第2話勇者と悪の体現者
王様との謁見後、僕たちは各自割り当てられてた部屋で休息をとっていた。
ドアをノックする音が聞こえたので適当に返事を返す。
「どうぞ~」
「失礼いたします」
綺麗な動作で一礼した男は、鉄製の
「どうしましたか?」
「お食事を用意を出来ましたので皆様方をお呼びに参りました」
「ああ、分かりました。直ぐに行きます」
特に準備することもない僕はベッドから体を起こし部屋を出る。
僕が部屋を出た時点で他の皆はもう集まっていたみたいで、
「では行きましょうか」
と来賓室に向けて長い廊下を歩いていく。
近衛騎士のようなこの人に興味があったのでどんな人か聞いてみたところ。
王宮騎士団第一師団副士団長だそうで、やはり僕の想像していた近衛兵とそう大差ないみたいだ。
名前はエ―ゼルハルト・シュタインバッハ。僕の没個性に溢れた名前とは雲泥の差だ。正直羨ましい。
家柄も公爵家の長男で、才能もとんでもなくて天才騎士と呼ばれているらしい。でも僕程じゃないみたいだけどね。
「そういえば、ここの食事はどういうのなんでしょうか?」
「王様の食事なんて凄い楽しみぃ」
僕の言葉に反応して嬉しそうに幼げな笑顔をみせる
「そうですね、確か今日は、
「えぇッ~。兎さん食べるなんて可哀想」
げんなりとした顔を浮かべる幼女と反して英雄王は少し嬉しそうな顔をする。
「兎か、しかも魔物の。食べたことないな。楽しみだ」
英雄王の気持ちは僕も分かる。
だって魔物なんていう未知の食材での料理だよ。心踊らないわけがない。
「魔物の肉は普通の獸肉と違うものなのでしょうか?」
少し心配そうは顔を浮かべながら質問したのは蜜柑だった。
きっと食の安全性が気になるのだろう。
心配する気持ちは分からなくもない。魔の物の肉だからね。
魔なんて禍々しい文字がついた肉をほんとに食べれるのか不安は僕もある。けど、それ以上にやっぱり未知の食事ってのは楽しみなものだ。
「そうですね、魔物の方が比較的貴重で美味しいとされてますね。この国でも白兎の肉は高級料理として扱われていますので、食べられるのは極小数の貴族ぐらいです」
「ほえぇ~。高級食材.......」
「では安全なのですね。良かったです」
「まあ、そうですね。王も食事されるものですから毒などの警戒は酷しいのでご安心下さい」
「こちらです。どうぞお入り下さい」
シュタインバッハはドアを開け、僕らを部屋に誘導する。
先の上座に位置する席には既に王様が座っている。その席の回りには侍女の人達が一列に綺麗に並んでいる。
「おお、待っていたぞ、勇者たちよ。どうぞ、好きな席に座るといい」
王様は僕たちが来ると立ち上がりに大袈裟に手を広げ歓待してくれた。
それに従い、各自席につく。
机の前に並べられる食事の数々は品数でいえば20、そして量でいえば20人は食べれそうな程の量がある。
僕たち5人とそして、王様の六人では到底食べきれない量だ。
「まずは、ぜひ我が国自慢の料理を食べて貰いたい。さあ好きに食べてくれ」
「「いただきます!」」」
言われた途端に手をつけ出す英雄王と鎌瀬。それにつられ幼女も小さな声でいただきますと言って料理に手をつけ始める。
。
「あー、じゃあいただきます」
「では.....いただきましょうか」
僕らもそれに習い食べ始めた。
料理はやはり日本と大きく違い、独特な香辛料を使っているのが多くある。
しかし、味付けは薄めのものが多く、素材自体の味を楽しむもののようだ。
ここに並ぶのは王様が言っていたようにこの国の名産が並ぶのであるなら、肉の種類の多さ、魚類が一切無いことから海には隣接されてなく山や平原に囲まれている地形に位置するのだろう。
エーデルハルトが言っていた白兎のソテーは外は油でからっと揚げられ中は子羊の肉のように柔らかく口の中で溶けるようだった。味は甘辛と言った所で少し甘めのソースの中にピリッと辛い調味料が含まれていて味を引き立てている。
うん、美味しい。
蜜柑も表情の変化が分かりにくいが満足気の様子だ。
食事が一通り終わった所で王様が口を開く。髭にはソースが付いてる。
「ではそろそろ本題に入ろうか」「まずは、そなたら勇者に与えられた特殊な力の話じゃ」
豪華な食事に目移りをしていた僕らの注意は一斉に王様の元へと向かう。
何故か一言も話していなかった鎌瀬山と英雄王、幼女の瞳は期待に満ち溢れたように輝いていた。
蜜柑も本心に出さないようにしていたようだけど、若干か気になっているような素振りを見せる。
とりあえず、僕も期待に満ちた目をして王様に向ける。
「ステータス、と頭の中で念じてみるのじゃ。さすれば、目の前に自らのステータス画面が現れるはずじゃ。
「はい!」「わかりました」「わかったぜ」
英雄王、幼女、鎌瀬山が各々に返事をする。
余りにもテンプレ過ぎる展開に内心では呆れてしまうが、言われた通りに念じてみる。
ステータス。
東京タロウ。
称号 悪の
能力 限外能力 『
「……なんだこれ」
全く持って意味の分からない単語の羅列に思わず首をかしげる。
いや、言葉はわかるけど意味がわからないと言うべきだろうか。
……だが、これが僕の考えた通りの能力なら。
あと称号が可笑しい気がする。それともこれが普通なのだろうか。
「俺は称号勇者ってでてます。固有武装ってところに聖剣テトラってあります」
「わたしもです!!わたしは聖杖プエルカですぅ」
「俺もだぜ。俺は……聖鎌ジャポニカ?名前ダセェ……なんだこりゃ」
「おお!!固有武装まで最初から持っておるとは!!伝承では世界に勇者と真の意味で認められた時にしか授からないと言われる勇者にしか扱えぬ聖の武具。そなたら流石じゃ」
そして、上から英雄王、幼女、鎌瀬山が順に口を開く。
他の三人には勇者の称号があるみたいだけど僕にその称号はない。
「あとは……限外能力が『
「わたしはぁ、限外能力が『
「俺の限外能力は『
「限外能力もよいものが揃っておるようじゃな」
王様の浮かれようからして中々にすごいものらしい。
まったく、こっちの世界でもこいつらは目に見える主人公補正を受けるんだな。
僕とは真反対にいる奴らだ。
「タロウ様」
王達の前面に出ている三人とは裏腹に、後方にいた僕とその後ろに隠れる蜜柑。
蜜柑が他の人たちには聞こえることの無いように僕の耳に囁く。
「私の称号は勇者。固有武装が聖槍。限外能力は『
どうやら僕だけが勇者ではないようだ。
ここで蜜柑だけが言わないのも変なので言うように促す。
「私の称号は勇者。固有武装が聖槍。限外能力は『
蜜柑が僕に告げた事をそのまま喋り、また王達の声が歓喜に包まれる。
「おお、そうじゃ!!東京タロウはどうじゃ!?」
そして、当然話の矛先はいまだ何も喋っていない僕へと向かう。
さっきまでは称号をそのまま話すつもりだったのだが、他の奴等と明らかに違う事が分かった時点で隠す事にした。
きっとこれはもし言ったら、瞬間的に討伐されるタイプの危ない奴だろう。
限外能力は.....言うべきなのか?この限外能力はもしかしたら称号と関わりがあってこいつらに断定される可能性があるか。
固有武装も……七つの原罪とかいかにも悪い奴が使いそうな名前だ。
仕方ない。これはアレだ……巻き込まれた人を装おう。
「あー、僕は、勇者じゃないです。ただの巻き込まれた人みたいですね」
僕の言葉にあれだけ期待に満ち溢れた目で僕を見ていた王のテンションはガタ落ちし、英雄王と幼女はかわいそうな人を見る目で僕を見て、蜜柑はこの世の終わりのような表情をして青ざめて、鎌瀬山は拳を握りしめてみんなにわからないようにガッツポーズした。
はあ、やれやれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます