第69話 太守

 

「なっ!」


 ウルールは開いた口が塞がらなかった。

 其ほどまでにその言葉が信じられなかった。


 数万の化け物が州都の中にいる。

 そんな事を言ったのがもし勇者で無かったら信じていなかっただろう。

 しかし、目の前で苦々しげに語る太郎を見て信じざるを得ない。


「事態が分かるかい?数万の強化兵士がいて都市があれだけ静かなんだ……州都は既に陥落していると思っていい…」


「州都が……陥落っ!?……そんな事が可能なのでしょうか?それにその数万の強化兵士は何処から現れたのでしょうか?また、あのときのように地中から?」


 混乱ぎみにウルールは矢継ぎ早に疑問を口にする。


「そうだったらまだ気が楽だったよ……けど僕の予想ではそうじゃない。その強化兵士は最初からいたんだよ。きっと」


「? それはどういう?」


「帝国は州都の人間を強化兵士に作り替えたんだ」


 ウルールは何も発せなかった。


「そうじゃなきゃこの状況は説明出来ない。州都にそれだけの数の化け物が押し込んでいたとしたら必ず何処かで目撃されているはずだ。けどそんな騒ぎは一度も聞いていない……」


「ですから帝都から地中に潜んできたのでは?」


「いや、あの強化兵士の地中の移動は能力の類いじゃないから長距離移動は出来ない」


 先程太郎が戦った知性を持つ強化兵士の事を考えると、地中移動に特化した強化兵士も作れる可能性もあるだろう。

 しかし、そこまで意図的に何万も強化兵士を作れるとは思えなかった。



「……では街の人間全てが化け物に変えられてしまったということなのですね…」



「そうなるね。ウルール、州都には何万人の人がいた?」


「え?あ、はい。確か20万弱だったかと」


「となると逃げることが出来た人間も少しはいるかな……太守が逃げ延びていてくれるといいけど」


「デモナーレ太守は強い御方です。必ず逃げのびていると思います」

 太守さえ逃げ延びていればまだこの状況を修正できるだろう。

 しかし、こんな状況では州都を奪い返したとしても州の建て直しで手一杯になり援軍を出せる状況ではなくなる。

 本来の目的であった援軍の要請は厳しいだろう。


「そうか。ならまずは太守達と合流しよう」


「はいっ」


 太郎達は大きく迂回しつつ、州都の近郊に位置する都市タブルクに向かった。


 タブルクは州都の一つに数えられるほど、州都近くにある都市である。

 太守達が民衆を連れて逃げるとしたら間違いなくそこしかなく、例えいなかったとしても幾ばくかの逃げ延びた人間はいるはずだと考えた。



 太郎達の考えは当りで都市タブルクの外壁周りには多くの人達が座り込んでいた。

 彼等は皆、憔悴しきっており目も何処か虚ろだ。


 やはり、州都が襲われてから時間はそれほど経過してないようだ。


 近くに座り込んでいた男に太郎はしゃがんで話しかけた。


「我々は旅の者です。一体何があったのですか?」


 太郎の問いかけに男は大きな身体を震わしながら答えた。


「訳がわかんねえ……突然、突然だったんだよっ!周りの人が、化け物になっちまったんだっ!訳わかんねえよな?なぁ!?」


「落ち着いて下さい」


 そのウルールの言葉に男は過敏に反応し、今度は怒りに身体を震わしながら吠えた。


「落ち着けるかっ!? 落ち着けるはずがっ!! 俺の、俺の息子も、おぉぉ、おおぉぉっァ……」


 男の言葉は嗚咽で最後まで続かなかった。

 しかし、彼の言わんとしていた事は予想がついた。

 きっと隣に歩いていた自分の息子も突然化け物になってしまったのだろう。

 目の前で愛する者が異形な化け物に変質してしまう。

 それがどれだけ苦しかったことなのか太郎には想像がつかなかった。


 これ以上この男に聞くのは酷だろうと太郎は話を切り上げる。


「すみません。嫌な事を思い出させてしまったようですね。これは礼です」


 そう言って太郎は軽食を男に渡した。


 こんな状況では食事の配当も時間がかかる。

 それに弱っているときは何か口に入れるべきだろう。


 男が弱々しく受け取ったのを確認すると太郎は立ち上がり。


「まずはタブルクに入ろう……詳しいことはそれからだ」


「そうですね……」


