第68話 殺意に満ちた何か
「うっ、ここは……」
見たことがある天井。聞いたことのある話し声。つい最近まで一緒だったのになぜか遠い昔のことのように懐かしく感じる。
床に手を付いて体を起こす。
「あっ、はやと起きた!」
「里菜……」
里菜が奥の部屋に走って行った。
頭が追いつかない。
俺は脱落して地下帝国に落とされた。そこで未来に出会いコロモと出会った。そして
それで、なんだっけ? そうだ。金色の城を造る労働中に倒れたんだ。なのにここはギルドのアジトだ。一体何がどうなったんだ? 未来の姿もここにはない。
「はやと君、目を覚ましたんだって?」
「あっ、ありすさん」
奥の部屋からありすさんと里菜が出てきた。
「ありすさん、ここは下級エリアですよね?」
「そうだよ。そっか、状況がいまいち分からないよね」
「はい……」
ありすさんがソファーに座った。服装はいつもと同じ、タンクトップにハーフパンツだ。
「あたしたちは下級エリアの労働中、作物を運ぶように言われて指定された場所に何人かで運んでたの。その道中、はやと君を抱えた女の子と偶然会ったの。本当びっくりしたよ。ぐったりしてたけど確かに脱落したはずのはやと君だったから」
俺を抱えた女の子?
「未来だ!」
「未来ちゃんっていうの?」
俺が頷く。
「その未来ちゃんから助けて欲しいって頼まれたの。労働中だったから難しかったけど他の人に無理言ってあたしの分も頼んだんだ。それではやと君を助けることにしたの」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
ありすさんに頭を下げる。ありすさんにはお世話になりっぱなしだ。それと俺の命を未来が救ってくれたのか。
「それで、未来はどこにいるんですか?」
「未来ちゃんは、あたしと会った時に血だらけだったの。逃げて来る時に銃で撃たれたんだって。はやと君がいた地下帝国では労働中に倒れた人は邪魔になるから強制的に排除されるんだって。未来ちゃんの手当てを先にしようって話したんだけど彼女、私はいいからはやと君を先に助けてあげてって聞かなくて。はやと君が生きてるって分かったら安心したのか笑顔で息を引き取ったわ」
「えっ…………?」
体中の血がすっと引いて行くのが分かった。急に体が寒くなってきた。未来が死んだ? 俺の為に。俺のせいで。
「それでねはやと。はやとはこれからどうするの? ふふっ、これを聞くのは何回目だったっけ」
里菜は小さく肩を震わせたが表情は真剣そのものだ。
「どうするも何もまだ状況が飲み込めてないから何とも……」
「そう……じゃあやっぱりはやとにはここで消えて貰うしかないのね」
「な、何を言って」
里菜が腰に手を回し銃を取り出した。銃口を俺に向ける。
「冗談だよな?」
「私たちには時間が無いんだよ。みんな死に物狂いでポイントを集めてる。はやとがいなくなって数日でみんなが変わったの。だからごめんね」
「待てって! いったん落ち着こう。なっ?」
声を荒げる里菜を落ち着かせようとするが里菜には俺の声が届かなかった。引き金を引き銃声が響く。
「外した……でも次は外さない」
里菜は銃を構えなおすとじりじりと距離を詰めてきた。
「もう何がどうなってんだよ! くそっ!!」
「ちょっと、待ちなさい!」
俺は堪らずギルドのアジトから外に飛び出た。すぐに里菜が追ってきたが林に入ってなんとか振り切った。
外はもうすぐ日が沈みそうだ。木々の隙間から真っ赤な夕日が覗いている。
「確かにここは下級エリアだな」
見覚えのある道をどこに行く訳でもなく歩く。とりあえず里菜に会わないように注意しながら情報を集めよう。ここ数日でギルドのメンバーに何があったのか。下級エリアで何があったのか。
「おっ、はやと!」
「剛……ロッド……」
20メートル先に剛とロッドの姿があった。
「よかった! 剛、生きてたのか!」
「はやとこそ脱落したのによく生きてたな!」
剛とロッドが手を振りながら近づいてきた。俺も剛の方に向かって歩く。
が、すぐに足を止めた。
「なんだよそれ」
「何ってこれではやとを殺すんだよ」
「お前は生きていちゃダメな存在だ。このままだとボスやギルドのメンバーにどんな不幸が襲い掛かるか分からない」
剛とロッドの手には鎌が握られていた。草を刈るようなものではなくもっと大きな鎌だ。人間の首なら力を入れれば斬り落とすこともできるだろう。つい自分の首が斬り落とされるところを想像してしまい身震いする。
「みんなどうしたんだよ」
俺は剛とロッドに背を向け全力で走った。追いつかれたら殺される。どういう訳か今の剛はそういう目をしていた。ロッドもだ。
「そっちに行ったよ!」
剛が叫んだ。まだ他にも俺を殺そうと探していた奴がいるのか?
「分かってるわよ。久しぶりだねはやと。そしてさよなら」
「うぐっ、ぐっ……」
木の陰から突然人が出てきて腹を包丁で刺された。そして、さらに奥深く刺す為なのかもう1度力を込めてぐっと包丁を押し上げた。
俺を刺した人物がしゃがんで俺の顔を覗き込む。
「こ、こころ……なんでこんなこと……」
「なんだまだ生きてたの。今度はちゃんと死んでね。ばいばいはやと」
こころがもう1本包丁を取り出し俺の首に刺そうと振り上げた。
何の迷いもなくこころは俺をやる気だ。俺はまだ死ねない。死にたくない。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
17年生きてきた中で1番大きな声を出して抵抗したがこころの手が止まることはなかった。
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