第23話公女マロニア
「いや、これどういう状況?」
理想郷から闘技場に戻って人がいなかったのは既に模擬戦が終えたからだと理解出来た。
だから、クルルカを宿に置いた後一人で城まで戻ってきた訳だが城内がやけに騒がしく、慌ただしかった。
何かあったのは間違いないだろうな。
けど、それを確認するのは英雄王たちと合流してからでいいだろう。
そう決め慌ただしい城の中、歩を進める。
その歩みを止めるものが一人。
「東京様、お待ちください」
振り替えるとそこに立っていたのは一人の騎士だった。
公国のエンブレムに白と青基調の鎧。
公国の近衛騎士だと一目で分かる。おそらくは、マシュマロ公国公女、マロニアの護衛の者だろう。
そんな人が僕に一体なんのようだろうか。
「失礼ながら、今現在の状況を理解されておりますでしょうか?」
「いや、全く。だから、他の勇者たちと合流しようと思ってる所ですよ」
「やはりそうでしたか。簡潔に言わせて頂きます。マシュマロ公国が魔族に襲撃にあったため英雄王様含む勇者様方はそちらに転移魔術で向かいました」
魔族の襲撃......なるほど。だから城内がこれだけ騒ぎになっているわけか。
おそらくは、転移魔術で即戦力となる勇者を送り、時間を稼いでいる間に援軍を出すつもりなのだろう。
「そうですか。全員既に?」
「余り驚きにはならないのですね......。此方としても詳しくお話ししたいので、医務室に来ていただけますか?そちらにマロニア様がいらっしゃるので」
ん?医務室?来賓室じゃないのか。そうなると、公女であるマロニアが怪我をするなんて事態そう有り得ないから魔族の襲撃の話を聞いて倒れたりしたのだろう。
「.....分かりました」
「助かります。すぐそちらになります」
言っていた通り医務室は近く、すぐ近くの端にある階段を上った後に突き当たりまで進んだ所にあった。
階段を上がった時点でドア前で警備していた兵士たちは僕らが来るのに気づいたようで中に連絡をとっていた。
するとすぐに返答が来たようで歩いてくる僕らに一礼して扉から離れる。
「此方になります」
扉の前まで行くと近衛騎士は扉を空け、僕に道を譲る。それに対して肩に手を触れ、感謝を伝えそのまま中に入る。
医務室特有の医薬品の臭いが鼻孔をくすぐる。
部屋に入ってすぐ目に入ったのは、当然マロニア公女だった。
木作りの椅子から立ち上がり僕に対して小さくお辞儀をしてくる。顔色はお世辞にも良いとは言えず、何処か不安そうだ。
自国が襲撃にあっているのだから仕方ない事だが。
「お待ちしておりました東京様」
僕も小さくお辞儀を返し、この場にマロニアがいた理由を問いかける。
「もしかしまして、ずっと鎌瀬山の介護をしてくださっていたのですか?」
そう、奥のベットには鎌瀬山が眠っていた。
疲れて寝ている訳でもないだろうから普通に九図ヶ原に負けたのだろう。
空間移動は初見殺しの能力ではあるが、式典で1度九図ヶ原には見せてしまっているから対策していれば簡単に防げられるのは予想つくし、負けも妥当か。
「介護なんてそう大層な事はしてません。殆どの傷は幼女様が治していきましたので。ですが鎌瀬山様が起きたときに誰も側について居ない訳にはいきませんでしたので私が居たまでです」
「そんな事、公女様が態々されることではないですよ」
「いえですが、今回の模擬戦は私が原因でもありましたので」
「そんな事は有りませんよ。これは我々側の問題でした。ですが、王国勇者を代表してお礼を申し上げたいと思います。ありがとう御座います」
「いえ、そんな! 頭を下げられるような事では.....」
僕が頭を下げてお礼を言うと、面食らったようにおろおろと動揺した様子をみせる。
その様子を見て笑いを漏らす。
「ふふ」
「あ.....」
「いや、失礼しました。マロニア様の反応が余りに真っ直ぐだったものでしたので。そうですね、こういうときは適当に流して頂ければ良いのですよ」
「.....はい」
羞恥からだろうか。頬を僅かに赤くして素直に頷く。視線はぼーっと僕を見つめたままに。
その様子は片意地を張っておらず、年相応な子どもらしさがあった。
