第64話奇襲 予期せぬ出逢い


 主力部隊と別れ、後方を遅れて進軍する州兵5000と義勇兵60000は敵から見つかりにくい森の中で転々と別れ夜営の準備を進めていた。


「増えすぎたのですよ」


 数が多く、進行速度も遅くなり、若干の不安をその胸に抱きながら適当な木片に座り込む帝国勇者・音ノ坂芽愛兎は呟く。


 元より、帝国軍と革命軍の戦力差は天と地の差ではあるのだから義勇兵の加盟はある程度希望していたし、これまで加わって来た義勇兵も皆歓迎した。


 だが。


「質が足りないのですよ……」


 現帝国に不満を抱く多くの義勇兵が革命軍に名を連ねて参戦した。

 それはわざわざ他の州から来てくれた者もおり、帝国内の腐敗に耐えきれなくなり地方の州へと見限った有名だった実力者も多数名乗りを挙げてくれた。


 それでも。


 足りない。


 量ではなく、質が大きく戦況を左右するこの世界の戦争ではまだ戦力は釣り合わない。


 芽愛兎は帝国内の戦力を自分が見逃されている期間で出来る限り探った。

 自分自身が見逃され泳がされているのはわかっていたし、それこそ、戦力差を見せつけ革命を諦めさせようとしていることは薄々感じていた。


 それでも彼女は革命の希望を諦めず、今日この場に革命軍の戦力として立っているわけだが。


「懸念は、太郎くんの実力なのですが……」


 芽愛兎は王国勇者・東京太郎の姿を思い浮かべる。

 事実。

 呂利根討伐などで彼の奴隷と思われる魔族と共に戦ったりなど、自分が敵わなかった呂利根の人形達を圧倒するだけの実力。

 確かに、実力としては申し分は無い。


 だが。

 そんなことは残る帝国勇者なら軽くやってのけてしまうことだろう。


 九図ヶ原戒能、そして、喰真涯健也。


 その二人の帝国勇者を落とすことが出来なければ革命軍に勝利は無い。


 ただでさえ、模擬戦で鎌瀬山が九図ヶ原に手も足も出ないことを芽愛兎は見てしまっていて。

 だからこそ、東京太郎がその二人よりも実力が上なのか……芽愛兎はそのことに不安を抱かずにいられずにはいられなかった。


 そして……勇者に匹敵する皇帝。

 名だたる限外能力持ちの騎士団団長の面々。


 現在、他の二州は出方を伺っているようで、なんとしてもその二州が全面的に革命軍に加担してくれなければ革命軍の勝利は暗いものになってしまう。


 帝国最強の不動青雲がいなくとも、これだけの層の厚さに、本来なら同じ種族、味方なのだから安心感を覚える筈なのだが……ここにきてそれが忌々しい。


 この革命は、いわば不毛な争いだ。

 同じ種族でいたずらに戦力を潰し合う馬鹿げた行いだ。


 これは、本当に正義なのだろうか。

 芽愛兎の思考が、自らの存在理由を否定する方向に傾きかけた瞬間。


「音ノ坂様。難しい顔をして、なにか考え事ですか?」


「君は……確か、アムルス……でしたっけ?」


「はい。私は義勇軍として馳せ参じた、アムルス・シェリアです。冒険者としてSランクで活動しているものですけど……勇者様に名を覚えて貰えているとは光栄です。こちら、ミルクになりますがどうです?」


