結の七 狩りを愉しむ狼の目
明寺を送り出した後 一瞬、天野と視線が交差する。忌々しげに睨んでくるが、すぐに目を逸らし高度を下げる明寺に銃口を向けた。
ふぅ と情けない息が漏れる。明寺には虚勢を張って大きなことを言ったが、実際はそう長くはもたなかっただろう。床に散らばった大量の電池、そして一気に軽くなった両のポケットがそれを物語っていた。
二年前に僕が天野の工作員から身内を守るために会得した奥の手で、誰にも知らせていなかった危険な秘術。
とはいえ僕が出来るのは5000円分の電池でたった二秒の間、秘剣増幅フィールド内のように秘剣が使えるというだけ。しかも得られる秘剣エネルギーは電力の5%にも満たず、あまりにも非効率だ。
しかし、それはあくまで僕の事情。もしかしたら僕以上に効率良く変換が出来る何者かがこの技術を覚え、悪用するかもしれない。その恐れから人前でこの技を使うのを避けてきた。
でも今回使ったことに後悔はない。未来への危惧なんかが今、人を助けない理由になりえる訳がない。それに……
地面に転がった電池をせっせと拾いつつ、明寺を目で追う。
あの子はとっくに僕の守りたい身内になっていた。そんな彼女の背中を押せたなら、出費も後片付けも苦にはならない。
アサシンさんが作ってくれた一瞬の隙を見て、一気に高度を下げる。
しかしすぐに銃弾の嵐が行く手を阻む。やはり簡単には近づけない。
それでもこのままではじり貧。また観客席の所まで追い詰められてしまうかもしれない。
ならば……飛来する脅威を最低限の動きで避けながら、右手で掴んだ2号を強く持ち直し決心を固める。
弾丸と弾丸のほんの僅かな隙に唱える。
これで距離を一気に詰める。前と違うのは、最短距離で突っ込んでいること。真っ直ぐに向けられた銃口めがけて急降下する。
副会長は一瞬たじろいだものの、すぐに残酷な笑みを浮かべ、その得物が再び火を噴く。
鏡花を射貫こうとする弾丸との距離はほんの一瞬で埋まる。とても避けられない。避けるつもりもない。
「ごめんね 2号」
そう呟いて、スケボーを掴んだままの右手を前に。すぐに強い衝撃に襲われる。
詰めた距離が押し戻されんばかりの力を2号が一身に受け止める。
鏡花を一発で貫くだろう弾丸だけど、2号はそれを弾き続ける。
確信はあった。急ごしらえの弾丸がいくらあろうと、二週間を共に過ごし強固な絆を感じた2号は砕けないと。
しかし、それだけに罪悪感が胸を苛む。そんな友を盾代わりにしているのだから。
ごめんね 2号。
溢れ出る涙もそのままに
常に凄い力で押さえつけられているような状態で少しずつしか進まない。それでも距離が縮まっていることに変わりはなかった。
苛立ちを隠さない副会長は遂に連射を止める。
その刹那、機関銃の輪郭が曖昧になりその構造が組み変わる。その後ぼんやりと形作られたのはバズーカだろうか?
2号が砕けないのを見てもっと火力が高い武器に持ち替えようって訳だ。
それは僅かな時間の出来事。しかし、距離を詰めるには十分だった。
一瞬で正面に迫り、2号を振り抜いて作りかけのバズーカ擬きを叩き落す。
地面に落ちたそれは光を纏って霧散した。
そのまま2号を振り上げ、副会長を狙うが後退して距離をとられる。
これでようやく丸腰。……ではないんですよね。
彼の両腕から立ち昇る赤黒い炎に目がいく。
未だその真髄を見せていない謎の秘剣。しかし一定の距離を保っていればそんなに怖くはなさそうだ。
副会長が何も仕掛けて来ないうちに、彼と鏡花の間の空間の至る所に
しかし副会長は動かない。こちらの出方を窺っているのだろうか?
その時、遂に彼は一歩を踏み出した。
鏡花は内心ガッツポーズ。時間は十分にあったから陰引金で組んだプログラムは会心の出来だ。
しかし、直後呆然とすることになった。
「え? 何で……」
副会長は全ての罠をこともなげに回避して近づいて来る。
まるで見えるはずがない陰引金が見えているかのように。
近寄らせちゃ駄目なのに、近づけないように必死で考えたのに……どうして。
体の震えが止まらない。 考えないと、時間を稼がないと、その一心で副会長の目を睨みつけた。
その時初めて気づいた。以前とは様子の違う彼の目、深い青色に変わった瞳に。
「何時カラコン付けたんです? 似合ってませんよ?」
そんな素の反応をした直後、腹部に鈍痛。
焦がれる様な熱さと共に鏡花は後方に殴り飛ばされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます