第31話
帝国一の繁華街。
賑わう街並みを暑苦しいローブを羽織った鎌瀬山は歩く。
その後ろには一人の少女、クルムンフェコニがとことこと髪を引きずりながら着いてきていた。
クルムンフェコニをこのまま裸で連れ回す訳にはいかないだろうと考えた鎌瀬山は一時的にだが
当然、無許可であるが幼女が戻ってくるまでに戻しておけば良いのだろうと安易に考えていた。
太郎とクルルカだが、彼ら二人は他に用がある、とすぐに部屋から消え、残された鎌瀬山達は腹を膨らませようと彼等も自室を後にしていた。
しかし、鎌瀬山はパレードに参加したことで既に帝国の国民に知られており、顔を表に出すとなると騒ぎになるのは間違いなかった。
だからこそのばれないようにローブを深くかぶり顔を隠している。
二人で歩いている鎌瀬山とクルムンフェコニ。
クルムンフェコニは相変わらずの無表情であるが、一方鎌瀬山というと彼は以外にもチャラ男の見た目の割りに異性と付き合ったことは無いので一見すると態度は平静を装っており普通に見えるかもしれないが内心は戸惑いの連発だった。
「クルコ、なんか食いたいもんあるか?」
「何でも、いい。けど、美味」
「んー、そうか」
クルムンフェコニは遠慮がちに、けれども忠実に自分の欲望を口に出す。
彼女は鎌瀬山の心を覗いた後はその態度も当初の怯えた様子から打って代わり、少し砕けたような安心した表情を見せるようにもなった。
(あそこでいいか。)
どこの店にするか迷っていた鎌瀬山はふと、目に入った料理店へと足を向ける。
店内に入ると以外にもしっかりとした内装で此方の世界の水準を余り知らない鎌瀬山も此方じゃ高級店に入るんだろうなとなんとなく理解する。
クルムンフェコニはその慣れない空間にそわそわと心浮きだったようにわくわくと心を躍らせながら、鎌瀬山が適当に見繕った注文が届くまでそわそわと料理を待った。
運ばれてきてきた普段は見ることの出来ない、見たことのない豪華な料理がクルムンフェコニの目の前に並んでいく。
彼女の瞳は戸惑いで僅かに揺れる。
「ほんと?食べて、いい?」
クルムンフェコニの不安そうな様子を感じ取った鎌瀬山は安心させるよう優しげな声音で話す。
「あぁ、食っていいよ」
その言葉を聞き、じっと鎌瀬山を見つめていた瞳を料理へと移す。
そして、マナーもへったくれもなく料理に手をつけ始める。
それを見た鎌瀬山はマナーもしっかりと教えないとなと心に近いながらも今回ばかりはいいかと微笑ましくクルムンフェコニをみる。
「ん、美味」
「そうか。好きなだけ食え。金は腐るほどあるからな」
(まあ俺が稼いだ金じゃないんだけどな……)
鎌瀬山が今使っているお金は王国から貰ったモノであり、そこに僅かに引け目を感じていた。
それに対しクルムンフェコニとは言うと今までに味わったことのないような高級料理を頬張りながら幸せそうに頬を緩ませていた。
「……結構食うんだな、クルコ」
「美味しかった」
その小さな体のどこにそんなに入るのだと言わんばかりの食べ物を吸収したクルムンフェコニに鎌瀬山は茫然とその事実を信じられずに呟きクルムンフェコニは満足そうにお腹を擦る。
食事を終えて、次に向かったのは服屋であった。
色とりどりの服が並んだ店内を見て、クルムンフェコニも流石に女の子といった具合か、心なしかその瞳は揺れ店内を見渡していた。
「俺には女の子の服ってのはよくわからねぇ。何か着たいもんあるか?」
鎌瀬山が店内を見渡しながらにクルムンフェコニに呟く。
「ん」
それを聞いてクルムンフェコニが店内を見渡して指をさす。
全体的な色を蒼に基調としたフリルのついた服。
羽、のようなものまで生え、それは天使を象徴するかのように白い。
鎌瀬山の世界の言葉でいうのなら。
それは、魔法少女のコスチュームであった。
