊様の目があるから誰もいないけど、7歳になったら気を付けた方が良さそうだよ。ヴィヴィの傍にいようとする精霊が権利の争奪戦を起こしそうだから』


 と仰ったお兄様の顔が今でも忘れられません。笑顔だったのですよ。確かに笑っていらっしゃったのですが…その、目が鋭かったような気がしますの。


 精霊が傍にいる権利、というのはですね。精霊は基本的に一人につき一人、傍にいて魔法の手助けをして下さるんですの。精霊にもそれぞれ得手不得手はありますから、傍にいる精霊によって使用出来る魔法も変わってきます。


 例えば火の精霊なら火の魔法が。水の精霊なら水の魔法が得意になるのですわ。この世の全ての魔法を使える人なんて存在しません。今は、ですけれど。史実にはたったお一人だけ、記録が残されております。


 今は亡き古代の国、シャスラン。その国には神様に仕える巫女姫様がいらっしゃったそうで、彼女は大精霊様に愛されていたのだそうですわ。全ての精霊たちが大精霊様に従いますし、大精霊様自身が不得手とする魔法がないと伝えられておりますので、巫女姫様は恐らくどんな魔法でも使用することが出来たのだろうと言われていますの。


 あら、少々話が逸れてしまいましたかしら?

 大精霊様に愛される奇跡などそうそうあるはずがありませんから、精霊のお話に戻りましょう。


 精霊に得手不得手があるなら、補うために複数の精霊を傍に置けばいいのでは、と思われるでしょうがそう単純に解決出来るものでもありませんのよ。精霊同士にも相性がありますし、そもそも彼らは自我をお持ちですの。そして例外なく独占欲が強いそうです。これはお兄様が仰っていたので間違いありません。


 氷の精霊と水の精霊。相性はそこまで悪くなさそうでしょう? けれど精霊たちはどちらも「自分だけを必要としてほしい」と訴えるのです。ですから複数の精霊に手助けして頂くことはとても難しいのですわ。


 その難しい問題をお兄様は乗り越えていらっしゃるから、尊敬するしかありません。聞いて下さる? お兄様のお傍にはお二人の精霊がいますのよ。素晴らしいでしょう? わたくしは精霊が見えませんから直接お会いしたことはありませんけれど、お兄様の精霊は風と緑の精霊だそうですの。風の精霊も緑の精霊も穏やかな性格なのですって。お優しいお兄様にぴったりだと思いません?


 勿論精霊たちの独占欲をどうなさっているのかお伺いしましたわ。そうしたらお兄様ったら「仲良くしてねってお願いしたら二人とも素直に聞いてくれたよ。精霊にもやっぱり笑顔は大事だね」って。凄いでしょう? わたくしのお兄様。うっとり見惚れてしまう笑顔は精霊にも通用致しますのよ。


 わたくしもお兄様を見習って笑顔は大事にしているのですが、まだまだ精霊に通用する笑顔の習得には至っておりません。それどころか笑顔でお願いしても、侍女のセリサに無表情で却下されてしまうことが多々あります。とっても難しいですわ。


 どのような精霊が傍に来てくれるのかは、精霊(かれら)次第ですの。わたくしは王族ですから王族の話をしますが、7歳の誕生日を迎えるとわたくしたちは城に招いた魔導師様に精霊を視て頂くのです。精霊と直接話が出来るお兄様も例外ではありませんでした。

 その場で魔導師様から適正魔法…分かりやすく言ってしまえば属性ですわね。それを教えて頂くのですわ。


 精霊がどのような基準で傍につく人を選んでいるのかはよく分かっておりません。精霊の言葉で「傍にいたいから」とのことですから、つまりは直感なのでしょう。人とは違う存在ですから彼らの直感をバカにしてはなりませんのよ。そもそも精霊が傍に来てくれること自体に感謝しなくてはいけないのですわ。彼らがいなくては人は魔法を使えないのですから。


 …少し真面目なお話が長かったかしら?

 ごめんなさい、7歳を迎えることがどれだけ特別かご理解して頂けるようにお話したかったのですが、本筋から逸れてしまって。いけませんわね、わたくしの悪い癖です。


 わたくしが7歳を迎えるにあたって、城内はとても慌ただしかったのですけれどそれも今日までですわ。今までは主にわたくし以外の方が忙しくされていましたが、今日はわたくしが一番頑張らなければなりませんのよ。


 今から魔導師様にお会いすることになりますから身支度を整えますでしょう? お昼からはお祝いに駆けつけて下さったお客様にご挨拶しなければならないし、夜は夜会がありますの。そちらでは多くの国からの使者が招待されていますから、粗相はできません。今日は緊張の一日ですわ。


 朝からずっとわたくし、ドキドキしてますのよ。お兄様の言葉があっても、もしかすると精霊は来てくれないのではないかなんて悪いことも考えてしまいます。世界中を探しても精霊がいない人はいらっしゃらないそうなのですが、精霊の直感ですからね。………いえ、いつもとは違う何かが傍にあることは分かっているのですが。見えませんし。声も聞こえないので………わたくしも精霊をこの目で見てみたかったです…。


 …ないものねだりをしていても仕方がないですわねっ! 精霊との相性はいいのですから、きっと大丈夫でしょう!

 そろそろ準備を始めなければなりませんわ。皆さま、またあとでお話を聞いて下さいませね。もちろん、わたくしの適正魔法をその時にお話いたします。それでは、ごめんあそばせ。


「セリサ、着替える前にお兄様にお会いしたいですわ!」


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