第15話僕らの話し合い

 式典会場で一悶着があった後、僕らは部屋に集まっていた。

勿論理由は九図ヶ原との模擬戦の事だ。


「話はタロウからだいたい聞いたが、本気で模擬戦をやる気なのか?」


不安そうに眉間を寄せている英雄王に対して、鎌瀬山はどこまでもいつも通りだ。


「 あったりめえだ。逃げられるかよっ」


「別にあっちが難癖をつけてきただけなんだし、宰相さんに話を通して貰えれば大丈夫なんじゃない?」


幼女も心配そうに模擬戦を止めるべきだと進言する。


「そうだ、それが嫌なら俺が代わりに出てもいいんぞ?」


名案だとばかりに英雄王が言った内容は、はっきりいて最悪だと思う。鎌瀬山が言った逃げられないとは物理的問題ではなく、彼自信の心の問題だ。

そういったところを英雄王は理解出来ていない。


「アア、うるせえうるせえ、これは、俺のプライドの問題なんだ。あいつに嘗められたまま終われるか」


彼等の提案を切り捨てる鎌瀬山。

相当九図ヶ原の事が嫌いらしい。


「まあ、あの手の輩はいずれ何処かで難癖をつけて争う事になるんだ。戦場の最前線じゃないんだけ増しなんじゃないかな」


「そうですね、闘技場でやるのですから命の危険もまだ少ないですし」


鎌瀬山の意思を尊重するかのようにフォローする。

僕としては、これからの事を考えるなら帝国勇者の限外能力エクストラスキルは一つでも知っておきたい所だから止める理由はない。


「確かにそうかもしれんが」


「やっぱし危険だよぉ」


「何言ってんだおめえらは、どのみちこれから魔族とも散々殺り合うんだ。人と殺り合うのに怯えてられるかよっ」



「まあ相手は同じ勇者、能力スキルも不明、これからの事を考えると良い経験になるのは間違いないだろう。それに」


「叩き潰すのには絶好の機会だ、だろ?」


僕の言葉を先取りする形で鎌瀬山が答える。


「うん、そうだ。帝国の勇者の行いは聞いたでしょ。模擬戦で観衆の前で滑稽に叩き潰してやれば、他の勇者達の牽制にもなる」


最もらしい理屈を言ったが、僕自身としては寧ろ彼等にはもっと

派手に行動してもらえた方が後になって動きやすい訳で、この模擬戦では鎌瀬山が相手に限外能力を使わせた上で負けるのが僕には一番都合の良い形になる。

まあ、鎌瀬山が勝ったとして他の帝国勇者がそれを気にするとは思えない。もしそういったまともな感性があるならそもそも異常性を隠すように行動するはずだからだ。


「うむむ....」


僕の言葉に考え込むように唸る英雄王。


「正義よぉ、俺を信用していねえのかよぉ?」


「信用はしているが、心配するのはそれとは別問題だ」


「はあ、それは分かるけどよぉ」


鎌瀬山は頭を抱える。


「やはり、ここは俺に任せておくんだ」


「いやいや」


「近接戦闘に関しては俺の方が優れているだろ?適材適所だ」


適材適所、なんと便利な言葉だ。

これから僕も使うことにしよう。


「確かに正義の方が強いけどよぉ、俺がやらなきゃ意味ねえんだよ」


「英雄王、心配するのは悪い事じゃないけど、過保護過ぎるのはこれからの事を考えるなら愚策だよ。これから何かと戦う度に君はそうやって行く気なのかい?」


どうして彼が今になってそんなことを気にするのかが分からない。

敵と殺し合う事、それは初日に聞かされ、それでも尚、皆自分の意思で決めたことのはずだ。


「するさ!それが普通だろ? それとも、俺は間違っているのか?」


間違っている。

それは、間違っているよ英雄王。



「英雄王君.....?」


「正義.....?」


英雄王の何処か可笑しな様子を皆感じ取った。


「俺が式典にあのまま残っていれば....」


彼が溢した後悔の言葉、彼自身そんな深く考えていた訳ではなかったのだろう。

けど、それを聞いた瞬間、蜜柑の眼光が鋭く光った。


「残っていれば、何ですか?」


「えっ」


「自分ならもっとうまくやれたとでも言うんですか?それとも、自分が九図ヶ原の相手をしたとでも言う気ですか?                          私達を嘗めているんですか....貴方は?」


普段の蜜柑らしくもない怒りに満ちた強い口調。

英雄王が漏らしたその言葉が、自分達の事を全く信頼していないという事実が蜜柑の感情を昂らせていた。


信用はしているが、信頼してくれていない。


それは残酷な事だ。


同時に不快でもある。


信用しているのに信頼していないのということは、彼にとって僕らは価値を持ち得ない人間でしかないということだ。



だが、英雄王の考えを否定する気にはならない。

僕自身も信頼しているのは僕自身だけだ。

言葉ではなんと言おうが、他人は頼るべきではなく、利用すべきものでしかない。


何故なら、

利用し、利用されるそれが人間関係だ。




「そういうつもりは」


蜜柑のいつもと違った覇気を感じて戸惑った様子を見せる。

他の二人もそうだ。

しかし、蜜柑は気にも留めないで顔を近づけ詰問する。


「では、どういうつもりですか?」


流石に不味いと判断したのか幼女は蜜柑を止めようとする。


「蜜柑ちゃん、落ち着いてっ」


「私は至って冷静です」


「.....もともとは俺のせいでこんな事になったから」


「貴方のせい? もしかして初日の事を言っているのですか?それともついさっきの事ですか?」


「.....違、う、俺は......」


いつもの英雄王らしくない弱い姿、顔色も青く、何処か茫然としている。


「違う? では貴方はー」


「み、蜜柑ちゃん」


「アアァッ!さっきからうるせえんだよッ!!! 俺の喧嘩なんだ! 俺はあいつの喧嘩を買った!だから殺り合う、それで決まりだ! だから、お前らはもう何も口出すんじゃねえッ!」


突然、鎌瀬山が大声で叫んだ。

それにより、ヒートアップした蜜柑も顔色が悪かった英雄王も何処か気の抜けた顔を浮かべる。


そこで僕が後押しする形で鎌瀬山の言葉に乗っかる。


「そうだね。そもそもこれは鎌瀬山が決めたことだ。彼の意思を尊重しよう」


僕の言葉を受け、冷静さを取り戻した蜜柑は僕の意見に沿った形で賛同する。


「......もう決まってしまっていた事でしたね。本人同士に異論がないのですから止める理由はありませんでした」



黙ったままの二人にもう一度確認するかのように鎌瀬山が二人を見る。


「分かったなお前らも?」


雰囲気の悪さを感じ取って幼女も大人しく頷き、英雄王も渋々と認めた。


「うん、そうだね」

「分かった......」




「ふう、じゃあ、これで話は終わりだ。僕はもう部屋に戻らせてもらうよ」



「私もこれで。幼女さん。先程はすみませんでした」


「ううん、大丈夫だよ。皆おやすみ」


そういって部屋を後にする僕らを二人はから笑いで見送った。


「ああ、おやすみ」

「お疲れさまよっと」



確実に、僕らの関係に少しずつ変化が起きていた。

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