 ウルールの顔色が悪い事を察しながら太郎は何か口に出すことはしなかった。




 太郎達は中に入ろうと都市タブルクの城門に向かうと、数人の警備兵と思われる男達が警戒した様子で太郎達を取り囲む。


「止まれ! 現在、緊急事態により怪しい人物を通す事は出来ない」


「我々はユーズヘルム州から来ました使者です。太守ポヨヨンデモナーレ殿は此方にいらっしゃるか?」


 ウルールが前に立ち、ユーズヘルム家の家紋が印された短剣を取り出す。

 それだけで先程までの態度が嘘のように変わる。


「これは失礼致しました!」


「この緊急事態です。仕方の無いことです。それより、太守は無事であられますか?」


「はい。此方に昨夜無事逃げ延びることが出来、現在これからの事を市長と話しております」


「そうでしたか……我々とは直ぐに会うことは可能ですか?」


 ウルールは太守の無事を聞いて安心したようでほっと息をつく。


「それは太守に聞いてみないことにはなんとも言えません。直ちに使者が来た旨を伝えさせて頂きます」


「お願いします」



 その後、市長の待合室に案内された。

 二人は使者とはいえ、この緊急事態の中で直ぐには会うことは出来ないだろうと考えていた。

 しかし、意外にも早く太守ポヨヨンデモナーレと面会することが叶った。


 案内され休もうと椅子に座り込んだ途端、ドアのノックが叩かれた。

 そして、市長館の警備をしていると思われる騎士が姿を現した。


「太守が直ぐに会いたいとの事だ。着いてきて貰えるか?」


 休憩はまた後になりそうだとため息をつき、立ち上がる。

 そのまま通路を歩き、奥の市長室にまで連れられた。


 騎士の男がノックをすると、中から返事が聞こえた。


「入ってくれ」


 その言葉に従うように騎士は大扉を開き、太郎達を入るように促した。


 市長室にいたのは二人の男であった。

 一人は精悍な見た目をした30代くらいの男。

 きっちりとした佇まいからはしっかりものの印象を強く受ける。

 きっと彼がこの街の市長なのだろうと察する。


 そして、もう一人。

 市長の奥で満面の笑みを浮かべる巨漢の男。

 丸みを帯びた巨体、そして、丸い顔に口と水平に伸びた長い髭。

 太郎の第一印象は相撲取りであった。


「よく来てくれたぽよ」


 ……ぽよ? 

 変な語尾にさすがの太郎も頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 しかし、ウルールは動じた様子もなく、返答を返した。


「お久しぶりです。デモナーレ様。そしてお初にお目にかかりますパルマ市長」


 半ば察してはいたが、ウルールのその言葉で明白となる。

 この目の前に立つ巨漢がモモンガ州を統べる太守ポヨヨン・デモナーレであると。


「ああ初めまして。君がアリレムラ殿の使者か。君たちの用件は此方も分かっている。しかし、既に分かっているとは思うが今現在我々は緊急事態に陥っている」



 タブルクの市長であるパルマ・タブルクは苦々しげに話始めた。



「やはり州都が落とされたのですね」


「ああ、そうだ」


「全く、不甲斐ない話ぽよ……」


「デモナーレ様、余り気を落とさずに」


「それが出来ればよいがな……我には無ぽよ。こんな醜態を晒し、ご先祖様に顔向け出来ないぽよ……」


 ポヨヨン・デモナーレは巨体を椅子に預け肩を落として気落ちしていた。

 自分が管轄していた州都を落とされたのだから仕方のない事だ。


「そういう訳で……そちらには援軍を出すことが出来ないぽよ」


「この状況では仕方のないことだと理解しています……」


「差し支えなければ、今回の件について詳しくお聞かせしてもらって宜しいですか?」



「……そうだな。断るなら此方の事情を話すのが道理か。簡潔にだが起きた事を話したい。と言っても我々も正直訳が分からない。まず、事が起きたのは昨夜の事だ……。州都の西区画が突如、靄によって包まれた」


「霧?ですか?」


「ああ、霧だ。モモンガ州では高山以外では霧なんて見ることはない。報告を受けた防衛隊長は異常事態だと考え、州都防衛の兵士の一部を調査に向かわせた。そしてここからは向かわせた兵士からの情報だ」


