第24話離反するものたち
「誰がいるってんだよ？」
鎌瀬山はドアへと視線を向けて呟く。
クルルカから話に聞いていた情報にあった一つに革命軍に勇者が内通しているという話があった。
まず、現在の帝国の状況は国土が荒れ、治安も良くなく国民の不安や不満は溜まっていく一方であった。
それに加え、貴族たちは私腹を蓄える事しかしないのだから更に不満は高まるのは当然な話だ。
そんな状況下であるがため、現体制に不満を持つものが反対勢力として集まり、革命軍が地方に幾つも出来てしまい、いつ武力蜂起が起きるのか分からないほど緊迫した状況だったそうだ。
その状況を打開するべく皇帝がとった手段が、勇者召喚の儀であった。
これにより勇者を無事召喚した事で武力で革命軍を押さえ付ける事に成功した帝国上層部は次は召喚した勇者たちの散財に対応する事になる、そこで勇者税として国民から徴収する事になった。
勇者税はかつてにも何度かされた歴史があり、特に不満もなくそれ事態は徴収する事が出来た。
それもこれも勇者信仰が根強く信仰されているからだったのだろう。
ここまでは式典の時にいた貴族に聞いた話でここからがクルルカに聞いた話、それと僕の推測だ。
帝国側が現状で最も警戒していることは革命勢力と勇者の接触であった。もともと強引に武力で押さえつけていることで成り立っているこの現状で勇者が革命勢力についてしまっては均衡が崩れ、内戦が起こってしまうのは明白であったからだ。
であるから式典では皇族に関わりをもつ帝国貴族しかおらず、地方で半ば独立している太守はいなかったのだろう。
……まぁ、あの帝国勇者達が接触されて革命軍に促されるなんて展開にはなるようには思えないけど、万が一がある。
警戒するに越したことはない、というのが帝国側の考えなんだろう。
そこまで分かったのなら見方が少し変わってくる。
帝国が実力主義なのは間違いないだろう。
しかし、余りに勇者の行動に対して制限が無さすぎたのは疑問だった。
お供に騎士を同伴させるだけでそれ以外は何をしても許されるといった状況。幾らなんでもあり得ない。
しかし裏の事情を知るならそれは帝国側は勇者と革命勢力が関係を持つことを警戒しているが為に勇者に対して強く言えない立場になってしまったからだと考えられるのだ。
僕には帝国は悪循環に嵌まっているようにしか見えなかった。
この流れが続いてしまうならそう遠くないうちに破綻する。
それは間違いない。
だから
僕たちが先に壊してあげるんだよこの状況を。
さて、話が少しずれてしまったね。内通者の話に戻ろうか。
帝国側は革命軍の勇者に対する接触を許さない。
だから抑止力として騎士を同伴している訳だけど、ずっと張り付いては勇者たちに不信感を与えてしまう。
そこで帝国側は仕方なく帝都アルルカントと城内に限り騎士の同伴は必須とはしていなかった。
だけど、勇者を一人にさせる訳にはいかないから諜報員をこっそりとつけていた訳だけどね。
まあ、そんな訳で勇者と革命勢力が接触するには帝都以外でないと難しい。
しかし、
「記録には帝国勇者がアルルカントから違う都市に行ったことはないそうだ」
「あ？それじゃあ、どうやって勇者と内通出来てんだ？」
「そうだね。まず、帝国勇者が地方にいく場合は帝国の騎士を同伴しなければならない訳だ。だからそれでは内通者は困るんだよ。けどもし姿を完全に変えられるとすれば？」
「騎士の同伴を無しで外に出られるということか」
「そう。それだと、一人で首都を出たとしても出都記録には残らないんだよ。そしてそういう限外能力を持った帝国勇者が内通者にいるって言っているんだ」
まあ、一つ穴がある訳だけどね。
そこで、ギィ、とドアが開く音がして視線を向ける。
そこから現れたのは茶黒い巨体。
ボサボサのボンバーヘッドに引き締まった筋肉。
黒光りするサングラス。
「おめぇは……音ノ阪芽愛斗、だったか？」
鎌瀬山が記憶を辿って、目の前の見覚えのある人物の名前を呟く。
音ノ阪≪オトノザカ≫芽愛斗≪メイト≫。
「YOU達はどこまで知っているんだYO」
彼は初めて会った時とは俄然違って、何処か真剣みを帯びていた。
「どこまでだと思う？」
「……全部知っている。そういうことなのですね？」
「君の限外能力と内通者としての動向くらいかな？」
「それを全部と言うのですよ……」
音ノ坂はそう呟いて、肩を僅かに落とし視線を僕らから反らす。
瞬間。
僕らが瞬きした一瞬の出来事。
あの大きな巨体は消え、その巨体の存在した場所に一人の少女が立っていた。
若干大きめの服を着ているから少しだぼだぼで裾が余っており、長い毛糸のマフラーでぐるぐる口元までを覆っている。
身長は2m超えから140㎝程まで小さくなり、僕らの胸元にも及ばず、長い金色の髪は頭の後ろに人房にまとめられており、赤い瞳は僅かながら揺れ動いていた。