この調子だといつまでいっても本題に入らないことを察し、本題にきりかかる事にする。
「マロニア様、そろそろ事態の説明を聞かせて頂けますか?」
「はい。そうですね。私の国に魔族の襲撃があったことは既に聞いたと思います。それに対して勇者様方が行ったことも」
僕は話を続けるようにアイコンタクトをする。
「転移魔術でマシュマロ公国に向かわれた勇者様は四名。王国側から英雄王様、幼女様、桃ヶ浦様。帝国側からは不動様です」
「そうですか。敵勢力の規模は判明しているのですか?」
「把握仕切れていないのが実情です。現状分かっていることは魔王グラハラム軍第一師団が公国と魔王領の境に位置するナマクリム城塞。飛行部隊である第二師団、第三師団が城塞を越え、街を襲い城塞の補給炉を絶っているようです」
「状況は余りよくないみたいですね」
「はい......城塞には約二万の兵士が居ますので粘ることは可能ですが、街には恐らく、数百から数千程度の兵士しか在中していません。魔族が相手ではそう長く持たないと思います」
「勇者が公国に行って現状の打破は出来ると思いですか?」
「はい! 勇者様方は誰も皆人類トップクラスの実力をお持ちです、普通なら多対一で倒す筈の魔族を一対多で倒すことが可能です。魔族なんてすぐに倒してくれる筈です」
彼女の勇者への思い入れはかなり強いみたいで目を輝かせ、信じきっているようだ。
「あ、それに、帝国、王国からも増援を出してくれるようです」
「そうですか。なら安心ですね」
表面上では安心した様子を浮かべるが内心では嫌な予感がした。
勇者を大々的に御披露目した直後に魔族からの襲撃。
これを勇者が解決すれば、人間側全体の士気が上がることになる。それを利用して一気に攻めようという魂胆なのだろうが、タイミングが良すぎる気がする。
もしこれが魔族側が狙ってやった事だとしたら、目的はなんだ。
「増援を出すには何日かかるか大体で良いので分かりますか?」
「増援ですか.....そうですね、帝国側が早くて2日、王国側は明日には出せると思います」
かなり早い。始めから戦争の用意をしていたということか。
つまり、襲撃のあるなしに関わらず勇者を率いて魔族を攻める事は決まっていたということだ。
それを魔族側が知っていたとするなら、相手の用意が終わるのを律儀に待たず、攻めいるのは当然だ。
「立地を考えると帝国兵が公国に着くのは早くて9日後。王国は4日後といった所か」
しかし、それにしては攻めいるタイミングが遅すぎる気がする。
王国からの増援が来るまでの時間は僅か四日程しかない。
もっと早くに攻めいる事は可能だったはずだ。
目的はこの短期間で可能かつ此方に効果的な手段。
しばし思考して答えに辿り着く。
となると、狙いは勇者か。
転移魔術では小人数しか送ることが出来ない。それを当然あちらも知っているとしたら、転移魔術で送られてくるのは盤上をひっくり返せる強い個の力を持つ勇者だと簡単に想像がつく。
人類の希望である勇者を先に仕留めることで此方側の陣営の士気、戦力を削る事で戦況を優位に進める気と言うわけか。
そうなると、問題なのは魔族側は既に勇者に対する対抗策を用意しているということだ。
魔族の情報なんてクルルカから聞いた情報程度しかない。あちらがどんな手段を使ってくるのか予想がつかない。
そして、そんな状況下で英雄王達は初実戦というわけで不安が残る。
「残った勇者は援軍と一緒に公国の援護に向かう流れでしょうか?」
「いえ、他の勇者様方は恐らく待機する事になると思います。帝国側としては戦力の集中を避けたいようでしたので」
「まあ、仕方のない事です。魔族は空撃部隊がありますから襲撃は公国だけだと限られませんし、妥当な考えと言った所ですか」
「では、東京様方は一度王国に帰られるのですか?」
「僕も鎌瀬山ももう少し帝国には残る事になります。転移魔術も今の状況下ですと、そう気安く使えませんし。マロニア様はお国に戻られるのですよね?」
「はい、自国が攻められて居るのに私だけここに残るわけには行きません。お父様は私にはここに残って欲しいそうでしたが、そんな訳にはいきませんから」