 そして、州都での惨劇を話始めた。


――――――――――――――――――――――――――――


 霧は非常に薄く、視界も良好であった。

 そのせいか周りの民衆も大して気にすることもなく、普通に歩いていた。

 兵士達も心配のしすぎだった。そう思った。

 誰もが、防衛体長の気にしすぎだったのだと思った。


 その次の瞬間だった。


 男性と思われる悲鳴が上がった。

 その悲鳴が聞こえた方向に駆け出した兵士が見たのは、巨大な翼を生やした化け物だった。


 兵士は直ちに抜刀し、都市内部に現れた化け物を討伐しようとした。

 しかし、それを止めるように男が化け物と我々の間に立ち、叫んだ。殺さないでくれ!私の娘なんだ。と。

 最初それを聞いた兵士は訳が分からず、どうするべきか判断に迷い、一時立ち止まった。



 そんな状況下でふと、一人の部下が気付いたように指を指して言うのだ。

 あれ、人の形にみえませんか?と。


 何を馬鹿なと思いつつ、その指し示した位置を見ると確かに小さな子どもの姿に見えたのだ。

 醜くも変質しているが人の形をしていると兵士は思った。


 つまり、目の前の男が言っていることは本当でこの化け物は人間だと言うことだ。


 兵士は警戒をしつつ、大声をあげ、男に尋ねた。

 何が起きたか簡潔に説明せよっ!とね。

 男は動揺しながら、分からない。いきなり娘が。としどもどろに喋った。



 予想だにしていなかった事態に兵士は次の質問をどうすべきか考えていた。



 ふと、化け物と男の視線があった。

 まだ、意識がが残っているのか?誰もが一瞬そう思った。

 しかし、その期待は無惨にも裏切られた。

 男はまだ娘に意識があるのかと思い、娘の名を必死に呼んでいた。

 化け物はそれに対して首を傾げて、男に顔を近づけた。

 そして次の瞬間、男の胴体は存在していなかった。


 化け物の大きな嘴が何かを咀嚼するようにもぐもぐと動いていた。

 赤い液体が地面にぽたりぽたりと垂れる。



 ああ。と兵士の誰かが声を漏らした。

 あの化け物が今、何を食っているのか分かってしまったのだろう。

 誰もが一瞬の間、呆然と立ち尽くしてしまった。


 しかし、その間に事態は更に急変していった。


 周辺から複数の悲鳴が上がったのだ。

 そして、突如、倒壊した建物。

 揺れる大地。


 化け物が彼方此方に現れ始めたのだ。


 この一帯が危険だと判断し、直ぐ様撤退の指示を出した。


 己の手に終える域を間違いなく超えている事を理解していた。

 だから逸早くに太守様に知らせないと。

 悲鳴が上がる中、兵士は駆け抜けた。


 その最中に苦しみ蹲る男が一人いた。

 逃げ惑う民の中、一人苦しそうにしているのだ。

 我々は見捨てることも出来ず、人命救助の為、男に肩を貸した。

 男の意識は朦朧としているようで、止めてくれ止めてくれと魘されていた。

 緊急事態であったので我々は深くそれを気にせず、西区画から脱出するために駆けていた。


 幾ばくかしてよしそろそろ霧から抜ける。と思った矢先だった。


 後ろで男を抱えていたはずの兵士が悲鳴を上げ、男を放り投げたのだ。


 他の兵士はその行いに怒りを露にしたが、直ぐ様その感情は霧散した。

 見れば男の腕は歪な方向に曲がり、顔は虎のように毛を生やしていた。


 何だこれは?と私は驚愕した。


 そんな事を思っている間にも男はどんどん人の見た目から離れていった。


 肋骨が四方に開かれ、血飛沫と肉が飛ぶ。

 別れた肋骨は幾つかに組合わさり、そしてそれを覆うように肉が蠢いていく。


 その数瞬後、男の身体には六本の腕が生えていた。


 そして次の瞬間、男であったはずの化け物は飛びかかってきた。



 兵士は慌てて抜刀し、相対した。


 速さは先程の鳥の化け物と比べ遅く、何とかだが、その場にいた兵士だけで受けきることが出来る強さであった。

 と言ってもこのままではじり貧だとわかっていた。

 そんな時、後方から複数の魔術が飛び交った。


 振り向けばそこには、太守直轄の魔導部隊がいた。

 助かったと、安堵した。


 一方、魔術が直撃した化け物は苦しみながら地面をのたうち回っていたが、焼き焦げた体皮が再生し始めているのを見た。


 それに魔導部隊の者も気づいたのだろう第二陣の魔術を展開し始めた。


 兵士は邪魔になってはいけないと考え、魔導部隊の横を駆け抜け、太守の元へ急ぐ。


――――――――――――――――――――――――



「その後、彼等から連絡が届いたのだが、その時点ですでにデモナーレ様は事態の収拾の為、部隊を率いて出陣していた。先に彼らの情報を聞いていればまだ状況は変わっていたのかもしれないが、率いた部下達も霧の中で突如化け物に変容し、部隊は混乱、そして壊滅した。この時点で州都の防衛を断念し、民衆と共に此方に逃げおおせたという訳だ」


「我のせいだ……我のせいで勇敢な部下、勤勉な民達の命が失われたぽよ……」


 事の顛末を話終えたパルマ市長は覇気をすっかり失っているデモナーレに困った表情を浮かべながら此方に向き直った。



 太郎は聞いた話をある程度精査してまとめた。

 この話に出てきた化け物は革命軍を襲撃した化け物とほぼ同質である事は間違いない。

 となると謎の霧は蠱毒の血の改良版か何かであろう。

 その改良版は注射で体内に取り込むタイプではなく、呼吸器からでも可能にしたということで軍事利用にかなり近づいた成果と言える。

例えば、これを敵領土内にばら撒けば、それだけで勝敗が決まってしまうかもしれない。

 嫌なものを作り出したものだ。


太郎は口を開く。


「なるほど。状況は理解できました。突如現れた霧により民衆が化け物に変貌し、暴れた。それに対して鎮圧が不可能と判断して太守であるデモナーレ殿は民衆を率い此方に逃げ仰せた。この認識であっていますか?」


「ああ、そういうことだ」


「この状況でどう対処する所存ですか?確認した所、数万の人間が化け物に変容してしまったようですが」


「それほどの民がか……」


 詳細な人数は把握出来ていなかったのだろう。

 失われた民の命の数を聞き、パルマ市長は頭を抑え、デモナーレ太守は更に小さく縮こまってしまった。


「我々の方針は州都の奪還だ。報告より化け物には理性が無いと確認できたので全て魔物と同じ扱いにし、討伐する」


 化け物になった民衆は全て殺す。

 そうパルマ市長は言い切った。

 如何に理性を失われようが肉体が醜くなろうが元は人だ。

 この決断を下すまでにかなり悩んだことだろう。



「なるほど。真っ当な判断です。しかし、それを決行するには戦力が足りないのでは?」


「ああ、今ここにいるだけの兵力では無理だろう。その為に今、州全域に出兵を要請している」


 これは狙い目だと太郎は考えた。

 彼らは今、力を必要としている。

 数万の化け物に相対するための力を。



「……。僕の推測からすると、その計画だと難しいと思われます」


「それは何故だ?」


「まず、お伺いしたいのは、太守殿達はこの状況をどこまで理解されておりますか?」


「どこまでとは?」


「元の原因。犯行を行った相手といったことからです」


「その言い方から察するに貴方は知っているぽよか?」


「はい。恐らく皇帝側の策略かと。先日、我々も帝国勇者が率いた化け物達と交戦しましたので」


 そう太郎が答える前にウルールが答えた。

 一応、付き人として着いてきている手前、勝手に答えるのは辞めて貰いたい所だが、仕方ないかと特に指摘することなく、ウルールの言葉を保管するように口を開いた。


「皇帝は密かに人体実験を行っていました。人に魔物、魔族の力を付与する実験。そして、我々革命軍の挙兵を聞き、今回それを用いた強化兵士を利用する事にしたのでしょう」


「あれが兵士?あんなのは只の化け物ぽよっ!」  


「仰る通りです。恐らくあれは未完成なのでしょう。簡単な命令に聞きはするようですが、それもあくまで辛うじて制御出来ていると言う程度。実戦で使うにはまだ早すぎます。しかし、人を化け物に変える薬の利便性は底が知れません。簡単に只の人が超人的な身体能力と再生力を手に入れられるのです」


「なるほど。話が分かってきた。我々は皇帝側の戦力増強に利用されたのだな」 


「話が早くて助かります。中立を提言している州がいつ革命軍に与するか分からない状況下で放置しておくのは危険性が高い。だけど、此方に取り込むことも出来ない。そうとなれば、実験場代わりに利用して此方に従う大量の化け物兵士にでも変えてしまおうと考えたのでしょう」


 皇帝側の策略にもうこれでは一種のバイオテロだな、と太郎は思わずにいられない。

 非人道的で、非論理的。中立を掲げるなら、敵に寝返る可能性が一欠けらでもあるのなら、同じ帝国民だとしてもその命を軽々しく利用する。

 確かに、この強化兵を量産し完全に制御下におければ戦力的に厳しい対魔王軍への切り札になる。

 長い目で見れば、多くの人族を救う事になるかもしれない。

 目先の1を捨て後の1000を救う。

 

