第57話自作自演
「だ誰か、助けてくれぇっ……」
迫り狂う圧倒的暴力。
ドゥーンに潰される寸前、脚を負傷した男は叫んだ。
それに応えるように一人の男が現れた。
何トンあるか分からない肥大化したドゥーンの脚。
それを右手に持った大鎌で受け止めた。
周囲の逃げ遅れた人間も突如現れた男に対して困惑を隠せない。
鎌瀬山は勇者としては式典と模擬戦でしか民衆に見られていない。その為、呂利根ほど民衆に顔を知られていなかった。
その事に鎌瀬山は気付く。
此方でもこれは一度大々的に宣言しておくべきか。
「あ、貴方は……?」
自分が押し潰される直前に現れた男が鎌瀬山に問い掛ける。
「もう大丈夫だ、俺が来たんだからよ」
鎌瀬山は大鎌に力を込める
ドゥーンの巨体が持ち上がり、そして後方に吹き飛ぶ。
そして、鎌瀬山は堂々と宣言する。
「俺は王国勇者鎌瀬山釜成っ! てめえらを救いにきたっ!」
一瞬静寂に街が支配される。
その直後、歓声が沸き上がる。
「勇者様が来てくれたっ」「王国の勇者様だっ!」
「勇者様気を付けて下さい!その化け物は勇者呂利根様を殺った奴ですっ!!」
民衆の一人が鎌瀬山に忠告をする。
それを聞いた鎌瀬山が驚きの表情を見せる。
「何だと!? 帝国勇者がっ!?」
呂利根を殺ったのはこいつでは無いんだがなと思いつつ、ドゥーンに向き直る。
すると、一人の男が鎌瀬山の肩を叩く。
Sランク冒険者のオルバーナだ。
「勇者さんよっ、援護するぜ」
既に一人勇者が殺られていると言う状況、援護を申し出たくなるのは分かる。
しかし、それでは困る。
ここでは帝国勇者呂利根でも敵わなかった魔族を王国勇者鎌瀬山が一人で討伐したと言うことにしたいのだ。
だが、それをこの目の前の男にそのまま言うわけにもいかない。
鎌瀬山は最もらしい意見で断ることにした。
「いや、俺の事はいい!それよりも逃げ遅れている人達の救助を頼む!」
あえて大声で周囲の人間に聴こえるように鎌瀬山は喋る。
この会話を聞いた民衆は鎌瀬山が人思いの素晴らしい英雄のように見えるだろう。
「しかし」
しかし、目の前の男はその意見には納得できないようだ。
鎌瀬山がやられたら他にこの化け物を相手取る事が出来る人間はいなくなってしまうのだから当然の不安ともいえるが、その意見は折れてもらわないと困る。
そもそもこの化け物相手なら腕一本で済む。
まあ、そんな一瞬で終わらせるつもりはないが。
とりあえず。
「俺はこの周辺に人がいるうちは巻き込む可能性もあって思いっきり闘う事が出来ねえ!頼む!これはあんたらにしか出来ねえことなんだ!」
またしても鎌瀬山の声が周囲に拡散する。
その言葉を聞き、民衆は自分達が勇者の戦いの邪魔になってしまっている気付く。
オルバーナも納得したようで、大きく頷く。
「!? そうか!任せてくれ!」
「任せたぜ!」
鎌瀬山がドゥーンに向かって一人で駆け出す。
そして、衝突し合う。
響く轟音。
民衆は首を竦める。
様々な形に変化するドゥーンの骨と激しく打ち付け合う。
その硬度は堅いが、渾身の大鎌の一振りが骨を真っ二つに切り裂いた。
民衆から歓声が沸き上がる。
高速で行われるその激しい攻防。
化け物相手に一歩怯まずそ戦う姿は正に人類の希望『勇者』そのもの姿だった。
ドゥーンの攻撃を避けながら、鎌瀬山は民衆の様子に目を向ける。
彼らは逃げることを止め、鎌瀬山の戦いに魅いっていた。
いい傾向だ。
鎌瀬山はそう判断した。
「さて、仕上げるか」
鎌瀬山はあえてわざと吹き飛ばされる。
そして、民衆達の前に転がる。
勇者様と不安がる声が拡がる。
「大丈夫だっ!おめえらが怪我人を避難させてくれたお蔭ようやく全力で戦える!見とけ、これが勇者の本気の一撃だ」
立ち上がりながら鎌瀬山は宣言をあげる。
そして鎌を後ろに背負う。
ドゥーンが巨体を使った突進を行う。
それに合わせ鎌瀬山も駆け出す。
二つの力が衝突する寸前、鎌瀬山は大鎌を降り下ろした。
両断。
骨も肉も丸ごと、胴体を完全に真っ二つに切り離した。
真っ二つになったドゥーンは鎌瀬山の降り下ろした風圧で横に吹き飛ぶ。
鎌瀬山がぼそりと呟く。
「喰らえ、……暴食」
黒点がドゥーンに群がる。
再生する前に食らいつくす。
それで終わり。
ありがとうドゥーン。君のおかげで素晴らしい結果を得ることが出来た。
鎌瀬山は民衆の方に振り返る。
そして、静まり返る民衆の前で鎌瀬山は手を掲げる。
今日最高の歓声が沸き上がる。
誰もが鎌瀬山を讃える。
もう言葉は必要ない。十分に彼らは理解したはずだ。
鎌瀬山釜成こそが真の勇者だと言うことを。
鎌瀬山の元に民衆が集まり、人だかりが出来る。
言葉にならないような興奮した様子で話しかけるものもいれば、泣いて感謝する者もいた。
そんな人達を見て、鎌瀬山は……太郎は思う。
鎌瀬山の姿をしながら、太郎は数ミリ程口角を上げる。
己が道はやはり外道と。
今回多くの一般市民が死んだだろう。
そしてその原因を作った人物に対して民衆は感謝している。
可笑しな話だ。
今回の作戦は今後の為の布石として必要だった。
だから太郎に後悔は全くない。
芽愛兎には、これで革命によって失われる命は少なくなるとも云えた。
彼女は苦悩の末、大を救うために少を切り捨てた。
しかし、結局自分が外道な人間だと言うことには代わりない。
少しは悪の体現者らしくなったのかもしれない。
そう太郎は思う。
「勇者さんよぉ!すげえな!あの化け物を一撃だなんて!」
「てめえらが協力してくれたからだよっ。それより、まだ家に取り残されている人がいるかもしんねえ、皆で手分けして救助してやらねえと」
「流石王国の勇者様は言うことが違うな。おめえら手分けして救助活動だっ!」
オルバーナの掛け声に威勢よく変事をする冒険者達。
彼らをみた後、オルバーナは鎌瀬山の姿をした太郎に訪ねる。
「そういえばあんた今帝国から終われてるんだろ?あぁ安心してくれ捕まえようって気は一切ねえからよ。でもあんたみたいな人間がどうしてさ?」
「今回の魔族の暴動とは俺は無関係なんだが、革命軍と接触した俺を疑ってるみてえだな」
「じゃあ帝国の研究所を襲撃したって話も嘘なのか?」
「いや、それは本当だ」
研究所を襲った事を認めた事に周囲が驚愕する。
「何でなんだ!?」
「……あいつらが子どもを使った人体実験をしていたからだ。だから、潰すしかなかった。少しでも早く救わねぇといけなかったからな」
「な!その話は事実なのか?」
「……悪いが俺はもう行く。これ以上ここにいると帝都から追っ手が来るだろうしな」
「この街の奴はあんたの味方だ。何かあったら来てくれ勇者さんよ」
「……」
オルバーナは引き留める声を諫める。
止めどない感謝の言葉が背後から聞こえたが、それに反応することもなく、太郎はその場を立ち去った。
_______________。
既に種は十分に蒔いた。
後は彼に収穫をさせるだけだ。
「さあて、国取りを始めようか」
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