二、スーパー合氣じーちゃん!!

 上杉愛氣。

 俺はとんでもない女の子に出会ってしまった。

 たったひとりで『野郎』を三人も倒しちまうなんて。

 なんか、ありえねぇ~っつうか。イリュージョンっつうか。

 何がなんだか分かんないけど、とにかく俺は感動していた。

 

 学校の帰り道。

 俺の前を、多分、いや絶対、今まで俺が出会った中で『超』最強の女子、上杉愛氣が歩いている。

「ちょっと、いつまで付いてくる気?」

 いきなり上杉が振り向いたので俺は思わず立ち止まった。

「え? あ、ごめん。なんか……」

「なんか?」

「いや、その……」

「その?」

 上杉が俺に近づいて来た。

 黒目がちの大きな二重ふたえまぶたの瞳で俺を見つめる……。

「何よ。言いたいことがあるんならハッキリ言いなさいよ

 あごのラインにかかる位の黒髪のグラデーションボブ。

 その大きくてクリッとした瞳の上杉には良く似合っている。

 見ようによっちゃあ、女の子と言うより、ちょっと丸顔の可愛い男の子に見えなくもないような……。

「えっと……」

「分かってるわよ」

「え?」

「女のくせに男の子投げたりしたから引いてるんでしょ?」

「え? そんな事ないよ。なんかうまく言えないけど、スゲェーッて」

「ほら、やっぱり男みたいだって――」

「違うよ。そうじゃなくて。その、お礼が言いたくて」

「いいよ。そんな、お礼なんて」

「あとさ、うまく言えねぇーけど、あいつらを投げた時の上杉、スゲェ綺麗だった」

「え!?」

「うん。なんかありえないくらい綺麗だったよ」

「……ありがと。なんか、そんな風に言われたの初めてかも」

 上杉がなんだか照れくさそうに頬を赤らめた……。

 俺たちは、並んで再び歩き始めた。

「俺こそ。危ない所、助かったよ……なんか俺、情けなくて。男なのに、やられっぱなしで」

「しょうがないよ。三対一じゃ」

「でも、上杉は……」

「あたしは慣れてるから。ああゆーの」

 慣れてる?

 俺達はまたしばらく歩いた。

 別について行った訳じゃない。

 俺の家も方向が同じだったからだ。

 でも、もう少し上杉と話がしたいなと思って……。

 自分に行く別れ道が来てもさよならを言えなかったのもホントだったけど。

「寄ってく?」

「え?」

「ここ、あたしんちなんだけど」

 歩いていた上杉は不意に立ち止まった。

 俺も合わせて立ち止まる。

 目の前に古い門構えのお屋敷があった。

「合氣道……」

《上杉流合氣道 妙心館》

 和風の瓦葺かわらぶきの屋根の門にそう書かれた木の看板が掛かっていた。

「お邪魔します」

 俺は五十畳はあろうかという道場に入った。

「そんなこと言わなくていいのよ。ここではこうするの」

 上杉は道場の奥にある神棚に正座して一礼した。

 俺もそれにならって座礼をする。

 良く見ると神棚の下に大きく『氣』と書かれた『書』が額に入れられ掛けられている。

《ヒュンッ!》

「――!?」

 いきなり誰かが俺の横を凄い速さで通り抜けて行った!

 見ると、ねずみ色の和服を着た薄い白髪、白髭のじいさんが上杉の後ろに回って羽交はがめにしようとしている!

「危ないっ!」

 俺が言うよりも早く、上杉は振り向きもせずに左腕を前に差し出しながら身体を低く沈めた。

 すると羽交い締めにしたはずのじいさんが勢い良く前に投げ出される。

「――!!」

 投げた上杉も凄いが、俺はその後にじいさんが取った行動にドぎもを抜かれた!

 なんと、そのじいさんは前につんのめる寸前に空中で一回転して音も立てずに着地したんだ!

「もぉ~、おじいちゃん! いきなり抱きついて来るなんて卑怯よ」

「ホッホッホッ。後ろを簡単に取られるとは、まだまだなっとらんのう」

「あ、あの……」

「おお、愛氣が弟子以外の男の子を連れて来るなど珍しい……まさか、カレシではあるまいな?」

「えっ?」

「ち、違うわよ。今度たまたま同じクラスになった長尾くん」

「どうも。初めまして。長尾直人です」

「上杉虎蔵じゃ。この道場の館長をしておる」

「あの、ここって……」

「なんじゃ。愛氣、何も言っとらんのか」

「だって今日会ったばかりだもん」

「ほう」

 一五〇センチくらいだろうか。

 良く見ると、かなり背が小さい。

 まあ、俺も一六二センチだから決して大きい方ではないけど。

 横にいる上杉愛氣とこの虎蔵じいさんの身長はあまり変わらないみたいだ。

 その虎蔵じいさんが大きな目をギョロッとさせて俺を見つめている。

「――!?」

 動かない!

 虎蔵じいさんに見つめられたらいきなり、俺の身体が金縛りみたいに動かなくなった。

「おじいちゃん! もぉ~、いきなり合氣縛りなんてしないでよねっ」

「ホッホッホッ」

「ぷはぁ~」

 虎蔵じいさんが目を俺から逸らすと突然身体が自由になった。

「これはすまんの。つい癖でな。許せ若者」

「――!?」

 な、なにが起こっているのか俺には理解できなかった。

 なんなんだこれは? 超能力なのか?

「まあ、ゆっくりしていきなされ」

「は、はい……あ、あれ!?」

 俺が返事をしたかしないかの間に虎蔵じいさんの姿が消えていた……。

「まったくもう、おじいちゃんたら」

 上杉の視線の先を追って窓から外を見ると、虎蔵じいさんが母屋おもやに向かって庭を歩いている所だった。

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