「ありがとう……貰うのです」


 座り込み、考え事をしていた芽愛兎は自分のことを見下ろす一人の人影に気付いた。

 その人影は自分の前に同じく座り込み、手に持っていた温められたコップを手渡してきた。


 そのコップを傾けて、芽愛兎はミルクを啜る。

 適温に温められたミルクは芽愛兎の思考を少しばかりは晴らす。


 落ち着いた芽愛兎は目の前の任物を視界に入れる。


 Sランク冒険者 『水衣』のアムルス・シェリア。

 その名と実力は、帝国内でも有名であり、帝国出身の冒険者でもある。


 その齢は、20代前半の女性で、青色に透き通った長髪を腰ほどまで垂らしその先っぽを布で止めている。

 若干だぼっとしたローブを羽織っており、その姿は芽愛兎の思考では魔法使いの姿に既視感を覚えていた。


「先行きが不安になるのはわかりますが、考え込むのもダメですよ。もう少し心に余裕を持たないと」


 アムルス・シェリアは微笑みながら、優しく諭すように芽愛兎に言葉を紡ぐ。


 それは、妹に対する姉のような、そんな感情を感じ取り、自分が気を使われてしまっていることを芽愛兎は感じ取った。


「……違うのですよ。ボクは勇者なのですから、少し考え事をしていただけなのですよ」


 民を導き頼られる存在である勇者は不安のあまり表に感情を出し過ぎた。


 そのことに芽愛兎は若干狼狽えながらも、表面だけは取り繕う。


「そうですか……ならいいですけれど」


 アムルス・シェリアはその態度に、疑いを捨てきれずとも、納得する様に頷いて微笑んだ。


「私には、妹がいますから。……ちょうど音ノ坂様と同じくらいか少し幼くて。私も少し敏感に成り始めていたかもしれないですね」


 ふふ、とアムルス・シェリアは笑う。


「ボクは君の妹じゃないのですよ」


「ふふ、わかっていますよ。けれども、重なってしまうものです」


 見つめてくるアムルス・シェリアの視線を感じて、マフラーで口元を隠しながら芽愛兎は逃げるように視線を下に向ける。


 自分が見抜かれていることは十分わかっていたと共に、この姿でいた事に後悔していた。

 いつもの男の姿でいないのも、音ノ坂芽愛兎として革命に参加することの覚悟として本来の姿でいたのだが……やはり、この姿では勇者として威厳にかけてしまう。


「アムルス。君以外の高ランク冒険者で参加してくれそうな人は心当たりはありませんですか?」


 アムルスのような高ランク冒険者も義勇兵として何人かが参加していた。

 今のところ、アムルスを含めてSランク冒険者は4人程名乗りを挙げ、この後方支援組の各所の義勇兵の隊長を務めてもらっている。


 元々、SSランクまでとは言わないがSランク冒険者も数が多いわけではない。

 帝国に現時点でいるSランク冒険者は公国遠征などの影響で十数人の筈。


 その誰もが、一騎当千の実力を持っている筈だ。

 出来る事なら、革命軍側に引き入れたいと思うのは自然な事だ。


「他の高ランク……ですか?皆さん帝国の内乱には基本的不参加の態度ですけど……その中でも参加してくれそうな人はみんな公国遠征に行ってしまっているのですよね。その中だと、ククラちゃんは……条件付きで。……あとは、ナツメヤシさんなら参加してくれたかもしれないですけど」


「……ッ。そうなのですか、それは……残念なのです」


 出てきた名前に、芽愛兎は思わず落胆する。


 公国でのグラハラム軍襲撃で帝国最強不動青雲が消えた今が革命の好機には違いないのだが、同時に、本来その場に居れば革命軍に参加してくれそうだった高ランク冒険者が公国遠征に行ってしまうかもしれない事は考えるまでもなく当たり前な事だ。


『賢人』ナツメヤシ


 世界に七人しかいないSSランク冒険者の名を聞いて、その人物が帝国に居れば参戦してくれたかもしれない事実に、芽愛兎の心は限りなく落胆する。




 余ったミルクを啜りながら、アムルス・シェリアと他愛ない会話を弾ませながら、芽愛兎は空を見る。

 曇り、星の見えない空は今にも雨が降りそうで、このキャンプ地にいる者達もそれを感じ取ったのか火の後始末などを始め就寝する準備を始めていた。


 明日の行軍の為に、主力部隊の後を追い、共に勝利を得るために。



 その前に。

 その為には。


 打倒しなければならない。


 試練を。そして、生き残らなければならない。


 芽愛兎達も、就寝しようとその場を立ち上がった……その刹那。


「地響き?」


 大地は揺らぎ、木々は騒めく。

 その揺れに、何事か、と就寝していた者も準備を進めていた者も立ち上がりその手に武器を持つ。


 いずれ、それは鳴り止み、杞憂だったと人々が思い始めた瞬間。


「各位戦闘準備なのです!!」


 芽愛兎が力の限り叫び。



「ヴァァァァァァァァ!!!!」




 ソレ等は、地面を食い破り革命軍の前に姿を現した。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 正に地獄絵図だった。