「……あー。まぁ、こういうお年頃かぁ」
鎌瀬山は何でこんなものがあるのかといった疑問には触れず、一人納得していた。
「?」
「いや、なんでもねぇよ。で、これが欲しいのか?」
「ん」
こくり、とクルムンフェコニが頷く。
「悪いことは言わないからそれを普段着てあるくのはやめとけよな」
他にもいくつか、寝巻きや下着類をクルムンフェコニが適当に見繕い、それと数着の魔法少女服を購入した鎌瀬山は店を出ると、随分とかさばる荷物となったそれらを『空間移動』で開けた次元の穴に放り込み自室へと転送した。
「凄い」
その鎌瀬山の能力を間近で見て、瞳を揺らしながら魔法少女服に身を包んだクルムンフェコニは呟く。
「まぁな!ふつうはそういうリアクションするよな!流石クルコ!!」
鎌瀬山の限外能力は地味だ。
英雄王のように凄まじい火力が手に入るわけでもなく、幼女のように何でも治せる癒しの力を持っているわけでもない。
空間をつなぐ能力は戦争においては兵量の点で十二分に前者の二つに見劣りしない能力を発揮するが、地味であることは免れず。
普段褒め慣れていない鎌瀬山は途端上機嫌になりわしゃわしゃとクルムンフェコニの頭を撫でまわす。
「ん、釜鳴」
「なんだ?」
子供のように撫でまわされ、若干ムッとした様子のクルムンフェコニに名前を呼ばれ、鎌瀬山は何気なく答える。
「子供扱い、してる」
「そりゃあまぁな。一人っ子だったから下に姉弟もいなかったからな、クルコみたいなやつは新鮮でよぉ」
「要求。レディとして扱って」
「はいはい。そうだな、クルコはレディだもんな」
ムスっとしたままクルムンフェコニは頭を撫で続けられたまま呟き、鎌瀬山はその年相応な大人に憧れる少女感を醸し出すクルムンフェコニを見ながらその表情は微笑ましいものを見る表情に変わる。
「私、19歳。釜鳴、私より、年下」
クルムンフェコニの発言に表情は固まり頭を撫で続けていた鎌瀬山の手も止まった。
「……いや、どうみても10歳も言ってねえだろ!!」
暫しの停止の後、大声をあげる。
鎌瀬山のその反応も仕方ないものと言えた。
クルムンフェコニは小人族の血が混じっており、普通の人と比べたら明らかに二周り以上大きさが違う。
それに本人の童顔めいた顔も合いまり、一目みて彼女が19歳だと分かる人などそういない。
「私、小人族の血、混じってる、から」
「へ?小人族!?まじか。そうだったのかよ……。 いや、でも、嘘だろ……俺より歳上かよ……まじか。まじか……」
鎌瀬山は余りに衝撃に頭を抱えてしまう。
その様子を見たクルムンフェコニは自信満々に無い胸を張り、宣言する。
「だから、大人の、レディ」
「あ、ああ、悪かったよ……今度からは子どもみたいに頭撫でたりしないようにするからよ」
鎌瀬山も流石に現実を受け入れたようで、謝罪をする。
その言葉を聞き一瞬嬉しそうに瞳を輝かすが、何か思いついたようで顔俯かせる。
「あ? どうしたクルコ?」
クルムンフェコニは一度鎌瀬山の方をちらりとむけ直ぐに顔を反対に向け小さく呟く。
「……。やっぱ、たまになら」
その言葉の意味することが鎌瀬山にはわからなかった。
「え?たまになら? なにがだ?」
「たまになら、撫でてても、いい」
鎌瀬山はすぐに彼女が言わんとしてることを理解した。
撫でられると子ども扱いされているようで嫌だけど、撫でられないのはそれはそれで嫌なのだ。
矛盾してるようでその二つは両立するもので、どうしてそれが両立するのか言葉にするなら女性の心とは複雑だからだとしか説明が出来ない。
鎌瀬山はクルムンフェコニの許可というなのお願いに対して、笑顔で答える。
「ああ、じゃあ、たまに撫でさせてもらうとするか」
「……ん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます