第66話 疑いの目

 カンッカンッカンッとフライパンか何かを叩く音が地下帝国内に響いた。

 俺はコロモの看病をしている間に疲れてそのまま寝てしまっていたようだ。未来も壁にもたれかかり目を閉じていた。


「起きたべか?」


「はい。コロモさん、怪我の方は大丈夫ですか?」


「まだ痛むけど大丈夫さ」


 コロモが仰向けのまま答えた。


「さっきから鳴ってるこれはなんですか?」


「ご飯の合図だべ。集会場でご飯を食べられるべ。行ってきたらいいさね」


 スマホでポイントを確認すると1ポイントになっていた。地上に上がるには後99ポイント必要だ。


「集会場ってどこですか?」


「昨日はやと君が来たモニターがある大広間の近くだべ。多分人の流れが出来てるから行けば分かるべ」


「分かりました。それじゃあ、ちょっと行ってきます」


「あぁ、おいらはここで休んでるべ」


 寝ている未来を揺すって起こすとコロモを残して集会場に向かった。


「ふぁーあ。はやと君、どこに向かってるの?」


 大きな欠伸をして目を擦りながら未来が俺の顔を見る。


「集会場だよ。ご飯が食べられるんだってさ」


「そうなんだー。でも食べるには1ポイント払わなきゃいけないんでしょ」


「うん。まぁ、様子見を兼ねてって感じかな」


 未来と話しながら大広間を通り過ぎると、歩いている人が全員通路を同じ方向に進んでいた。その先に集会場がありそうだ。

 曲がり角を曲がると俺の体は大きく後ろに弾き飛ばされた。


「いってーな。なんなんだよ。お、重い……」


 仰向けに倒された俺の上に少女が乗っかっていた。


「ご、ごめんなさい!」


 少女が慌てて起き上がり深く頭を下げる。細身な体にポニーテール、昨日コロモの穴の前でぶつかった少女と特徴が似ていた。


「すいません。私、急いでて……レイナ! 行くわよ!」


 少女の後ろに立っていたレイナと呼ばれた女がこくんと頷く。


「あっ、ちょっと! 君は昨日の……」


 呼び止めようとしたが2人の少女は走り去ってしまった。


「はやと君、あの人昨日の人に似てたね」


「うん。でもポニーテールの女の子って他にもいるから決めつけるのも可哀想だよ」


「そうだね」


 集会場の前には行列が出来ていた。

 俺と未来は列に並ばず通路から集会場の中の様子を見ることにした。


「うわっ、なんだこれ」


 集会場は大広間の4倍ぐらい広かった。中には長いテーブルが端から端まで並べられていて、その上には食べ物が乗せられているプレートがずらーっと隙間なく置いてあった。

 しかし、その見た目が最悪だった。あらゆる種類の料理がごちゃ混ぜにただプレートに乗せられたという感じでその見た目から食欲をそそらない。ご飯や麺にパン、サラダのようなものからスープだろうか。魚と肉までぐちゃぐちゃに1つのプレートに乗せられていた。

 その食べ物と呼べるか分からない物を中にいる人は必死に口の中に入れていた。


「あれなんだろうね?」


「上の奴の食べ残しだよ。地下帝国にいる奴はそれを食う為に1ポイント払ってるんだ。馬鹿馬鹿しいだろ」


 未来の言葉に先頭に並んでいた男が答えた。

 飲み物も1ポイントを払わないと飲めないらしい。だがあれを見るに水も綺麗な水とは限らない。


「4人だぞ! 一晩で4人もやられた!」


「そんなこと俺たちに言われたって困りますって」


 何やら中が騒がしくなってきた。声がする方を見ると野黒のぐろと別なコミュニティーのリーダーをしている男が言い合いをしていた。昨日の探索中に少し話をした男だ。名前は確かせきだったと思う。40代で仲間思いな人だった。


「みんな言ってるぞ。騎士ナイトが出たってな。お前んとこのコミュニティーには確か女がいただろ。そいつが実は騎士ナイトなんじゃないのか?」


「やめて下さい。乃愛のあとレイナはそんなことするような子じゃありません」


「へぇ、そんなこと分かんないだろ。人ってーのは目的の為なら手段を選ばない生き物だろ」


 野黒が関に顔を近づけ挑発する。


「俺はあの子たちを信じてますからっ」


「そうか」


 野黒が関から離れ、集会場にいる全員に体を向けた。


「他にも騎士ナイトの候補はいるからな!! 疑われたくなかったら早いとこコミュニティーから女を切り離すんだな」


 野黒とその取り巻きが高らかに笑う。


「未来、行こう」


「うん」


 俺と未来は集会場を後にした。

 騎士ナイトが女と誰もが周知している地下帝国では未来も対象者に入る。あそこにいたら野黒たちに巻き込まれてもおかしくなかった。

 未来は昨日初めて地下帝国に来たし、俺と一緒に騎士ナイト本人を見ている。だが、それを証明することはできない。未来が騎士ナイトではないと断言できるのは俺しかいないのだ。


 コロモの元に戻るとコロモは寝息を立てていた。コロモの横に座りスマホを付ける。やはり圏外だった。政府から支給されたスマホは充電が減ることはないが圏外だったら意味がない。

 ぐぅと未来のお腹が鳴った。


「へへっ、鳴っちゃった」


「俺もお腹空いた」


 ついでに喉も乾いた。


「食べに行く?」


「ううん。今日はいいかな。我慢するよ」


「そっか」


 再び未来のお腹が鳴ったのと同時に地下帝国内にサイレンが鳴り響いた。サイレンの音でコロモが目を覚ました。


「どれ、労働の時間だべ」


 コロモがゆっくりと体を起こし立ち上がった。

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