 革命軍の誰しもが、アレはなんだ、と口ぐちに呟きながらもソレと闘っていた。


 一見人の姿をしているように見えるそれは異常だった。

 様々な拘束具で身を固め、腕が複数あるものや、腕が無く、異常に発達した口角で食い破ってくる者。


 ソレは、人でありながら人でなく。

 一言で言ってしまえば化け物でしかなかった。





 そして、65000の後方支援軍と地中から現れた化け物は戦闘状態に入り、一時間ほどが経過した。


 夜営中ともあって完全な不意打ちを受けた後方支援軍のダメージは甚大であり、やっと持ち直したところではあるが多くの兵を失った。


 各キャンプ地、各隊長がその場の兵を指揮し、徐々に化物を駆逐する。

 ようやく指揮系統が落ち着き、一人の化け物に対して数十人で息の根を止める形で確実に仕留めていく。


 幸い、現れた化け物は数もそこまで多くなく、もう少しで制圧は完了する場面まで来ていた。


「はぁ、はぁ、この化け物達は……」


 襲い来る化け物たちを一人で何体も屠りその身を血で染めながら芽愛兎は呟く。


 勇者である芽愛兎にはこの化け物を倒すのは苦になることはない。

 けれども、革命軍は別だ。


 この化物たちは、死を恐れず命ある限り牙を向く獣だ。

 それが各地に大量発生し連携も取れないまま戦闘が始まる。

 ……考え得るだけでも最悪のパターンだ。


 今のところ報告されている被害は1万程の兵が命を落とした。


「地中から来るなんて……最悪なのですよ」


「はい、でも。やっと落ち着きましたね」


 芽愛兎の言葉に、同じく血に濡れたアムルスは杖に持たれかかりながら呟いた。


 この部隊はアムルスに加え、芽愛兎がいたことから比較的被害は少なく済み、けが人も少ない。


「すぐに他の部隊の援護に向かうのです。報告が来る限りでは、多少の犠牲はあれど壊滅した部隊はないとのこと。未だ戦闘を続けてる部隊の掩護ひいては負傷した兵の救護に向かうのです」


