第79話 軍の振り分け
金城の2階に上がってすぐ右手にある部屋の前に英司の護衛役の
「5人組のリーダーだな。この中だ」
不破に中に入るよう促され部屋に入った。
中には5人組のリーダーが集まっていた。一番前には将軍の英司が座っている。スマホを見つめてノートに何か書き込んでいる。
俺はスペースの空いている後ろの奥に座った。前の方にありすさんとジル、ロッドの姿が見えた。俺の10人前にはコロモの姿もあった。
「隣ええか?」
「はい。どうぞ、ってえ!?」
俺が少し左に詰めてスペースを作り、顔を上げると坊主頭のあの顔が飛び込んできた。
「なんやそんな驚いて、俺の顔に何か付いてるんか? ん? お前よく見たらカジノで俺とゲームした奴やな。生きてたんか」
「
「そんな怖い顔やめてくれや。今は同じチームやろ。喧嘩は無しやで」
玲央はそう言って軽く笑うと俺の隣に腰を下ろした。
「なんで、なんでお前がゲームに参加してるんだよ。カジノでポイントを獲得して貴族になったんじゃなかったのか?」
「どいつにそんなこと聞いたんや?」
「噂でだ」
「ほー」
玲央が俺の目を見た。
「なっとらんよ。なろうと思ったけど無理やった。貴族にどうやったらなれるかは知ってるやろ?」
「あぁ」
貴族になる為にはまず5000ポイント以上集めなくてはならない。5000ポイント以上集めて初めて貴族への挑戦権を得る。
そして貴族と一騎討ちをして勝利することができれば敗者と入れ替わりで貴族になることができる。貴族の枠は4人までだ。
「カジノでの後、俺は英司と数人の東南連合の仲間と一緒に中級エリアに行った。そんで生活が落ち着いた頃に貴族に勝負を挑んだんや。相手は貴族ナンバーワンの
玲央が畳に視線を移し歯ををぎしぎしと噛みしめた。
自分の運にあれだけの自信を持っていた玲央にこんな顔をさせるなんて貴族の万丈目凛花はよっぽど手強いのだろう。
俺も中級エリアで情報を集めている際、凛花の話は何度も聞かされた。
「でも将軍ゲームに参加してるってことはポイントは全部取られなかったのか?」
「いや、手持ちの9割持っていかれた。あなた面白いから全部は取らないであげるだってさ。次会ったら絶対ぶっ殺してやる」
玲央から話を聞いているとすでに部屋に人が入れなくなりそうな程集まっていた。
それを確認すると英司がノートを閉じて立ち上がった。
入り口に立っていた不破もそれを見て英司の横に移動し座った。
「それじゃあリーダー会議を始めよう。まずは全員に自己紹介をしてもらう。俺はさっき外で済ませたから端の方から順番に頼む」
前に座っていた男が立ち上がった。
「俺の名前は桜井だ……」
「英司さん自己紹介なんてしてる場合じゃ……時間が無いんですよ」
「まぁまぁ、時間なら大丈夫だ。これから共に戦う人の名前くらい覚えておきたいじゃないか。すまない。続けてくれ」
英司が不破を宥め自己紹介を続けさせた。
190人のリーダーによる名前を名乗るだけの軽い自己紹介だったが英司は1人1人真剣にどこか観察するように話を聞いていた。
自己紹介が終わると英司は再び話し出した。
「それでは作戦の方を伝える」
場がしーんと静まる。
「基本的なことだが戦は攻めと守りの2種類ある。金軍は守りに重点を置く。だが全く攻めないという訳じゃない。状況を見て作戦は変更するが初日は200人に攻めに行ってもらう。そこで攻めの200人のリーダーを新たに決定する」
「ほう」
玲央が英司を見て首の骨をぽきぽきと鳴らす。
5人組のリーダーたちも英司の話を聞き落ち着かない様子だ。
「いいか! 200人のリーダーはこのありすだ。それと同時に金軍の副将はありすに決めた。戦場ではありすに全てを任せる。みんなありすに従ってくれ」
「よろしく!」
ありすが立ち上がり礼をした。
ありすさんが副将だと!
