第78話 小塚英司という人間
◆ ◆ ◆
ゲーム開始のメールが届き金軍の将軍
「あんなひょろい奴が将軍って金軍は終わったな」
「小塚ってあれだろ。東南連合の代表だろ。あんまり良い噂聞かないよな」
「ちっ、なんだよ外れくじ引いちまったな」
俺の周りに並んでいた中年の男たちが英司のことを悪く言っていた。
そういう俺も英司のイメージはあまり良いものではない。
下級エリアにやってきた時は親切に情報をくれたので信頼していたが、東南連合の代表で過去に洋一の元クラスメイトの乃愛を一騎討ちで脱落させたと知ってからは避けていた。
それに何よりあの玲央の兄だ。
「おい! 何も知らないくせに英司さんのことを悪く言うな!」
「あっ? なんだお前」
俺の後ろで英司の悪口を言っていた中年の男と英司を庇う20歳ぐらいの男が揉め始めた。
「なんだお前、あの将軍の仲間か?」
「そうだ。英司さんの悪口を言っていたことを取り消せ」
そう言って20歳ぐらいの男が3人組の中年の男に迫る。
「取り消せって事実だろ。みんな言ってるぞ、東南連合は危ない連中の集まりだってな」
「それは英司さんの弟の東区代表
「
英司が揉め事に気付き男を止めた。
「でも……」
「ゲームはもう始まっているんだ。時間がもったいない」
英司が俺たち全員に向き直った。
「俺が将軍になったことに不満がある人もいるだろう。実は俺もだ! 俺も自分が将軍だと知ったのはついさっきだ。ゲームは強制参加だから生き残るには将軍ゲームで勝つしかない。ひょろくて頼りないと思うがここにはこれだけの人がいるんだ。足りない部分はみんなで補えばいいと思ってる。どうだろう? 俺と一緒に戦ってくれないか?」
英司の言葉に文句を言っていた人たちもほんの数秒だけ言葉を失った。
急に力を持った者はその力を悪い方向に使いがちだ。
しかし英司は「みんなで補えばいい」や「俺と一緒に」など、あくまで俺たちと同じ目線であることを強調した。
その言葉が胸に突き刺さった人が次々と雄叫びを上げた。
『「うおおぉぉぉーーー!!」』
英司が両手を上に伸ばし静かにするよう求めた。
「このゲームを勝つために色々作戦を考えた。まず初めに5人組を作ってくれ。それで5人の中でリーダーを決めて欲しい。リーダーは金城、えっとあの城のことをこれからは金城と呼ぶ。リーダーは金城の2階に集まってくれ」
英司が金城を指差した。
金城は3階建てだ。3階建てと言っても見上げる程の大きさだ。中も相当広いだろう。
こんなに大きな城を落とすことなど可能なのだろうか。
「それ以外の人は金城周辺の探索を頼む。地図を作りたいから地形とか詳しく調べて欲しい。水辺や平地、それと銀城を見つけれればいいんだけど。俺は金城の中を調べに行ってくる。リーダーはなるべく早く集まってくれ」
「ちょっと英司さん、英司さんは将軍なんですから1人でどこかに行かないで下さい。あなたが倒されたら俺たち全員脱落なんですよ」
不破が英司の横に走って行った。
「それもそうだな。じゃあ、君と君も一緒にきてくれないか」
英司が左端の列の前から2人目までを呼んだ。20代の女2人だ。
「金軍は974人だから4人余るだろ。これで余りは出ないはずだ。不破とこの2人には俺の護衛を頼む」
「はい分かりました」
不破が返事をして英司たちは金城に向かった。
英司が金城に向かい残された俺たちは5人組を作ることになった。
「はやと君、どうするべか」
「コロモさんは誰か組みたい人とかいますか?」
「おいらは地下帝国の時の知り合いが何人かいるけどもやっぱりはやと君と一緒に……」
コロモが話している途中でコロモを囲むように人が集まってきた。そのせいで会話が無理矢理中断された。
「あんたいい体格だな。俺のチームに入ってくれないか?」