 芽愛兎は戦闘後、一息つく暇も無く部隊に指示を飛ばした。


 当然、それに文句を言う者もおらず、他の部隊のいる場所へと行軍を始めようとした瞬間。


 再びの地響きが起き、化物たちは再び地中から姿を現した。


「……最悪なのです」


 芽愛兎の呟きの意味を誰もが理解する。


 化物達の身体は、最初に来た固体よりも一回り大きく肥大し、雄たけびを上げ狂い叫ぶ。


「帝国は、腐りきっているのです!!」


 その化物は、人の成れ果てだ。

 人体実験で生成されたであろう化け物。

 人の命を躊躇いなく奪い、その尊厳を奪い去ってまでも兵力として扱う道徳的な禁忌。


 帝国の腐敗を、後方支援軍は誰よりも理解し、再び剣を握り魔法陣を展開し、迎え撃つ。


 各地のキャンプで、各隊長の指示を仰ぎ、化け物へと迎え撃つ。


 切り伏せでも切り伏せても現れる化け物達は倒すごとにその数は増える。

 地中から、空中から、暗闇から。


 芽愛兎はアムルスにその背を預け、最前線で闘っていた。


 余裕もない攻防を切り抜けながら。


「あ……嘘なの……です」


 芽愛兎は思わず呟いた。


 化物が湧く方向からフードで顔を隠した一人の男が歩いて来る。

 化物に迎え撃つ兵士達は援軍かと期待したが、化物達がその男を避けるのを見て確信する。


 化け物達はこの男が制御しているものなのだと。

 ならば、と。


「あいつか」「あいつがこんな化け物を」「あいつを倒しちまえば」


 数人の義勇軍の兵士は剣を持ち、その男へと駆けだした。


「止まるのです!!」


 その兵士を見て、芽愛兎は叫ぶ……が。

 遅すぎた。


「気概だけハ買おウ。だガ、無謀、ダ」


 芽愛兎も、アムルスも、他の兵士達もその光景が理解できなかった。


 駆けだした兵士たちは男に到達するやいなや、消滅した。


 否、男の手が黒く竜の顎のようなシルエットに変形し喰われた。


 風が吹き、男のフードが取れる。

 その顔を、革命軍は、義勇兵達は、知っている。

 その顔を、芽愛兎は知っている。


 元々の髪色は変質し真っ白に染まり、目元にはひび割れのような模様が広がり、瞳は紅く染まっていた。





 帝国勇者・喰真涯健也。





 その男の登場に、誰もが絶望した。

 兵士たちは言うまでもなく、高ランク冒険者であるアムルスでさえ全身が震えあがる。



 勇者から受ける殺気。

 直視することすら出来ない邪悪の姿に。


「あ……」


 その姿を視界に捉え、目があってしまったアムルスは思わず吐いた。

 何かに心を喰い潰されるように、心を絞られてしまう様に、不快感に抱えそれを吐き出すかの如く、その場で吐いてしまった。

 吐いても、不快感は変わらず、恐怖心は変わらず、震える身体は止まらない。


 それは、他の兵士も同様のように目を合わせ倒れそうになるものもいれば震えのあまり立てない者もいる。


「喰真涯の目を見てはいけないのです!!アレは魔獣エウアレスの精神汚染なのです!!」


 芽愛兎が叫ぶと共に、一斉に無事だった兵士たちは喰真涯から目を逸らした。


 魔獣エウアレス。

 それは、目を合わせた生物を恐慌状態に陥れその内に捕食することで有名な魔獣。


 喰真涯の瞳は今それと同じ効力を持っていた。

 彼の限外能力『偽りの偶像』によって。

 捕食することで、その力を取り込む喰真涯はあらゆる魔獣の能力を使える。






 無理だ。






 そう兵士の誰もが、死を確信した。


 帝国勇者・音ノ坂芽愛兎が勇者の中では戦闘に特化していない事は、帝国全土では周知の事実。

 こんなにも早くの帝国勇者の投入。

 革命軍側の王国勇者はどちらも主力部隊に居る。


 増え続ける化物に、帝国勇者という本物の化物。


「あ……ぁ……」


 アムルス・シェリアは今になって革命に参加したことを後悔した。

 精神汚染を受け、胃の中を全部出し切った彼女の全身の震えは止まることもなく立つことすらままならない。気を抜いてしまえば、倒れこんでしまう程だ。


 誰もが初めて、帝国勇者を間近で感じた。

 誰もが初めて、帝国勇者と相対した。


 そして、差を感じた。

 圧倒的に埋まることのない、埋められない確実な差を。


 化物に敵として見られる恐怖を覚えた。


 気を抜いてしまえば、自ら命を絶ってしまいそうな暗闇の中。


「大丈夫なのですよ」


 声を聴いた。


「君には、君達には、ボクがついているのです」


 それは、精神汚染を浄化する様に心に鳴り響き、不快感も、全身の震えもいつの間にか消え去っていた。


 多くの兵士がその少女の姿を見る。


