第59話革命 始まり


いつになっても人は変わらない。

どこにいても人は変わらない。


時代、環境そんなモノに限らず、人はいつだって同じことを何度も繰り返す。



帝国による圧政。

それは、地方領が困窮し帝都だけが潤う圧倒的不平等な関係性を生み出している。


この関係性が可笑しい事など人の上に立っている者ほど理解出来る事だ。

だが、誰もそれを口に出すことはしない。


己の利益を追い求める亡者のように彼らは金、権威に集り、醜くその限られたリソースを奪い合う。


何故彼らはこの関係性が可笑しいモノと理解しつつ、止めることはしないのか?

その理由は簡単だ。


彼らはそれ以上に理解しているのだ。

全てのモノは有限であるということを。



どんなに頑張っても完全な平等なんてモノは不可能で、必ずどこかで差異は生まれ、天秤が傾く。

その傾く先が己であるとき、それは転落を意味するのだ。

だから彼らは己の立場を磐石にすべく、金を、名声を、力を求め、奪い合うのだ。


そう、人の歴史は奪い合いの歴史なのだ。

弱者と強者、敗者と勝者。

それはいつの時代にも存在する真理。

平等なんてモノは存在せず、それは只、強者、勝者から与えられる慈悲の恵みによるモノでしかなく、見かけ上の平等に過ぎない。

それを平和と呼ぶものもいるが。

そんなまやかしが長続きするはずもなく、破綻は直ぐに唐突に訪れる。

そして、また争いが始まるのだ。




それの繰り返しが、人の歴史。

だから人はどこまでいっても生物上、最も賢く愚かな生物なのだ。





革命軍総本山――ユーズヘルム洲、太守の館。

その二階、一番奥の間、会議室に僕たちは集められている。


部屋の中央に大きくその存在を主張する円卓。

そこには今回の革命の主要人物が囲んでいた。


といってもそのほとんどが僕の顔見知りだ。


王国勇者・鎌瀬山鎌成。

その両隣にはクルムンフェコニと研究所にいた赤毛の少女・ニーナ。


帝国勇者・音ノ坂芽愛兎。


そして、僕、東京太郎。


この三人が革命軍側の勇者だ。


そして革命軍側の重役ともいえる男。


「改めてようこそ。悪しき帝国を打ち砕かんとする志に賛同してくれた勇者達よ」


齢50程。

流石帝国の太守とあって、貴族にありがちな、ぼて腹ではなくその体躯はがっしりと引き締まりその身をスーツに包ませた男が声を発する。


ユーズヘルム洲、太守・アリレムラ・ユーズヘルム。


アリレムラの言葉に芽愛兎はお辞儀をし、鎌瀬山は適当に相槌を打ち、僕も適当に相槌を返す。


「私からも深く礼を言いましょう。貴女方の力を借りられなければ現帝国勇者を押し留め、腐りきった帝国に終焉をもたらすことは不可能。よくぞ、集まってくれました」


アリレムラの隣に位置する女性。

齢は僕らとほぼ変わらないように見えるが言葉の節々に力強さを感じさせ、見た目よりも大人びて見える少女。

プラナリア・ユーズヘルム


アリレムラの第3子にあたり、作戦実行時に革命軍の指揮を任されている。

肩までかかるほどのショートヘアで、剣を腰に収め騎士といった出で立ちをしている。


彼女の実力としては事前にいくらかを聞かされていた。


ユーズヘルム洲唯一の限外能力の所持者。


そもそも限外能力の保持者は圧倒的にこの世界に少ない。

魔王軍の中でも団長クラスや幹部クラスでないと所持していないとの文献は多数王国で読んだ。


けれども、人族には限外能力の所持者は魔王軍に比べて比較的多いとされている。

それは、人族のポテンシャルの低さによるものだとされている。


圧倒的に基礎能力の高い魔族たちに対して今まで滅びずに文明を残し生き残ってこられたか。

そのすべては、限外能力の所持者による個の強さ、そして統率力によるもので健闘してきたからだ。


少なくとも、人族三大王国の所持する騎士団の団長クラスともあれば大多数は限外能力を所持しているだろう。

そして冒険者、SSランクともあれば限外能力は当然所持している。

Sランク上位にも数人所持している者がいるとも聞く……耳に新しい冒険者でいうと研究所に鎌瀬山が来る前に従事していた『氷菌』のククラマセスもその一人だ。


まぁ、そんな余談はどうでもいい。

ただ、人族は限外能力で個の弱さを補ってきたと、そんな認識でいい。


「では、私は所用があるのでここで失礼させてもらう。後の話はプラナリアがしてくれる。頼むぞプラナリア」


「はッ」


アリレムラの言葉にプラナリアは強く返事をし、それを確認するとアリレムラは会議室を後にした。


それから、各種作戦や要項、それに付随する情報などをプラナリアから僕等は聞いた。


作戦決行は数日後。短期決戦を狙ったモノだ。

基本的に僕ら勇者は作戦に組み込まれてはいない。


ただ、九図ヶ原と喰真涯の二人の帝国勇者の相手をしていればいい、と。

革命軍の戦力として、限外能力を持っているのがプラナリア一人じゃ帝国騎士団に敵うはずはないのだが……その点に関しては帝国も一枚岩ではないとのこと。

こちらに寝返る勢力が帝国内に潜んでいるとのこと。

既に、大きな懸念は帝国勇者のみということだった。


作戦も特に僕は口を挟まない。

もっといい作戦はいくつもあるけれど、それをしてしまったら意味は無いし、面白くも無い。それに作戦に組み込まれていないと言うことは裏で幾らでも動くことが出来るということだ。

なら、充分この作戦でも革命を成功させることは出来る。


最終目標である国取りが達成出来るのであれば、どちらの陣営がどれだけ死のうとも問題はない。


しかし、言われれば言われる程に帝国はもう内部崩壊を起こしている。


作戦内容を話してる内に気になる話が一つ、プラナリアの口から溢れた。


「早期決戦の理由は物資の面や、兵力差を気にした側面が強いです。しかし、父上はそれ意外に気かがりがあるようで早期決戦を狙いたいようです」


「その気かがりってのはなんだ?」


「帝国勇者が召喚されて1週間後くらいからでしょうか。その時期あたりから、皇帝の方針に変化が見られたようです。地方に隠れていた魔族の討伐、捕獲。それに裏では人体実験を活発的に行うようになったと。その動きを父上は非常に警戒しているようでした…」


プラナリアが呟く。


時季的に考えられるの皇帝が革命軍を警戒して勇者に対抗できる戦力を作り出す為だという線が一番可能性が高い。

相手の戦力を増やさせる前に潰すのは筋が通っている。

しかし。


「父上は我々に対抗して戦力を増強しているわけではないと考えているようです」


「それはどうしてですか?」


「皇帝からしたら我々は潰そうと思えばいつでも潰せる存在でした。しかし、それをしなかった。そして、皇帝の我々に対しての動きが余りにも杜撰になっていることです。現に此方に有利な展開に進みすぎています」


「それで太守はどう考えているのですか?皇帝の急な方針変更を」


「可笑しい……とだけ言っていました。皇帝は可笑しいと」


「可笑しいねぇ、此方に来たばっかの俺らには分かりようがねえか」


「でも可笑しくなった原因として考えられるのは帝国勇者じゃないかな」


「あぁ。私もそう思います。彼の勇者達は一度見たことがありますが、あれ程の邪悪を見たことがないです……あれが勇者であることが信じられない」


「他の勇者の力はボクも調べられるだけ調べたのですよ。九図ヶ原の固有武装『シャルマハト』、限外能力『感覚境界』、それに他の勇者の能力……そのどれにしても人を操る能力は持っていないのです……なら」


