第80話 武の才能

◆  ◆  ◆


 はやとと別れた英司えいじ不破ふわたちは金城の防衛を任された700人弱が待つ城の外に向かっていた。


「英司さん、あの独立軍のリーダーは何者なんですか? パッと見、ただの高校生にしか見えなかったんですけど」


 先程2階で話していた内容が気になっていた不破が英司に聞いた。


「はやととは下級エリアで何度か顔を合わせているんだ。俺が彼に抱いていたイメージは、特に特徴のない平凡な高校生だった。それなのに今日見た瞬間に違和感を感じた。目つきや体つきが変化していたからか……それもあるが恐らく違う。それでさっき直接話して確信した。あいつには武の才能が眠っている」


「武の才能? それがはやとの隠している力ですか?」


「さあな」


 英司にそう言われ不破は英司を横目で睨んだ。


「英司さんってそういうところありますよね」


「はははっ、全てを話したらつまらないだろ」


 城の外に出ると周辺の地形の調査を頼まれていた人が大勢集まっていた。


「待たせたな。早速だが分かったことを教えてくれ」


 英司がノートを開き地図を書く準備をする。


「では私から、ここに移動している時から感じていましたが金城は山の中にあるようです。周辺にも木や竹が生い茂っていて敵が攻めてきた際に発見することが困難かと思われます」


 30代の女が丁寧な口調で説明した。


「なるほど。舞台は山の中か。他に分かったことがある人?」


「西に少し行ったところに平地が広がってました」


「どのくらいか分かるか?」


「えっと、目で見える範囲は全て平地でした。どこまでも、永遠と」


「ありがとう」


 英司が次々と情報をノートの地図に書き込んでいく。


「将軍! 俺の5人組の奴から今連絡があったんだが、敵の城を見つけたらしい。ここから南に約2キロメートル行ったところだとよ」


「おぉ、よくやってくれた。安全の為、それ以上近づかないで戻って来るように伝えてくれ」


 英司が男の肩にぽんと手を乗せた。


「みんなも5人組の仲間を全員ここに集めてくれ。金城を防衛する担当箇所を割り振る。それから何か分かったことや困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。俺に声を掛けづらかったら不破か有希ゆき純菜じゅんなに話してくれ」


 英司を護衛する不破と有希、純菜に視線が集まった。

 英司が護衛に女を入れたのには理由があった。体力や力がある男を護衛にすればもしもの時自身が助かる確率は高くなる。

 しかし、ゲームが2日目3日目と続けば必ず精神面や肉体面等々で問題が発生するだろう。

 護衛を男で固めると女が抱える悩みを理解できない可能性がある。それに女同士の方が話しやすい人も多いはずだ。

 そう考えて英司はあの場で咄嗟に目に付いた有希と純菜を護衛に加えたのだ。


 英司はそんな3人に背を向けるとスマホで地図の写真を撮った。そしてメールで副将のありすと独立軍のリーダー、玲央れおとはやとに送信した。


(銀城が思ったより近くにあった。相手は貴族の林だ。早急に対策しないと一気に金城が落とされる。攻められる前に銀城を攻め落としてくれ)


 英司は頭の中でそう思うとすぐに切り替え次の作戦を練り始めた。



◆  ◆  ◆


 英司と別れた俺は部屋に残った独立軍のメンバーのコロモと鮫島さめじま尾口井出朗おぐちいでろうと合流した。

 鮫島は強面でビブスの下につなぎを着ていた。身長もそこそこ高い。180センチぐらいだ。コロモと同じぐらい体格がいい。

 尾口井出朗はビブスの下に白衣を着ていて眼鏡をかけている。研究者のような真面目な雰囲気だ。天然パーマが特徴的だ。

 自己紹介をしたら鮫島も尾口も20代だと言う。


「それで独立軍の俺らは何をするんだ?」


 鮫島がポケットからタバコを取り出しライターで火をつけた。


「おい、ポイ捨てなんかして火事を起こさないでくれよ。あ、あ、あんたのせいで僕が脱落なんて冗談じゃ済まないからな」


 尾口が早口で鮫島に言い放った。


「あん? んなことする訳ねーだろ」


 そう言って鮫島はタバコの煙を尾口に向かって吐いた。

 尾口が顔をしかめて咳をする。


「おいやめろ。仲間同士で無駄ないがみ合いはするな」


「あん? 何リーダーぶってんだよ餓鬼が」


 鮫島がタバコの火を俺に近づけてきたのでその腕を掴んで軽く力を入れた。


「ちっ、なんだよ。冗談だよ冗談。真に受けんなよ」


 鮫島が吸殻を捨てる手のひらサイズのケースを出してタバコを入れた。


「じゃあ、3階と1階を順番に見て回って、その後に外で残りのメンバーと合流しよう。城の外に集まるように連絡してくれ」


「分かったべ!」


 コロモが返事をしてスマホを操作する。

 そして俺たちは3階と1階を見て回った。

 英司が言っていた3階の鍵がかかった部屋には扉に赤い文字でカウントダウンされていた。英司の話していた通りだ。

 数字は22:02と表示されていた。扉が開くまで残り22時間ということだろうか。

 俺のスマホにもカウントダウンが表示されているがそれはゲームが終了するまでの制限時間だ。ゲームは残り約70時間だ。

 よく見ると扉のカウントダウンされているやや上に小さく赤い文字で634と表示されていた。この数字が何を意味するのかは分からなかった。


 1階の大部屋には透明なケースが並んでいた。

 正方形のケースに飲み物やパン、おにぎりといった食糧からティッシュやトイレットペーパーなどの紙類までなんでもあった。

 おにぎりが入っている透明なケースにスマホをかざすと購入に必要なポイント数が表示された。物によってポイント数も変化するみたいだ。

 とりあえず今は何も購入しなくて良さそうだ。


「500ミリリットルのスポーツドリンクが5ポイントって頭おかしいんじゃねーか」


「僕は買うけどね。さっきの部屋は暑くて喉が渇いてたんだ」


 愚痴を言っている鮫島の横で尾口はポケットからスマホを取り出した。

 スマホをケースにかざし鍵が開く音がすると透明なケースからスポーツドリンクを1本取り出した。

 キャップを外し美味しそうに飲む尾口の姿を見て鮫島が苛立ちを見せる。


「いいよなポイントを持ってる奴は。少しは下級市民のことも考えて欲しいもんだ」


 尾口が鮫島を見て様子を窺う。

 そしてドリンクを持っていた手を鮫島に差し出した。


「飲みたいならあげるよ。誰も1人で飲むとは言ってない」


「お、おう」


 鮫島が尾口を2度見してからドリンクを受け取った。

 部屋を見回すと隅の方にスコップと斧があった。ポイント数はどちらも食料とは比べ物にならない程高い。1つ50ポイントだ。

 独立軍の俺たちには必要なさそうだ。


「コロモさんは何も買わなくていいんですか?」


「うん。おいらは大丈夫だべ」


 コロモはそう言ったもののケースに入ったおにぎりを見る視線は外さないままだ。

 尾口のスマホが数回連続で鳴った。


「はやと、僕の5人組は外に集まったみたいだ」


「そうですか」


「俺のメンバーも集まったとよ」


 鮫島の5人組も集まったらしい。


「それじゃあ外に移動しよう」


 金城の外には独立軍のメンバーが全員集まっていた。

 合計20人の小隊だがどこかみんな頼もしく見える。

 スマホが振動したので見てみると将軍の英司からメールが来ていた。メールには手書きの地図の画像が添付されていた。

 地形の調査に出ていた人から情報を集め作ったのだろう。


「はやと、メールは見たが独立軍のリーダーって……」


 祥平しょうへいごう里菜りな、ミナトを連れて近づいてきた。


「急に決まったんだ。でも決まったからにはやるしかない」


「やるって何を?」


 里菜が聞いてきた。

 全員そう思っているだろう。独立軍は何をするのかと。

 俺は全員に話し掛けるよう体を向けた。


「俺たち独立軍は副将のありすさんをサポートしようと思う。ありすさんに電話をかけたらもう部隊を編成して銀城に向かってるらしい」


「銀城に向かってるって場所は分かったのか?」


 鮫島が驚いた顔で聞いてきた。


「ついさっき将軍の英司から地図の画像が添付されたメールが届いた。今みんなにも送るよ」


 俺が独立軍のメンバー全員に英司から送られてきたメールを転送した。


「案外近くにあるんだな。2キロメートルなら急げば15分で着くんじゃないか? いや、山の中だからもう少しかかるか」


 祥平が銀城までかかる時間を計算し出した。


「今後の動きの続きだが、ありすさんのサポートをしつつ状況を見て別角度から敵の城を攻める。攻めることが出来なくてもまだ1日目だから敵の情報を得るだけでも大きな成果だ」


「そうと決まったなら早く行くぞ。あっという間に副将が銀城に着いちまうぞ」


「ちょっと鮫島さん待って下さいよー」


 鮫島と鮫島の5人組のメンバーが銀城のある南に向かって歩き出した。


「男なんだから私たちの前に行きなさいよ!」


「うっ、分かったよ」


 尾口の5人組は尾口以外全員女だ。様子を見るに尾口は5人組の中で立場が弱いようだ。


「おいらたちも行くべよ」


「うぇい!」


 コロモの5人組はみんな屈強な戦士のような体系だ。広場で熱心にコロモを勧誘していた男たちだ。

 俺たちは地図を頼りに山の中を南に進んだ。


 俺たちは知らなかった。あと1時間もしない内に将軍ゲームの勝敗を大きく左右する大事件が起こるとは。

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