「いいや、俺のチームに入ってくれ! うちのチームは運動神経に自信がある奴の集まりだ。ゲームを有利に運べるはずだ」
「何よおっさんが寄ってたかって、チームには花が必要でしょ。私のチームには可愛い女子高生がいるわよ」
「うっせぇな、ババアは引っ込んでろ」
「キィー! 誰よ今ババアって言ったの! 許さないわよ。私はまだ32よ!!」
これではとてもコロモと話せなさそうだ。
運動神経や頭の良い人。容姿から歳まで、様々な分野でどれか他の人より頭一つ抜けている人間からチームに勧誘されていった。
俺のアピールポイントはなんだろうか。パッと思いつくものがない。持っているポイントの数が思いついたがそれは違う気がする。
「あっ、はやと君!」
「ありすさん、お久し振りです」
ありすさんが俺を見つけて話し掛けてくれた。
ありすさんの周りには4人のギルドのメンバーがいた。
「また会えて嬉しいよ。数カ月前くらいから昔下級エリアで脱落した人が急にまた下級エリアに現れてねみんな言うのよ。はやとさんのおかげだって」
「そうだったんですか。でも別に俺は何もしてないです」
「そんなことないと思う。みんなはやと君に感謝してたよ」
ありすさんが俺の手を握った。
ありすさんは小さいのにしっかりと芯がある。ギルドという集団のボスだからか、元々そういう性格だったのかは分からないが、いつか俺もありすさんみたいになりたいと思った。
「ロッドとジルは一緒じゃないんですか?」
「あの2人はそれぞれ別なチームでリーダーになったわ。金軍にはギルドのメンバーが多いからね。はやと君も早くチーム作りなよ」
「はい、剛と里菜を探してみます」
「それならあっちで見たよ! じゃ、あたしは金城に向かうね」
「はい」
ありすさんが金城に向かった。
ありすさんに言われた方へ歩いていると座っている里菜とミナトを見つけた。
「里菜、剛は一緒じゃないの?」
「あっ、はやと。剛はチームに入ってくれる人を探しに行ったの。ミナト君歩くの疲れたみたいだから」
ミナトが里菜の横で大きな欠伸をした。
「そうか。里菜のチームに俺も入れてくれないか?」
「いいよ。あっ、ありすさんに会った?」
「うん。今会って少し話してきたよ」
「ならよかった。ありすさん、はやとのこと探してたから」
ミナトの横に座り人混みを眺めているとその中から剛と
「はやともチームに入ってくれるのか」
「あぁ、入れてくれ」
「これで祥平も入れて5人だな」
「はやと、話は色々な人から聞いていた。またよろしくな」
祥平が長い髪をかき上げた。
「よろしく」
「それで誰がリーダーになるの?」
ミナトが俺の顔を見てそう言った。ミナトがこんなにはきはきと話しているところを始めてみた。半年で色々変わるものだな。
「祥平でいいんじゃないか?」
「いや、俺はリーダーよりリーダーを支えるポジションの方がいいな」
「俺も無理だよ。荷が重すぎる」
剛が手を左右に振る。
「荷が重いってまだ何をするか言われてないけど……じゃあ里菜は?」
「私はミナト君がいるし」
全員の視線が俺に集まった。
「俺か? えっと、逆にいいのか俺で?」
「問題なーーい!」
ミナトが大きな声でそう叫び拍手をした。
「ふふふっ問題ないってさ。はやとが私たちのリーダーで決定ね」
「みんながそう言うなら分かった。俺がリーダーになるよ。じゃあ金城に行ってくる」
「任せた」
祥平が右手を上げた。
流れでリーダーになったがリーダーになったからには堂々としよう。敵にも味方にも舐められたら終わりだ。今まで通り落ち着いて冷静に状況判断をすればいい。
今度こそ誰も失わないように俺がしっかりしなくては。
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