「てめぇ、女だったのか？」
鎌瀬山は驚きの声をあげている。
「それが君の本当の姿？」
僕は音ノ坂に尋ねる。
正直、僕もクルルカから聞いていたのは音ノ坂が内通者で姿を変えられる限外能力を所持していることだけだったから、まさかあの巨漢が少女だったとは考えていなかった。
「はい。これがボク、音ノ坂芽愛斗の本来の姿なのですよ。普段の姿は、あっちの方がかっこいいですから」
「かっこいい？」
「かっこよくないです？」
僕の言葉に音ノ坂は首を傾げる。
……まぁ、人の価値観は人それぞれだろう。
千差万別だ。あれをかっこいいと思う人がいても不思議じゃない。
「話を聞きました」
一息の間を置いて、音ノ坂は僕たちを交互に見ながら言葉を紡ぐ。
「特に東京……太郎君。革命を手助けしてくれるとは本当なのですか？」
「僕はその気だよ。鎌瀬山は知らないけどね。もっとも、君は僕たちを勧誘しに来たんだろ？革命側に」
「……はい。マシュマロ公国に対して失礼ですが、帝国勇者最強の不動が帝国に今いません。これは革命側にとっては千載一遇の好機なのです。ですが……変わりに君達がいるのです」
「なるほどな。俺らは動きが読めない。武力蜂起するしたにしても王国勇者が二人いちゃあ意味がねぇってか」
鎌瀬山が会話に入ってくる。ふむ、鎌瀬山にしては考えているみたいだな。
「えぇ、ですので。君達にはボク等の側につくか静観して居て欲しいと頼みに来たのですが……」
ちらりと僕を見る。
言質はとったぞ。と言わんばかりに。
まぁ、外に彼女がいることを分かったうえで聞こえるように話していた訳だからね。
そしてそれを彼女も感じ取った。だからこそこうして姿を現して明かして何もかも包み隠さず話している。
「今の帝国は腐敗していますのです。首都だけはまだ活気がありますが他は貧困に苦しんでいますです。ボクは飢餓で苦しむ人を、帝国勇者に玩具のように扱われ殺される人々を見ましたのです。このままではいけないんです。このままではこれからも多くの人が無為に死んでいく事になるです」
そこでと一言区切り、言葉を続ける。
「王国勇者は人格者と聞きましたのです。それを見込んで、この帝国の現状を変えるべくどうかボク達革命軍に力を貸してほしいのです」
芽愛兎は小さな頭を下げる。
その下げた頭に価値があるのだと、彼女は本気で思っているのかな。
「一応話を聞いてたからわかってるとは思うけど、僕等は帝国の現状を思って革命を起こそうとしてるわけじゃないよ。君の思想とは相いれないと思うけどいいの？」
「それでも、今の帝国が機能するよりも良い結果になるのですよ」
帝国勇者唯一といってもいい人格者であろう音ノ坂芽愛斗。
聞こえの良いような彼女の言葉。弱者を助け強者を挫く。彼女もまさしく勇者といった思想をもっている英雄王のような人種の一人なのだろう。
「僕は構わない。元より協力するために帝国に残ったようなものだからね」
こういうやつは英雄王のように身内にいると何かと考えることもあって面倒くさいけど、僕にとっては帝国勇者なんてどうでもいいし、魔王を倒すのには英雄王達だけがいれば充分だろうから。
どう使うかも自由だ、無論、使い捨てにはもってこいな存在なわけだ。そうなると、こういった一直線馬鹿はコントロールしやすいから良い。
きっとこの子は僕の為に面白可笑しく踊ってくれるに違いない。
だから音ノ坂芽愛斗、君の未来は今決めたよ。
君の未来に絶望を与え、僕が救いをもたらしてやろう。
鎌瀬山にちらりと視線を向ける。僕と視線が合って、鎌瀬山は嫌そうな表情を浮かべ舌打ちをする。
「俺はあの野郎をぶっとばしてぇやりてぇだけだ。それ以外は知らねぇよ」
遠回しに、九図ヶ原を相手取るとの鎌瀬山の返答。
それに、音ノ坂も一瞬その頬が緩む。
「九図ヶ原を相手してくれるだけで負担はごっそり減るのですよ。ありがとうなのです」
目的を達成できた。
そう言って安心しきった表情で顔が緩む音ノ坂は再度頭を下げる。
「それで僕等はどうしたらいいのかな？」
「一度、革命軍と話し合ってくるのでそれまで待機していて欲しいのですよ。きっと、みんな喜んでくれるのですよ。では、ボクは急ぐので失礼するのですよ」
笑顔を見せて音ノ坂は部屋から出ていった。
あぁ、まったく。
彼女は頼む相手を間違えた。
きっとその笑顔は絶望に染まるだろう。
そして僕という悪魔の手を掴むことになる。
こういう案件は英雄王に頼むべきだった。
間違いなく、英雄王のような勇者が最適な協力者だ。
僕のような人間に頼んじゃだめじゃないか。
僕みたいな人種は最も遠ざけるべき存在だろ？
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