第101話 金軍に勝利を

◆  ◆  ◆


英司えいじさん! 大変です!!」


「どうした不破ふわ


 金城2階、窓から外を見ていた英司が振り返る。

 慌てた様子で不破が部屋に入ってきた。外を見ていた英司は今何が起きているのか大体の予想はついていた。


「城の内外で同じビブスを着た人たちが暴れてます。いずれここも危険になるかと」


「仕掛けてきたか」


 腕を組み数秒の間フリーズする英司。


「俺が出よう」


 考えがまとまったのか腕組を解くと部屋の外に歩き出した。


「待ってください。ダメですよ! もし英司さんがここで倒されるようなことがあれば全てが終わってしまいます。どこかに身を隠しておいたほうが。俺が全力で護りますので」


「それじゃあダメだ。この場で指揮する者がいなくては一気に総崩れになってしまう。俺が自ら戦場に行って指示を出す必要がある」


「そんなことしたら集中的に狙われますよ」


 不破が心配しているのを感じ取り、英司の口角が僅かに上がる。


「大丈夫だ。まだ俺が将軍だと敵にバレてはいない。堂々と一兵士として戦場に出ればバレることは無い。もしバレたとしても不破、お前が護ってくれるんだろ?」


「は、はい。それはもちろんです!」


「それじゃあ、行くぞ」


 先程まで英司の目に映っていた景色。

 金色のビブスを着た兵士が同じく金色のビブスを着た兵士の背中に触れて走り回っていた。手袋は銀色。

 敵もスパイを送ってきたということだ。それも10人や20人ではない。もっと大勢。


 英司は玲央と小坂からスパイの話を聞いた時、銀軍の将軍である林も同じことを考えている可能性があると思っていた。

 初日の戦いで攻軍が出した犠牲者は120人近く。そのビブスは敵の手に渡っている。つまり約120人のスパイが金城付近に紛れ込んでいると考えた方がいい。

 少しでも遅れると取り返しがつかなくなる。

 英司と不破は早足に1階へ向かった。



◆  ◆  ◆


「抜けるってどういうことだよ!」


 金城1階の治療室。

 剛に呼び出されて来てみると突然独立軍を抜けたいと言ってきた。


「俺はもうついていけない。昨日、山の中での戦闘も結局何もできずに見ていることしかできなかった。俺が護らなきゃいけなかった里菜とミナトをはやと、お前が助けた。あれは誰でもない、俺じゃなきゃいけなかったんだ」


「そんな、剛は俺の軍に必要だ。やめるなんて言うなよ」


 剛がギロッと俺の目を見る。


「じゃあはやと、俺が独立軍に残ることで何ができる?」


「それは……」


 言葉に詰まってはいけないところで何も言葉が出てこなかった。

 剛が独立軍に残ることでできること。戦闘には確かに向いていないかもしれない。

 でもこのゲームは戦闘が全てではない。銀軍が斧という武器を使い始めたことで流れは変わってきているが。


「無理して考えようとしなくていいよ。はやとが悪いんじゃない。何も持っていない俺が悪いんだ」


「何も持ってないなんて言うなよ。剛には誰よりも優しい心がある。視野の広さがある。教師になりたいって夢もあるだろ」


「ありがとう。でも俺は抜けるよ。里菜とミナトも独立軍を抜ける。里菜も足は速いけど戦いには向いてないだろ。ミナトは論外だ」


 剛は治療室の奥でケガ人の包帯を取り換えている里菜とミナトの姿を見た。


「昨日の夜に里菜とこれからどうするかについて話したんだ。話し合った結果、ケガ人の治療に専念することに決まった。武器を持った敵と戦ったら怪我をするだろ。そうしたら治療をする専門の人が必要だ。現状ケガ人も多いしな。俺も里菜もミナトもこれならできる。いわゆる救護班ってやつだな」


 ケガ人を治療する人は必要だ。ここ、治療室も気付けばケガ人でいっぱいだ。

 これから時間が経てば戦いも激しさを増すだろう。それに比例してケガ人も多く出る。

 これ以上独立軍の人数が減るのは正直痛いが、しっかり話し合って決めたことなら止めることは出来ない。


「分かった。俺がもし怪我をしたら剛、お前が治療してくれ」


「任せろ」


 剛が胸に拳をどんっと当てた。



 これで独立軍は9人になってしまった。ケガ人のフトシを抜けば8人か。

 治療室を出ると外から叫び声が聞こえてきた。叫び声に混ざって悲鳴のようなものも聞こえる。


「なんだ?」


 ただ事じゃないと思った俺は、外の様子を確認するべく正門の方へ向かった。

 正門の近くにはありすさんと揚羽たち攻軍500人がいるはずだ。何か知っているかもしれない。

 外に近づくにつれて悲鳴も大きくなってきた。


「おいおい、なんだよこれ。模擬戦……って訳じゃねぇみたいだな」


「鮫島」


 鮫島が俺の隣に並んだ。


「廊下を走るのが見えたからよ。後を付けたんだ。で、なんだよこりゃあ」


「スパイ? かな」


 作戦会議をすると言っていた攻軍は正門付近を散り散りになり、同じ色のビブスを着ている者同士で戦っていた。

 その内何人かが銀色の手袋をはめている。明らかに敵だ。


「揚羽、後ろ! 敵を取り囲んで! 右にも2人いる!」


 離れた所からありすさんが揚羽に指示を出している。

 人数的に見れば銀軍のスパイは60人ぐらいだった。一方攻軍は500人。

 しかし、戦局はとても良いとは言えない。


「あんなの一気に潰せばいいだろ」


 鮫島の言う通り人数差を活かして一気に叩いてしまえば決着はつきそうだ。

 だが、ありすさんはそれをしようとしない。なぜだ?


「そうか! 銀軍兵は俺たちのビブスを上に着ているから背中を触っても意味がないんだ」


「なんだよそれ!」


「脱落させるには金色のビブスを1回脱がせなくちゃならない。だからこんなに苦戦してるんだ。俺たちも行こう」


「待て!」


 英司と不破が金城から出てきた。


「うおっ」


 鮫島が英司と不破の後ろを見て声を漏らす。

 2人の後ろには守軍200人が続いていた。一糸乱れぬ隊列を組み、英司の後ろでぴたりと止まった。


「5人組を崩さず確実に1人ずつ倒せ。数で勝っているのにわざわざ1対1になってやる必要はない。それと絶対に敵に背を見せるな」


「はい!」


 声をそろえた返事が響く。


「金軍に勝利を!」


「金軍に勝利を」


 英司の掛け声に守軍200人が続いた。

 そして、守軍200人は攻軍を救うべく正門前に走って行った。

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