「まだ、お若いのにご立派ですね。でしたら鎌瀬山の事はもう僕に任せてお部屋にお戻られ下さい。お顔の色も余りよくありませんしお疲れのご様子。そんな状態では公国に戻るまでに倒れてしまいますよ」
「そう、ですね。では、そうさせてもらいます」
小さく笑みを浮かべ、席を立つ。
そして一礼して扉の前に待機していた近衛騎士を連れて部屋を後にした。
それを見送った後、僕は後ろを振り返り、ベットに視線を向ける。
「鎌瀬山、寝たふりはもうやめたらどう?」
「......」
「......」
「てめぇ、気付いてたのかよ」
「寧ろ気付いてなお、無視してあげてたんだから感謝して欲しい所だね」
鎌瀬山は話を反らすかのように僕に尋ねてくる。
「ちっ、でどうする気だ?」
「ん?どうする気とは?」
「なんで俺とお前が帝国に残るのかって話だよ」
「さっき聞いただろ?この状況下では仕方ない事だ」
「嘘くせぇんだよ......なにする気だってだよ?」
全く僕の言葉を信じていない様子を見てため息を漏らしてしまう。
「それは酷いな、まあ、君にも協力してもらう事になるし、話すとするか」
「俺が、てめえの企みに協力すると思うか?」
「君にとっても屈辱を晴らす良い機会だと思うだよ。九図ヶ原にはボロ負けしたんだろ?話を聞かなくても想像がつく」
「ああ、負けたさ。あれだけ啖呵切っておいてボコボコにな.....。それとどう話が繋がる?」
九図ヶ原の話をした途端、鎌瀬山の目から闘志が燃え上がる。
やはり、負けたことに相当きているらしい。
「単純な話さ、君に九図ヶ原を倒して貰いたいんだ」
「また、模擬戦をやれってか?」
「違うよ。実戦をしてもらうんだ」
「具体的にどうする気だ?」
「のってくれるみたいだね」
「まだ、のるとは言ってねえ、話を聞くだけだ」
否定的な事を言いつつも僕の話を聞いてくれるようだったので、僕は本題に一気に入ることにした。
「革命を起こす」
「...... てめえ正気か?」
その言葉を聞いた鎌瀬山は一瞬驚く様子を見せるが、直ぐに鋭い眼光で僕を睨み付けてきた。
それを意に返さず、僕は話を進める。
「正確には革命の手伝いをするかな」
「......」
「人類の危機だって理由で呼び出しておいて、戦争は僕ら任せのつもりな彼らは自分達が以下に利益を得るかしか考えていない。この状況ムカつかない?」
「まあ、そうだな」
「それに僕ら勇者だけじゃ魔族には勝てない。異世界から来たばっかりの僕でさえそれが分かる。だと言うのに彼らの危機意識は異常に低い。何故だか分かる?」
「それは、勇者信仰のせいか」
「そうだよ、さっきマロニアも勇者が何とかしてくれると信じて疑ってなかった。自国の兵を信頼するわけでもなく、まだ召喚されて間もない勇者を信じる。それはそれだけ勇者への絶対的信頼があることに他ならない。はっきりいて異常だよ」
「確かに召喚されたばっかの俺らを無条件に信頼過ぎな感じはあるな」
「別にそれでなんの問題もなく、僕らが魔王を倒せれば良いのだけれど、そうはいかない。だから、人国家最大である帝国を乗っ取り、僕らが扇動する必要がある訳だ。で、どうだい?」
「......悪くは、ねえ。だが、そう都合よく革命を起こそうって奴がいるとは思えねえが」
「それがいるんだな。適任だと思うよ。話を聞いた限りじゃ頭も回るし、十分勝算もある。」
「誰だ?」
「アリレムラ·ユーズヘルム、ユーズヘルム領の太守だ」
「知らねえな」
「まあ、だろうね。僕も此方に来るまでは名前しか知らなかったしね」
「だけどよお、此方に来たばっかのお前が革命派閥の話を知れてるって時点で此方じゃ有名な話なんじゃねえのか?だとするなら帝国側は俺らと接触させるのを嫌がるはずだろ?どうする気だ?」
「式典にも呼ばれて無いくらいだしね、皇帝は現状武力による抑えつけで回ってるにすぎないから革命派閥と勇者が手を組むのを黙って見過ごすとは思えない。しかし、それは普通に会おうとするならだ。彼等には優秀な内通者がいる。ソイツと接触する」
「方法は?」
「ん、簡単だよ。さっきからすぐそこにいるからね」
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