四、受け身が好きになる秘訣?

 第一部の小さい子供クラスが終わって二部の中学生のクラスになった。

「それじゃあ、今日は受け身からね」

 道場の隅っこで愛氣が言った。

 十人くらいの中学生達が第一部の子供達のようにお互いに投げたり投げられたりの稽古をしている。

 さすがに中学生ともなるとかなり動きも早く、よどみがない。

 他の子達は知らない子ばかりだった。

 どうやら、みんな結構中学はバラバラらしい。

 中には親に車で送り迎えしてもらって通っている子達もいるようだ。

 教えているのは第一部に続いて亜美さん。

 さっき、年聞いたら一七歳の高二だそうだ。

 俺はてっきり大学卒業したくらいかなと思ってたけど三つしか違わないんだな。

 ……有りだよな。全然。

「何、ボーッとしてるの? ほら早く、前回り受け身。さっき教えたでしょ?」

 白帯は俺だけなので愛氣が一応ついて教えてくれている。

 どうせなら、もっと亜美さんに教えて欲しかったっつ~の。

「なに? なんか言った?」

「いえ。なんにも」

 俺は愛氣に教わった通りに前に回転した。

「違うわよ。両手使ったらただのでんぐり返しでしょ」

「だって片手で回るのってなんか難しくねぇ?」

「大丈夫よ。慣れれば怖くないから。いい?」

 愛氣は右腕を前に出した。

「まずこうやって腕を返して親指側を下にして小指側から畳に着けるの」

「こう?」

「そう。それでその腕を折れないようにして小指側で畳を撫でるように」

 俺は言われた通りにやってみようとするが、どうも腕が途中で曲がってしまうんだよな。

「まあ、いいわ。数を繰り返せばなんとかなるでしょ」

「ねえ、受け身なんかよりさっきの技教えてくれよ」

「何言ってるのよ。受け身が出来なきゃ技なんか危なっかしくて教えられるわけないでしょ」

「でもさ、こんなのいくらやったって――」

「文句言わないでやる。とりあえず百回終わったら教えてね」

 言ったとたんに愛氣は、稽古をしている中学生達のグループのほうに行こうとする。

「えっ!? あっ、ちょっ、とりあえず百回って――」

「頑張ってね。直人くん。受け身ちゃんと出来るようになったらいろ~んなこと教えてアゲルから」

「――!?」

 いろ~んなこと……。

「亜美姉っ!」

「もう、冗談よぉ。愛氣ったらすぐ怒るんだからぁ」

「亜美姉のは冗談に聞こえないから」

 亜美さんのおかげでスゲーやる氣が出て来た俺は勢い良く前回り受け身を始めた。

「あ、直人スゴいじゃん。さっきと違って全然出来てる!」

「愛氣も男の子のやる氣の出させ方、そろそろ覚えた方がいいわよ」

「亜美姉のはどっちかって言うと変な氣起こさせるほうじゃない……」

 クルクルクルクル、クルクルサイクル……。

 俺はひたすら二十日はつかネズミのように道場の端から行ったり来たりを繰り返した。

「直人……」

 とにかく、今目の前の事をやらなきゃ始まらない。

 俺は前回り受け身をしているうちにふと亮の顔が浮かんだ。

 あいつも合氣道をやっていた。

 受け身を覚えれば、あいつらの攻撃からも少しは逃げる事くらいは出来るかも知れない。

 俺は中学生のクラスが終わる迄ひたすら受け身の一人稽古をやり続けた。

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