第102話 選別ゲームを2度制した者

 守軍200人が加わり状況は変わり始めた。

 守軍の統率の取れた動きに攻軍も落ち着きを取り戻したようだ。守軍は5人組を崩さず、銀軍兵を囲むように次々と倒していく。

 態勢を立て直したありすさんと揚羽あげはの声で攻軍が残りの敵を討って回る。


「動きがいいなあいつ」


「守軍リーダーの鐘子かねこジョウだ。護りに彼ほどの適任はいない」


 英司は鮫島にそう答えた。

 確かに守軍の中でも動きがひと際目立っている。味方への指示も的確で動きに一切無駄がない。


「そこ! 敵を左に追い込め」


 おまけに攻軍が動きやすいように気を配る余裕までみせている。


「ここは鐘子かねこに任せておけば問題ない。それより他にもスパイが入り込んでいる可能性が……」


「キャーーーーーーー!!!!!」


 英司が話している最中に金城内から女の悲鳴が聞こえてきた。

 この声は里菜か?



◆  ◆  ◆


 金城の外で攻軍と守軍が銀軍のスパイと交戦している頃と同時刻。


「何? 何が起きてるの?」


 外から聞こえる叫び声に怯え、瑠羽子るうこが近くにいた菜月なつきにくっついた。


「ただ揉めてるだけじゃないみたいだし、敵かな?」


「て、敵!?」


 ぶるっと身を震わせる瑠羽子の肩を菜月が優しく撫でる。

 金城1階、ポイントで日用品を買うことができる部屋に独立軍の面々は待機していた。

 守軍のリーダーの鐘子ジョウが待機していた守軍のメンバーを引き連れて外に向かったので、予想外の事態が起きていることは想像がついた。

 徐々に大きくなる声に堪らず祥平が立ち上がる。


「俺が見てくる。みんなはここで待っててくれ」


 祥平がそう言い廊下に向かって歩くと、タイミングよく廊下から男が1人入ってきた。


「ちょうど良かった。外で何が起きているか分かるか?」


「俺も分からない。待機しておけって言われたから戻ってきたんだ。あまり動き回らない方が良さそうだぞ」


「そうか」


 男の話を聞き祥平が元いた場所に戻ろうと男に背を向ける。


「危ない!!」


 菜月の声と視線から祥平が咄嗟に右に大きく飛んだ。

 銀色の手袋が空を切る。


「お前、銀軍か……」


「だったらどうした。おらっ!」


 男が祥平に襲い掛かる。

 祥平は男に蹴りを繰り出したが、男に足を掴まれてしまった。


「しまった」


「祥平君の足を離せ―っ」


「うおっ」


 金属片が男に向かって凄い早さで空を飛び、男はそれを避ける為に祥平の手を離した。


「おいコロモ、僕の貴重な部品を投げるな」


「仕方ないべ。緊急事態だべ」


 尾口が爆弾を作っていたパーツの一部をコロモが投げたようだ。そのおかげで祥平が間一髪のところで助かった。


「瑠羽子、ここで待ってて」


「菜月……」


 菜月が祥平の横に並ぶ。


「わたしが男を倒す。その間にビブスの下に手を入れて」


「分かった」


 祥平が頷く。


「なんだ? 相談は終わったか?」


 男が菜月と祥平を見て口角を上げる。


「お前たちはここで終わりだ。この作戦に少しの狂いもない」


「終わるのはあんただよ」


 菜月が低い姿勢で走り、男の首元を掴んだ。

 男が菜月の脇腹を殴り抵抗する。

 菜月が苦痛で顔を歪めるが、そのまま腰を落として流れるような動作で背負い投げをした。

 男が床に叩きつけられる。その一瞬の隙に祥平が男の金色のビブスの下に手を滑り込ませた。


「ググァアガガガガッ、ふぅ、終わりだ。グガ、お前たちはここで終わりだ。クックックッ」


 男は電流が流れたことで体全体を震わせていたが、最後に意味深な言葉を残して死んだ。


「この作戦に狂いはない。ここで終わり?」


 菜月が男の言葉を口に出すが、何のことだかさっぱり分からない。


「中に人がいるぞ! こっちだ!」


 金色のビブスを着た男が異常を察知したのか駆け付けた。


「こいつが金軍になりすましてたんだ。スパイだと思う。気を付けろ。まだ他にも城の中にいるかもしれない」


「スパイ? それは困った。なあお前ら?」


 駆け付けた男の背後に8人の男女が顔を覗かせた。


室田むろため。しくじりやがって」


 後から来た男が倒れたスパイの男の横に唾を吐いた。

 次の瞬間、その後ろから何の前触れもなく男が祥平に飛び蹴りを食らわせた。

 祥平はそれに反応し、手でガードしたが防ぎきれずに吹き飛び、尻もちをつく。


「祥平君に何するべ!」


 コロモが祥平の元に駆け寄り体を支える。


「直に制圧が完了する。遅かれ早かれお前たちは脱落だ」


「俺たち奇襲部隊の手によってな」


 銀軍の奇襲部隊9人が祥平たちに襲い掛かった。



◆  ◆  ◆


 同じく同時刻。場所は治療室。


「はい。巻き終わりました」


「ありがとう」


 里菜がケガ人の男に包帯を巻いていた。


「ミナト君、これ持ってついてきて」


「うん!」


 ミナトが救急箱を持って里菜の後をついて行く。

 昨日運び込まれたケガ人の治療は一通り終わっていたが、時間が経ったので何人かで手分けをして包帯の巻きなおしをしていたのだ。


 英司の護衛役の純菜と有希はケガ人の悩みや不安を聞いて回っていた。2人は治療室でカウンセラーの役割を果たしていた。


 剛は独立軍のフトシの包帯を巻きなおしている。


「血は止まったみたいですね」


「気合いの力だ。ハッハッハッ、いたた」


「少し我慢してくださいねー」


「うぐっ」


 剛がフトシに負担がかからないように手際よく包帯を巻く。


「終わりました」


「助かった」


「何かあったらまた呼んで下さい」


 剛がそう言って次の患者の元に向かった。

 すると、部屋に2人の男女が入ってきた。治療室は人の出入りが多かった為、特に誰も気にしていないようだ。

 誰が入ってきたのか顔を見て確認する者もいない。


「ぐあああああああ」


 突然響いた男の断末魔に治療室にいた全員の視線が先程入ってきた男女に集まった。


「洋一と乃愛……どうして……」


 里菜の言葉に洋一は何も返さず、ケガをして身動きの取れなくなっていた女の背中に触れた。

 女が掠れた声を出し、体からプシューっと音を出して動かなくなった。室内に人の焦げた嫌なにおいが充満する。


「キャーーーーーーー!!!!!」


 里菜の悲鳴が金城内外に響き渡った。

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