「皇帝が操られているという話をしているのですか?確かに、皇帝の行動を可笑しいと父上は思われているようですが、皇帝はこの帝国に君臨する強者ですよ。抵抗も無く操られるなどある筈もない思いますし……」


「これは考えても仕方の無いことだね。話を進めましょう」


太郎が仕切り、話を進めようとする。


「そうですね。帝国勇者をどうするかを話しましょうか。今帝国に残っている勇者は九図ヶ原戒能と喰真涯健也です。人数では此方が有利ですが、勇者の中でもトップクラスの肉弾戦闘能力を持っている九図ヶ原戒能が恐らく一番驚異でしょう。此方の勇者で総掛かりで戦うべきです」


「あぁ、そいつの相手は俺に任せてくれ。喰真涯とやらはそこの二人にでも任せておけ」


「貴殿一人でですか?それは大丈夫なのですか?」


「ああ、問題ねえ」


そこに何の不安も無く応える鎌瀬山に、クルムンフェコニとニーナが若干誇らしげな表情になり、プラナリアの視線も頼もしいものを見るように熱を帯びたものに成る。

唯一、芽愛兎だけが気まずそうにアレを言ってもいいのか悪いのか目を泳がせていた。


だから。


「でも君、彼にこてんぱんに負けてたよね」


僕がそれを言ってあげたら、芽愛兎の顔が青ざめてシン、と場が静まり返る。


「っち。てめェはいちいち癪に障る事しか言わねぇな」


「ほんとのことでしょ?」


「安心しろ。次は負けねぇ……絶対にな。俺に考えがあるからよ」


鎌瀬山は拳を握りしめ、自分に誓う様に言葉を吐いた。

それに周りも安堵する様に鎌瀬山を見る。


「でしたら、九図ヶ原の相手は貴殿にお任せしましょう。そして、喰真涯の相手は勇者芽愛兎、勇者太郎に任せます」


「はい、喰真涯はボクに任せて欲しいのです...」


芽愛兎が思い詰めたように呟くがそんなことはどうでもいい。

注目するべきは鎌瀬山だ。


良い感じに、主人公臭さが鎌瀬山にはついてきていた。

研究所での出来事が彼を思ったよりも成長させたらしい。

むしろ、そうであってくれなければ困る。

彼には腐敗した帝国を切り開いた英雄になってもらわなければいけないのだから。


「では芽愛兎殿。先ほど、姉上が芽愛兎殿と話をしたいと言っていましたので」


「そうなのですか?……えっと、何番目です?」


「ナータ姉様です」


「ナータ様なのですね。了解しましたのです……一体何のお話でしょうか?」


プラナリアの言葉に首を傾げながらも、芽愛兎は会議室を後にする。


同時に僕も鎌瀬山に目配せをして、それを受けて嫌そうに鎌瀬山は表情を歪めるが、仕方ないようにため息をついて。


「クル子。ニーナをつれて部屋に戻っててくれ」


「……?了解」


鎌瀬山の言葉にクルムンフェコニも若干首を傾げながらも、会議室に留まろうとするニーナの手を引いて会議室を後にする。


鎌瀬山とプラナリア、僕の三人が残った部屋。


「また碌でもない話すんだろタロウ。聞きたくねぇんだが」


「随分と感が良いね」


「てめぇと残される事自体がめんどくせえんだよ」


「酷いなぁ。まぁ、それはさておき君には関係ないんだけど一応耳に入れておいた方がいいと思ってね。そのためにめんどくさくなりそうな芽愛兎には席を外してもらったし、クルムンフェコニはともかくキミを尊敬しているニーナの耳には入れないほうが良いと思ってね。ほら、詳細は彼女がこれから話すから」


視線をプラナリアに向ける。

それを受けて、プラナリアが会議室の鍵を閉め、口を開いた。


「それでは続けて、私が次期皇帝になるための作戦会議と行きましょうか」


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