転の三 12の砥がれた牙
クラスの皆が教室で睡魔と戦っている裏で、今まさに鏡花だけを観客に夢の一戦が始まろうとしています。
兼定の現役6位と伝説のOBとのスパーリングです。
アサシンさんの言いつけで、鏡花は秘剣で具象化したスケボーに乗ったままの観戦です。
ぐらつきますし、維持するのに非常に骨が折れます。
ですが鏡花、この勝負片時も見逃さず、目に焼き付けようと思います。
開始直後、先に動いたのは鴨原先輩。地を蹴ったと思ったら、高く跳び、いや違う、飛んだ。
大きな翼を具象化し、飛翔。それはddsにおいて非常に有名な天野御使のユニークスタイル。
鴨原先輩があの天使の様な出で立ち、副会長の正式武装で現れたのはコスプレでもはったりでもなく、そのスタイルで戦うからですか。全くとんでもない人です。
流石は[麗しの
選手の情報を分析し切る過程で、模倣出来る域にまで行き着くとは。
昨日脅しまがいの尋問を受けまだ怖いですが!
やはり尊敬すべき選手なのは疑うべくもないです。
そしてこれでアサシンさんの意図が分かりました。
副会長のスタイルと戦うことによって、彼が攻略法を見つけ、鏡花が学ぶ。
そういうことですね。
宙高くに陣をとる鴨原先輩は淡い光と共に、剣を矢に盾を弓に持ち替え、アサシンさんを狙う。
対する彼は開幕から微動だにしない。
弦が軋み、弓が呻る。
その刹那、アサシンさんの姿を見失う。
実際には秘剣による目で追えない程の速度での2点間移動。
それを縦横無尽に繰り返しながら鴨原先輩に迫る。
トラップや加速など利用の幅も広く、相手に悟られない。
これこそ不利を覆すために浅間真翔が磨き抜いた牙。
まさか生で見れる日が来るなんて!
遂に背後をとった彼は片翼を掴む。
しかし鴨原先輩は何時の間にか弓から持ち替えていた盾で即座に振り落とす。
アサシンさんは高速で落下するものの、バク転の要領で無事着地。
その手には何時の間にか鎖の様な物が握られており、その逆サイドは鴨原先輩の翼に絡まっている。
先ほど翼に触れた時に仕組んだ秘剣だろうか
それが強く引かれると彼女は地面に叩きつけられる。
とはいえやはり無傷、バリアのように秘剣を展開し、衝撃を殺しきった。
その後は激しい打ち合い。
(恐らくは)四肢や目に
この攻防が数分間続き、鴨原先輩が疲れたと音を上げたことによって終了した。
あぁ神よ仏よ
鏡花はこれを特等席で堪能できた幸せを噛み締めます。
大粒の汗を掻き、肩で息をする。
思っていた以上に体が動かなかった。従妹やファンに情けない姿を見せてしまったものだ。
汗をタオルで拭いながら、ダルそうに壁にもたれる偉皆に声をかける。
「実際やってみてどうだ? そのスタイル。」
今は翼を失くした天使といった風体の偉皆は、苦々しい顔で
「ふざけた戦い方ですよ。翼とかバリアとか燃費悪すぎです」
そう答える。
秘剣の具象化は、顕現対象をより確かにイメージ出来る程、強固に顕現でき、バテリアへの負担も少ない。
人体の飛行やバリアなどはイメージがし辛く、負担も少なくないはずだ。
「案外と天野君は、想像力逞しいんでしょうかね? どちらかというと現実主義者に見えるんですが。」
副会長の人格についての推測は概ね偉皆と同じだ。彼とはそこまで面識はないが、確か二年前はもっと堅実なプレイスタイルだったはずだ。
それを考えると、今のは明らかにメディア受けを狙ったもので、彼の性に合ってない。
ただそれでも……
「それでもランク3位なんですよね。 本当の得手を隠したままで」
僕の思考を先読みしたかのように偉皆が嘆く。
もう動きたくないとごねる偉皆をよそに、放置していた明寺の方に目をやる。
いまだキックボードに乗っており、バランスも安定している。
長時間の秘剣の顕現に成功しているのに、それも気にしてない様子で恍惚とした表情だ。
「思ってたよりも大分早く足が完成したね。」
「えっ 何すか? 足?」
声をかけられ、我に返る明寺。動揺したのか少しバランスを崩す。
「スケートボートの事。それは君が失くした機動力を補ってくれる。」
「マジですか! これで鏡花も闘えますね!」
今気づいたのだろう。大袈裟にガッツポーズをとりながら目を輝かす。
「あぁ。 明日からは偉皆を相手に実戦練習だ。」
明寺は青ざめるが気にせず続ける。
「そして今からは、副会長が本気になった後のため特訓ね。」
そう言って僕は視認出来る12個の光の球を自分の周りに創った。
明寺は何をするのかと小首を傾げる。
「これは自動追尾弾。 撃つから頑張って避けてね。」
よーいどん! そう言い、指を鳴らすと一斉に光の筋を明寺に向かい延びていく。
その光景に彼女は悲鳴を上げ、大慌てで逃げ出す。
着弾しても痛みはせいぜいデコピンをされる程度のものだが、その威力を知らない彼女は必死の様相だ。
幾秒も経たないうちに彼女は転倒。次々と光が彼女を貫いていき、痛ててぇと言う悲痛な叫びが室内に響いた。
そんなメニューに、僕との組み手を入れてローテーションする特訓の日々も残り三日と終わりにさしかかる頃、事務所からある人物が僕との面談を希望していると聞かされる。
断る理由もなく、夜の公園でその相手を待つ。
「すいません。 お待たせしてしまって」
穏やかながら、聞き取りやすい澄んだ声に振り向くと、外灯に照らされて青年が立っていた。
その瞳は愁いと慈愛満ちており、その髪は星々の光を皆集めたかのように黄金色に輝いて見えた。
その誰もが振り返る容姿。柔らかな物腰。
[
彼に間違いなかった。
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