 一房に纏めた金色の髪。

 口元を覆ったマフラー。


 その身長は、その場の誰よりも低く、その背中は小さい。


 けれども、その背中は、この場で一番頼りになる背中だった。


 下手をすれば、自分の娘よりも、妹よりも、幼い勇者は守るべき者達の前に立つ。


 精神汚染により恐慌状態に陥っていたものは、その声を聞いて、その姿を見て、自然と震えも止まっていた。


「貴様ゴと気に、何カが出来るとでも、思ってイるのカ?」


 喰真涯健也は前に出て、兵士を庇う様に立つ音ノ坂芽愛兎に問いかける。


「思っていますのですよ」


 その言葉に、芽愛兎の声は震えも無く、毅然とした言葉が響く。


 芽愛兎は喰真涯健也を見た。

 それは、自分が知っている彼の姿だった。


 髪の色は変色しているけれど、瞳の色は違っているけれど、それでも自分の良く知る彼だった。


 けれども、もう自分の知る喰真涯健也はいないのだ、と芽愛兎は思考を打ち切った。

 大好きだった彼はいない。今目の前にいるのは、帝国を脅かす敵だ。

 そう、決意を固め口にする。


「ボクは君を倒し、帝国を平和に導くのです」


 言わなければまた迷ってしまいそうだった。

 喰真涯健也は敵だと。


「夢物語ハ夢の中だけ二しておけ」


 喰真涯健也は言葉を吐き捨て、手を虚空に翳す。

 現れるは歪に所々が掛けた刀。


 それは彼の固有武装『死屍刀装』


「この刀は、死ヲ、恨ミを、怨恨を、吸い力を増ス。俺の中二燻ル、俺が今マで喰ラった餌の怨恨が、そのまマ、糧とナる」


 瞬間、彼が手持つ固有武装『死屍刀装』は、どす黒い淀みを生み出し呪いを吐き出す。

 淀みは刀身を覆い、禍々しさが、支配する。


 それは、再びこの場を、否、この周辺全体に呪いを振りまいたように空気を圧迫させる。


 生き苦しく、不快な空間で。


「ボクの来た道が本当に会っていたのか、ボクは不安だったのです」


 芽愛兎は誰に話しかけるまでもなく、呟く。


「革命軍に身を投じ、人々に血を流させてしまっていることも。悪とは言え、同郷の者を殺してしまった事も……けど!」


 と、そう呟き芽愛兎は虚空に手を掲げる。


「今の貴方を見てボクは確信しました!貴方を止めなければならないと、勇者としてそして同郷の者として……君を大好きになった者として!殺してでも貴方を止めます」




 僅かな発光と共に、現れるは鏡。


 呂利根を殺したあの時、手に入れた新たな力。


 迷い苦しみながら同郷の者を殺した。

 それは本当に正しかったのかはわからない。

 けど、芽愛兎は己のしたことを後悔するつもりはなかった。

 いや、後悔する訳にはいかなかった。

 勇者として彼を殺した己が迷う訳にはいかないから。


 そして、そんな芽愛兎の意志は世界に認められた。




 概念武装は勇者として真に認められた者のみが持つ奇跡の武装。

 だからこれは英雄と呼ばれるものが起こした奇跡の一端。

 音ノ坂芽愛兎の固有武装『写鏡円果』。





 そして。


 固有武装『写鏡円果』は喰真涯を写すと光り輝いてその姿を変える。


 それは、喰真涯健也の持つ『死屍刀装』と瓜二つ。


 けれども、その刀身に『死屍刀装』の禍々しさは無く呪いは無い。

 その代わりに、存在するのは淡い微かな光。


 それは振りまいた呪いを浄化し、圧迫した空気を消し去った。



 固有武装『写鏡円果』。



 それは、相対したものの武器を写し出し、その力を分析、記録するだけの固有武装。

 ただその姿を映し出し記録するだけのそれは、本来なら意味を成さない。


 けれども。


 それは、音ノ坂芽愛兎の身体の一部という概念の元存在する固有武装

 芽愛兎の限外能力『無貌の現身』の下で、その鏡の姿を変えることで、記録したその力を発揮することが出来る。


 端的に言うならば、相手の武器を模倣する固有武装。


 喰真涯の手に持つ『死屍刀装』とは違う雰囲気を持ちながらも、感じる力は同等のもの。

 この場において信じるものは自らの能力。疑問を持ちながらも特に気にせず『死屍刀装』を構える。


「猿真似ヲした所デ。意味はナイ」


「やってみなければわからないのですよ」


 写し出し姿を変えた『死屍刀装』をその手に、その呪いを、怨恨を全身で受けながら音ノ坂芽愛兎は駆けだし、その刀を振るい、喰真涯も刀で防ぐ。


 刃と刃がぶつかり合い、空間を淀ませる。


 この革命において、初である勇者同士の衝突が開始する。




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