第67話 黄金の城

 地下帝国では政府から依頼された業務を行っていると昨日コロモは言っていた。確か城を2つ建てているんだったな。

 コロモは立ち上がったが苦痛の表情を浮かべている。まだ傷が痛むのだろう。


「コロモさん、大丈夫ですか?」


「これぐらい大丈夫だべ」


 コロモはそう言って笑ってみせたが傷口に巻かれた俺と未来の上着に血が滲んでいた。


「ついて来るべさ」


 コロモが穴の外に出て通路を進んだ。俺と未来がコロモの後をついて行く。

 何分か歩くと集会場に向かう時と同じように人の流れができていた。みんな同じ方向に向かって歩いている。


「この先にお城があるんですか?」


 俺の隣を歩いていた未来が少し前に出てコロモに聞いた。


「もうちょっと進むと上に出る穴があるからそこを登るべ。そうすればそこは作業場だべ」


「上に出る穴なんてあるんですか。てっきりそんなものないのかと思ってました」


 地下帝国内を探索した際、それらしき穴を見つけることはできなかった。


「いくつかあるけでも普通のエリアに繋がってるものはないべ。労働場所か新国家の外にしか繋がってないんだべ」


「外に繋がってる穴があるならそこから逃げられるんじゃ……」


「そうだべ。でも政府はそれを止めないべ。逃げたい人は自由に逃げていいっておいらもここに来た時言われたのさ。まぁ、逃げたところでまた選別ゲームに巻き込まれるだけだべさ。それだったら選別ゲームがない地下帝国の方が安全だべ」


 下級エリアや中級エリアでは不定期に選別ゲームが開催され無作為に対象者が選ばれるが地下帝国ではそれがないらしい。

 その分、食事やトイレが不便だったり睡眠も満足に取れない。それに騎士ナイトという命を狩る女剣士もいる。

 明日自分が生きている保証はないのだ。

 新国家の外でも選別ゲームという命を懸けたデスゲームにいつ巻き込まれるかわからない為、命の保証はない。

 が、選別ゲームに巻き込まれさえしなければ地下帝国よりはまともな生活が送れるだろう。

 来る日も来る日も地下帝国から逃亡する者は後を絶たない。そして新国家で脱落した者が地下帝国に落とされる。その繰り返しだ。


 1つの穴の前に列ができていた。順番を待ち俺たちも穴の中に入る。すると穴の中には長いはしごがあった。はしごをを登り続け地上に出る。


「うわっ…………」


 地上に出ると思わず声を失った。

 巨大な城が視界に入ったのだ。しかも金色だった。城の周りは石垣や柵でぐるっと囲われていて立派な黒塗りの門も見えた。さらにその周りへと目をやると背の高い木々が城を隠すかのように生えている。


「コロモさん、ここはどこですか?」


「下級エリアと貴族が暮らしてるエリアの間にあるって聞いたことがあるべ。詳しいことはおいらにも分からないべ」


「そうなんですか」


 何の為に城なんて建てているのだろうか。こんなに本格的に力を入れているということは国王でも住むのだろうか。


「凄いね!」


 未来が金色の城を見上げている。


「はい! 集まれ!!」


 ピーーと笛を吹いてから男が集合をかけた。政府関係者だろう。黒いスーツを着ている。


「よし、集まったな。今日お前たちには石垣を担当してもらう。あそこの木の向こうに岩が積まれているからこれを使ってここまで運べ。いいな?」


 スーツ姿の男が工事用一輪車に手をかけた。


「…………」


 男の声に集まった人たちは小声で文句を言ったり溜息を吐いたりしていた。


「返事!」


「はい!」


 大声で男が怒鳴るとそれにつられて文句を言っていた人も返事をした。

 それぞれ工事用一輪車を受け取り説明された木の向こうに移動を始めた。石垣の担当になったのは100人から150人ぐらいだ。

 機械を使えば作業も早く進むだろうになぜ全て手作業でやるのだろうか。新国家から脱落した俺たちに使わせる機械は無いということなのか?


 岩場に到着すると続々と工事用一輪車に岩を積み黄金の城までの道を戻る人でいっぱいだった。想像以上に岩は大きく未来のような細い体の女子ではとても無理だ。


「未来、持てるか?」


「む、むり。全然上がんないよ」


 未来は岩を両手で抱え必死に持ち上げようとしていたが上がる気配はなかった。


「ぐっ、えいよっ。未来さんはこれで運べるべ」


「コロモさん、ありがとうございます」


 岩に負けない程大きな体のコロモが未来の工事用一輪車に岩を積んだ。自分の一輪車にも岩を積む。いくら力があるといってもコロモは怪我をしている。力を入れれば入れる程体は痛むだろう。


「行きましょう」


 俺も岩を積み城に戻るべく歩き出した。

 一輪車ということもあってバランスが取りにくい。少しでも重心が左右に片寄ってしまうと倒れてしまいそうだ。それに昨日雨でも降ったのか道が濡れている。

 慎重にゆっくり、確実に岩を運んだ。

 石垣の下まで運び、上からロープを下ろしてもらって岩に括り付けて引き上げてもらう。この作業を永遠と繰り返すらしい。いくら100人以上いたとしても城の周りを囲っている石垣全てとなると人数も時間も足りなさすぎる。

 地下帝国にいる人はこれを毎日続けているらしい。

 5往復目が終わり6往復目に入り岩を積もうとした時だった。野黒が現れたのは。


「おい、コロモ。女のばっかり手伝ってないで俺の分の岩もよろしく頼むよ」


「俺らのもだぞー」


 野黒の取り巻き数人も笑みを浮かべながらコロモにそう言った。


「コロモさんは昨日の夜、騎士ナイトに襲われて怪我をして……」


「はやと君、いいんだべ。おいらがやれば揉めることもないべ」


 俺が野黒に自分でやれと言おうとしたがその前にコロモに止められた。そしてコロモが野黒と取り巻きの分の岩を一輪車に積み始めた。


「はやと君、大丈夫? 顔色悪いよ」


「そうか? 俺は何とも……」


 岩を積んでいた俺の顔を未来が覗き込んできた。

 飲まず食わずでこんな労働をしてたらそりゃ顔色も悪くなる。お腹も空いたが一番は喉が乾いた。体の水分が無くなったのか分からないが暑いはずなのに汗をかかなくなっていた。気を抜いたら倒れてしまいそうだ。


「未来、行こう」


「うん」


 一輪車を持ち6度目の城を目指す。コロモはまだ野黒の取り巻きの分の岩を積んでいる。視線を前に戻し数歩進むと視界がぐにゃんと歪んだ。


「うっ」


 一輪車を置き立ち止まる。


「どうしたの?」


 未来の声も遠く聞こえる。


「はやと君! はやと君!」


 俺は体に力が入らなくなりその場に倒れた。

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