第71話 協力者
あれから1カ月という時間が流れた。
現在の俺のポイントは15ポイント。地上に上がるには100ポイントが必要だ。まだまだ足りない。
でもこの15ポイントも死に物狂いで集めた15ポイントだ。初めは抵抗していた食事も空腹の限界がくると我慢できずに未来と一緒に食べに行った。
新国家の国民が食べ残した形になっていないような食べ物も見た目は最悪だが食べないよりは全然食べた方がよかった。とにかくお腹を満たすことに必死だった。そして食べ終わったら思いっきり吐いた。
飲み物は運のいい日だと労働中に雨が降ることがあったので雨水を飲んだ。地面に溜まった泥水を飲んだこともあった。集会場でも水を飲むことはできたが透明な水ではなかった上に苦みのある味だった。
そんなこんなで俺と未来はなんとか1カ月間命を繋いできた。
そして、今日は運命の日だ。
「はやと君、時間だね」
「そうだな。ここまで長かったような短かったような。でもできる限りのことはしてきた」
「うん。きっと大丈夫だよ」
穴の外に出て通路を右にを進む。
俺が初めて地下帝国に来てから訪れた場所、大広間。野黒のコミュニティーだ。その脇を通りつつ中を覗くと野黒と取り巻きの姿があった。その中にコロモもいた。
10人がモニターを見て笑っている。そのモニターには地上に設置された複数のカメラからの様子が映されている。その1つ、カジノの様子を見て野黒たちは賭け事をしているらしい。
野黒が俺と未来に気付き鋭い視線を向けてきた。取り巻きも同じだ。
俺は数秒睨み返すと通路に視線を戻し目的地に向かって歩き始めた。
◆ ◆ ◆
「野黒さん、おいらやっぱりはやと君のところさ行きたいべ! はやと君と未来さんのこと見でたらおいら自分に嘘つけないべ。今までお世話になりました」
コロモは野黒に頭を下げた。
野黒はそんなコロモを見て歯を食いしばっていた。怒りが込み上げているのだろう。
「お前このコロ――」
「お、お、俺も抜けていいっすか?」
コロモを怒鳴りつけようとした野黒だっだが取り巻きの1人に遮られてしまった。
「みんなで話したんです! 野黒さんのコミュニティーは凄く楽しかったんですけど楽しいだけでいいのかって。あいつらのところに入れてもらえるか分からないけど頭下げて謝って頼んでみようって」
「お前ら……クソッ! 好きにしろ」
「野黒さんも一緒に行きましょう」
「うるさい! 行きたいなら早く行け」
コロモと取り巻きは野黒に頭を下げると大広間を後にした。
◆ ◆ ◆
「はやと君、未来さん、待ってくれだべ!」
振り返るとコロモと野黒の取り巻きが走ってきていた。
「おいらも仲間に入れて欲しいべ」
「いいですよ。でもそっちの人たちは……」
俺が取り巻き8人を睨む。
「今まで嫌がらせとかあんたの夢を馬鹿にして本当に悪かった。あの時の俺たちは何も考えていない子供だった。考えることを止めていた、違うな諦めていたんだ。一生地下帝国で生きていくしかないと。考えても無駄だと。でも俺はあんたが新国家の国王になったらその国に住んでみたいと思った。1カ月間のあんたたちの行動を見て考えさせられたんだ」
「冗談ですよ」
「えっ?」
俺は取り巻きに笑顔を向けた。取り巻きはポカンと口を開けている。
「あなたたちも協力者に入れてあげると言ったんです」
「ありがとうございます」
「お礼なんていいですよ。それより付いて来て下さい」
俺が通路を進むといつの間にか後ろに列ができていた。
次々とあらゆる穴から協力者が集まってくる。ただでさえ狭い通路は人でいっぱいだ。
「思っていたより集まったな」
「想像の倍の倍ぐらいいるんじゃない?」
未来が左右の通路を交互に何回も見渡す。奥の通路が見えないぐらい人がぎっしりと集まっていた。
「来たわねはやと!」
「乃愛、それにレイナもおはよう」
乃愛と乃愛の後ろに隠れたレイナが俺を見つけて話し掛けてきた。
「いやいや凄い人だね。途中で数えるのを止めちゃったんだけど1000人以上はいそうだよ。まだ増え続けているみたいだしね」
関さんが人を掻き分けてやってきた。関さんのコミュニティーのメンバーも協力者として参加してくれた。
「そうですか。待たせるのもあれですし始めましょうか」
俺はすうっと息を吸い込んだ。全員に声を届かせる為にいつもより長く。
「おはようございます! 新田はやとです! 今日はお集まり頂きありがとうございます! ここに集まったということはみんな地上に上がりたいということですよね! みなさんに協力してくれるよう頼みに行った際、1度話したと思いますがこの方法は誰でも思い付く簡単なものです。でも誰も実行しようとしません。なぜならできないからです」
その方法とはあの
ポイントを100ポイントになるよう誰かに集めるのだ。ポイントは政府から支給されたスマホを使えば渡すことが出来る。
地下帝国でも1日1ポイント配布される。そしてここに1000人以上の協力者がいるので1日10人は地上に上がることができる。毎日となると餓死してしまうので数日に1回のペースで続けていけばいい。
回数をこなせば協力者の人数も段々と減り、地上に上がれる枠も少なくなってくるという心配の声があったが、そうなったら新国家からの脱落者を新しく協力者に加えればいい。そうすれば地上に上がれる人数はさほど変わらないだろう。そして古い順番から地上に上がってもらえば完璧だ。
「話は分かったんだがその地上に上がる人はどうやって決めるんだよ。平等じゃねぇと納得できねぇぞ俺は」
集団の中にいる1人の男が声を上げた。
「安心してくれ。それも考えてある。国民証にはそれぞれ独自のナンバーが書かれているはずだ。そのナンバーを紙か何かに書いて1つに集めて抽選する。抽選をするのはコミュニティーのリーダーで毎回ローテーションしていく。これなら安心だろ」
通路がざわざわと騒がしくなった。
この計画にデメリットはない。だが、これだけの人数がいれば何かしら予想外の問題も出てくるだろう。ポイントを渡すことを拒否する人が出たらそれはその時に考えればいい。
「これははやと君、君だからできたんだ」
「いえいえ、未来や乃愛、レイナ、関さんが手伝ってくれたからできたことです。それに向井さんもです」
「わたしは何もしてないに等しいよ。はやと君の人間性に惹かれてみんなが自然と集まってきたんだ。君にはそうゆう魅力がある」
俺と向井さんの話を聞いていたのか周りにいた人たちが頷いていた。
「はやとさんは新国家の国王になるんですよね?」
集団の中の1人が聞いてきた。
「あぁ、その為にまずは今国王をやってる奴をぶっ飛ばす。それで王になって国を建て直す」
「それならまずははやとさんが地上に上がった方が絶対いいですよ!」
「俺は最後でいい。全員いなくなったら自力で100ポイント貯めて地上に上がるから」
「そんなのいつになるか分からないじゃないですか。俺ははやとさんにポイントを渡します。みんなもはやとさんにポイント渡して新国家を建て直してもらおうぜ!」
「おーー!!」
なんかおかしな方向に話が進んでいる。
俺のスマホが振動し出した。ポイントが次から次へと増えていく。
「みんな待ってくれ。俺は最後でいいんだって。まずはみんなが地上に上がらないと……」
すると、労働を知らせるサイレンが鳴り響いた。
今日も黄金の城を建てる作業だ。
サイレンが鳴っている間もスマホの振動が止まることはなかった。
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