 けれど、それが許されることではないのは確かだ。


「ゆ、許せんぽよっ」


 デモナーレは太郎の話を聞き、怒りを露にしていた。


「ここからは予想ですが、まず私が州を落とすのであれば、まず州都、それから周囲の都市と言った風にします。敵も余程の間抜けでなければその手順で来るでしょう。となると援軍が来る前に敵となった化け物が来る可能の方が高い。そしてもし、援軍が間に合ったとしても次は兵士が減った都市を狙われる恐れがあります」 


 皇帝側が此方との合流に対しての妨害だけでならば、この時点で成功しているといえる。

 そして、その場合なら、デモナーレ達の作戦で恐らく上手く行くだろう。

 けど、その可能性をわざわざ口に出すことはしない。

 自分達を高く売るには必要のない情報なのだから。

 それに敵がこれだけで済ませるとは到底思えない。

 必ず、まだ何かしてくるはずだ。


 状況を聞いたパルマ市長は表情を青くしながら顎に手を当てる。


「それが本当となると不味いな……」


「はい。現帝国側の誰がこの騒動手引きしているか分からないですが、早急にこの騒動を起こした相手を潰さなければ被害は大きくなる一方でしょう」


「だろうな。だがそうなると、下手に兵士を州内で動かさない方がいいか。そこが付け入られる隙となる」


「そうですね。既に敵の手の内は知れています。なら対応する方法は幾つかあるでしょう。それに例え、完全に防ぐことは出来なくても被害をおさえる事は可能なはず。下手に隙を見せるのは帰って危険でしょう」


「うむ、デモナーレ様どうされますか?」


「我はそういう頭を使うのは苦手ぽよ……」


「まずは兵士を此方に召集するのを止めるべきです。無駄な被害を増やす可能性があります。州都は現在、完全に落とされており、人も残っていない。これ以上敵が増える事はありません」


「だが、そうすると州都を奪還出来ん」


「そこを我々に任せて貰えませんか?」


「使者殿らにか?」



「ええ、我々なら迅速に被害を出す必要もなく、片付けることが出来ます」


「そこまで豪語するなら本当なのかもしれんが、にわかに信じがたいな……」



「その疑念には結果を持って証明しましょう」


「うむむ……」


「ためしてみれば良いぽよ。そこまで言うのだ。きっと策があるぽよ。出来たのなら御の字。出来なくてもまた別の策を建てればよいぽよよ」


「そう、ですな」


「それで、貴方は我らに何を求めるぞい」


「我々の望みは一貫しています。援軍の協力を要請したい事に尽きます。現帝国は打ち滅ぼさなければいけない悪です。貴方方のお力をお借りしたい」


「むむむ、だが州都を奪還したとしてもこの状況で州を留守にするわけには」


「良いぽよ」


「デモナーレ様!? よろしいのですか……?」


「ここまで帝国に好きにやられて黙っているわけにはいかないぽよ。それにこの件で分かったぞい。革命軍が殺られたら次は我らぽよ」


「つまり、交渉は成立と言うことで宜しいですか?」


「うむ、成立。じゃが、分からん。州都を奪い返すだけの実力があればそもそも我らの力など不要なはず。何が狙いぽよ?」


「相手の戦力が分からない今、戦力は少しでも多い方が良いのですよ。それに貴方方が見方についたとなれば他州も動かざるを得ない。貴方方が私達の陣営に加わった……その事実が最も重要です。これで帝国は陣営的に私達の数は劣りますがおおよそ二分され、他国も介入しずらくなります」


「それが革命軍の総意ぽよ?」


「そうですよ」


「なるほど。納得は出来る……じゃが、それは勇者であるお主の狙いではないぽよな」


「驚いたね……最初から気づいておりましたか……ですが、そんな詮索をされましても私に大した考えはありませんよ」


「…読めん男ぽよ」


「デモナーレ様、勇者?ですか?」


 突然出た勇者というフレーズに困惑気味なパルマ市長。

 その反応を見てデモナーレは意外そうに眉を上げる。


「ぬ、気づいてなかったぽよか?この男は王国勇者ぽよよ」


「なっ!?」


「そういえば申し遅れていましたね。私は王国勇者の一人、東京太郎と言う者です。以後お見知りおきを」


 恭しく太郎は一礼をした。


 さて、掃討を始めよう。

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