東南連合と対立していたギルドのボスを選ぶとは予想外だった。いや、対立していたからこそ相手の力量を知っているということだろうか。
「攻めのメンバーは桜井から
英司は40人のリーダー全員の名前を間違えずに言った。
一言しか自己紹介をしていないはずだがそれだけで英司は全員の顔と名前を覚えたようだ。凄まじい記憶力だ。
「後の人は金城の防衛に回ってもらう。それと攻めにも守りにも属さない独立軍を2つ作る。1つ目は小塚玲央! 玲央の軍には小坂から
「へへへっ、俺様が独立軍か」
玲央がにたにたと笑みを浮かべる。
「そしてもう1つの独立軍は新田はやと!」
「はっ、はい!」
名前を呼ばれて反射的に立ち上がった。
「はやとの軍には
コロモと同じ独立軍になった。
どうして俺が独立軍のリーダーに……。
「独立軍は人数こそ少ないがここぞという局面で必ず必要になってくる重要な存在だ。俺からの指示はないからそれぞれが考えて自由に動いてくれ」
英司はそう言うと閉じていたノートを開いた。
「軍の振り分けはこれで終わりだ。最後に金城を調べて分かったことを伝える。1階には保存食や飲み物があった。どれも透明な箱に入っていてポイントを払うと鍵が開く仕組みになっているようだ。後で確認しておくように。それと3階のとある部屋は鍵がかかっていて中に入れなかった。扉に赤い数字が表示されていてカウントダウンされていた。2日目にその数字が0になるから2日目なったら開くかもしれない。俺からは以上だ。気になることが出てきたらチャットで報告する。じゃあそれぞれの軍に分かれて行動を開始してくれ」
ありす率いる攻めの軍は1階の食料を確認してから外の地形を調査している仲間を集めて作戦を立てるらしい。
部屋にいた5人組のリーダーは1階や3階に向かって行った。
独立軍のリーダーになった俺も確認しておかなくては。
「はやと、ちょっといいかな?」
部屋を出たところで英司に呼び止められた。
「なんですか?」
「やっぱり、下級エリアにいた時とは雰囲気が変わったな」
英司のやや後ろに下がった所にいる不破がその言葉を聞き眉間にしわを寄せた。
「なんで俺を独立軍のリーダーにしたんですか? 俺の他に適任者はいっぱいいたと思うんですけど」
「いいや、適任者はお前しかいない。力を隠そうとしているみたいだが俺の目は誤魔化せないよ。時が来たら出し惜しみせずに全力でやれ。じゃないとこのゲームで死ぬことになる」
このゲームで死ぬ?
新国家での脱落は地下帝国に落とされることを意味する。実際に経験している俺が証人だ。
でもこのゲームはそうじゃないと英司は考えているのか?
それに力のことまでこいつは……。
「じゃあな。何かあったらスマホに連絡をくれ。俺は金城の防衛を担当する人たちに指示を出さなきゃならないから忙しいんだ」
英司が英司の護衛を担当する女2人と不破と一緒に1階に下りて行った。
◆ ◆ ◆
とある場所にある銀軍の城の前に980人のゲーム対象者が集まっていた。
ピシッと綺麗に並んでいる列の前に銀軍将軍の林が立っている。
「待たせたな。お前らにはまずやってもらうことがある。洋一!」
林に名前を呼ばれた洋一が大量の斧を銀城から運んできた。洋一に続き
「この斧でここら辺に生えている木を片っ端から切ってくれ。木は最初に俺たちが集められたあの広場に運んでまとめてほしい」
林の話を聞いていた数十人が首を傾げた。
「安心しろ。俺についてくれば必ずゲームに勝利する!」
『「うおおぉーー」』
この謎の作業について不思議に思う者はいても貴族の林の言葉に意見する者はいなかった。
林はこの他にももう一つの作戦を実行していた。
初めに政府に連れて来られた広場で銀軍全員のポイントを林のスマホに移したのだ。
そして均等になるよう林が最小限のポイントを再分配したのだ。
それによって林以外の人間は全員同じポイント数になり不平等ではなくなった。また、もし金軍に脱落させられた人が出たとしても奪われるポイントは最小で済むという訳だ。
林は自身も斧を手に取り銀軍全員を鼓舞して回った。
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