第56話 しばしの別れ
◆ ◆ ◆
俺はしばらく風に当たりこころからの電話のことを考えていた。だが、今自分がどう行動すればいいのかという最終的な結論を出すことはできなかった。
ギルドのアジトに戻り奥の部屋からありすさんを呼び出し、剛と里菜の3人にこころから電話があったことを伝えた。内容を何も隠さず全て話した。
「はやと君の話だとこころちゃんは助かったけどどこにいるのかは分からないってことだよね?」
「はい」
「どこに行ったんだろう」
里菜が寝ているミナトの体を擦りながらそう言った。
「どこに行ったかは分からないけど明日になればきっと会えるよ」
「え、それってどういうことですか?」
「下級エリアは決まった時間に農作業をしなくちゃいけないの。朝9時から日が暮れるまで。作業する場所は、東区と南区だから下級エリアにいる人は全員そこに集まることになるわ。だから多分会えると思うよ」
ありすさんに話してよかった。すんなりと解決策が見つかった。農作業は強制だから逆らったら即脱落だ。だからこころにも会えるだろう。
「明日探してみます」
「あたしもギルドのみんなにこころちゃんを探してもらうように声を掛けてみるから」
「ありがとうございます」
すると、ドアが2回ノックされありすさんが返事をする前にドアが開いた。洋一と見たことのない男が入ってきた。
「ありす、話がある」
「
ありすさんが祥平と呼んだ男と奥の部屋に入って行った。
「洋一、あの人は誰だ?」
「ありすと同じ、元クラスメイトの
「洋一の元クラスメイトって何人生き残ったの?」
剛が洋一に聞いた。
「俺を含めて4人だ。俺、ありす、祥平、それと
「そうなんだ。その乃愛さんは今どうしてるの?」
「さぁな。俺にも分からない。生きてればいいんだけどな」
奥の部屋で話していたありすと祥平が俺たちの所に戻ってきた。
「洋一、こいつらは信頼できるのか?」
祥平が俺たちの顔を鋭い眼差しで見た。
「あぁ、全員信頼できる仲間だ」
「そうか」
普段の洋一からは想像できない言葉が飛び出したので驚いた。俺たちのことを信頼できる仲間と思っていてくれたのか。
「その言葉を信じてこれから重要なことを話すぞ。この計画にはお前たちの協力が必要なんだ。いいか?」
「いいかと言われても内容を教えてもらえない限りなんとも……」
「安心しろ今から話す。新国家にカジノがあるのは知ってるよな?」
「はい」
「よし。そのカジノで5日後大きくポイントが動くことが分かった。貴族が1人来店するらしい。貴族の来店日は設定が甘くなるから賭け事の初心者でもポイントを比較的簡単に稼ぐことが出来る。そこでお前らにポイントを稼ぐのを協力して欲しい」
いずれポイントを稼がなくてはいけない時が来る。ポイントを稼ぐ手段でまともなのがカジノしかない新国家ではこの機会を逃すわけにはいかない。
「言っておくが貴族が来店することは極秘情報だ。どこにも漏らすなよ」
「分かりました」
「で、どうする? 協力してくれるか?」
俺は1人ずつ顔を見ていった。
洋一はこの話をここに来る前に聞いていたのか既に決めているようだ。里菜と目が合うと里菜は
「私ははやとについて行くよ」
と、言った。
剛はそれを聞き大きく頷いた。全員考えは同じだった。
「やります」
「よし、じゃあもう俺たちはこの瞬間から仲間だ。敬語はやめて普通に話してくれ」
祥平が長髪をかき上げる。
「稼ぐだけポイントを稼いで早くこのクソみたいな下級エリアから抜け出そう」
「俺も早くポイントを稼いで王をぶっ飛ばさないと」
拳に力を込める。
「それじゃ俺はこの辺で。また近くなったら顔出すから」
祥平がアジトから出て行った。
祥平が出て行きもう夜もだいぶ深まっていたので寝ることにした。これ以上話し合いをしても寝ているミナトを起こしてしまうだけだ。
次の日、ミナトに顔を思いっきり踏まれて目が覚めた。
「痛いなもう」
「はははは」
ミナトに初めて笑われた。
「ミナト君、ダメでしょ踏んだりしちゃ。謝りなさい」
里菜が注意するとミナトが素直にごめんなさいと謝った。里菜はもうすっかりお母さんだ。
「はやと君、もうあたし出るけど準備はいい?」
タンクトップ姿のありすが玄関に立っていた。ジルとロッドも一緒だ。他にもギルドのメンバーが数人2階から下りてきた。
「どこに行くんですか? まだ7時過ぎたばかりですけど」
農作業は9時からと聞いていた。出掛けるには少し早い気がする。
「モニターを見に行くの。選別ゲームの参加者の発表が8時からあるから」
「あっ、そうなんですか。俺はもう出れますけど」
「それなら行くよ!」
俺たちはありすさんとギルドのメンバーについて行った。
下級エリアの中心地、カジノの近くに巨大なモニターがあった。すでに何人か集まっている。
「洋一さん、おはようございます。昨日振りですね」
「お、おう。おはよう」
洋一が高校生ぐらいの男に声を掛けられモニターの端の方にはけていった。
8時まで少しの間待っているとどんどん人が増えてきた。そして、8時になるとどこからともなくサイレンの音が聞こえてきた。
サイレンと同時にモニターに文字が刻まれていく。10桁の数字と名前が次々と現れる。10桁の数字は国民証のナンバーだ。
モニターに名前が出た人から移動を始めた。ゲームは新国家の特設エリアで行われるようだ。
各階級からゲーム参加者が選ばれたが階級によって比率がだいぶ異なっている。下級エリアが50人。中級エリアが20人。貴族が0人。王も参加しないようだ。
「あっ、俺の名前……」
剛の名前がモニターに現れた。
「剛、絶対戻って来いよ」
「うん。はやとこそ生き残れよ。それとこころのこと見つけろよ」
「あぁ、必ず探し出す。剛は里菜に想いを伝えなくていいのか?」
剛がモニターの前でミナトと手を繋いでいる里菜を見た。
「帰ってきたら伝えるよ。今言っちゃったらなんか帰って来れない気がするからさ」
「そうか」
「じゃ、置いて行かれない内に人の流れについて行くよ」
「またな」
「うん。またね」
里菜やありすさん、洋一に一言声を掛けてから剛は人の流れに消えていった。
ありすさんのところに行くとロッドが何やら別れの挨拶をしていた。選別ゲームに選ばれたのは剛だけではなかったのだ。
「おい坊主。ボスのことを頼むぞ」
ロッドに胸をグーで強く叩かれた。
「ボス、今までお世話になりやした。ほんの少しの間留守にします」
「うん。早く帰って来るんだよ」
「はい!」
ありすと握手をするとロッドも移動している集団の最後尾に入り下級エリアから姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます