第57話 新人狩り
選別ゲーム対象者の発表が終わると俺たちは東区へ移動した。
新国家の外から下級エリアに来たら必ず東区を通らなくてはならない。いわゆる始まりの地だ。畑がどこまでも広がっている。俺も昨日林先生に連れられてここに来た。
ジルに聞いたが朝食は食べないそうだ。1日1食、それが下級エリアでは当たり前となっている。ギルドの場合は昼か夜に昨日の食堂でお腹を満たすそうだ。
スーツ姿の男と女が畑に立つ俺たちを見張っている。あれが本物の警備隊というやつだろう。
畑を見回すとそれぞれが自分の持ち場についていた。会話をしている人は少ない。9時になり再びサイレンが鳴り響いた。強制労働の始まりだ。
「ほら手を動かせ手を!」
警備隊の男が持っていた棒で老夫婦を叩いた。老夫婦は謝り重い動きながらも手を動かし始めた。
労働は基本的に農作業だ。だが、場所によって内容が異なるそうだ。ここ東区は畑が中心なので、野菜の雑草抜きから始まり、水やり、収穫、土の手入れを行う。単純な作業だが、何せ敷地が広いのでこれだけでも丸一日掛かるそうだ。東区に向かう際、ありすさんとジルから1日の流れを教えてもらった。
南区では、果物が生っている木の手入れや収穫。田んぼで米も作っているらしいが10月のこの時期はやることが少ないそうだ。
大体は収穫した作物を各階級の食堂に運ぶことで1日が終わるらしい。下級エリアには乗り物が無い為、全て人の手で運ばなくてはならない。
3時間が経ち昼休憩になった。普段使わない筋肉を使ったので体が少し痛い。
ミナトは開始30分で飽きてしまっていたが、里菜が上手く言い聞かせたことでなんとか午前中は無事警備隊に目を付けられることなく終わった。
「はやと君、お昼にしよう。午後は1時からだから」
「そうですね」
ありすさんとギルドのメンバーと食堂に行くことになった。
11ポイントの内の1ポイントを支払い、定食を頼んだ。おぼんをテーブルに置き椅子に座る。
「はやと君、こっちでこころちゃんを探してみたけどいなかったよ」
「俺たちもまだ見つけてないです」
「広いからねー。午後も探していなかったら南区にいるのかもね」
「私も探すから絶対見つけるわよ」
ミナトに付きっきりだった里菜もそう意気込んだ。
洋一は選別ゲーム対象者の発表時からずっと男子高校生と行動していた。名前はアトマというらしい。今も俺たちの隣の席で洋一はアトマとアトマの仲間数人とご飯を食べている。洋一の元クラスメイトの
食事を終え午後の作業が始まった。午前中と作業する場所を変えてみたが、こころの姿は見当たらない。いくら広いとはいえこれだけ探してもいないということは南区にいるのだろうか。
「はやと、いた?」
ジョーロを持った里菜が野菜に水を上げながら近づいてきた。
「いや、いなかった」
「そっか。こっちもダメだった」
「もう少し探してみるよ」
「私も探してくるわ」
里菜は来た道を戻って行った。別々で探した方が効率が良い。
そういえば東南連合の姿も見えない。強制労働は東区と南区だからそこかしこにいるものかと思っていたがそうでもないようだ。
俺は人参が大量に入った収穫かごを持ち上げ、新しい収穫かごと交換するべく小屋に向かった。警備隊に収穫かごを渡して新しいかごを受け取る。
もう何回この作業を繰り返しているかわからない。15回までは数えていたが、きりが無さそうだったのでそれから数えるのをやめた。
「おぉ、昨日の高校生。生きてたか」
背の高いひょろっとした男、
「色々あってなんとか生き残れました」
「どうだ、何か聞きたい事はあるか?」
「いっぱいあったんですけど新しく仲間になった人に教えてもらったのでとりあえずは大丈夫です。この先また知りたいことが出てくると思うのでその時によかったら教えて下さい」
「あぁ、もちろんいいよ。そうか早くも新しい仲間が出来たのか」
「はい。ギルドっていうチームなんですけどみんないい人で」
「ギルド……」
英司がそう言って目を細めた。
人参のエリアからジャガイモのエリアに移動すると収穫かごを地面に置き腰を下ろした。英司も同じく腰を下ろすとジャガイモを掘って俺の収穫かごに入れた。
「そうか。君はギルドに入ったのか。下級エリアでは東南連合と並んで有名で実力もあるチームだ。良かったな初っ端でそんなチームに入れて」
「たまたま友達がギルドのボスと知り合いだったんですよ」
「それで入れてもらえたのか」
「はい」
「運が良かったな」
英司がハハハっと薄く笑った。
「運は大事なスキルの1つだ。運に見放されないようにな」
「は、はぁ」
英司の言葉に力の抜けた返事しかできなかった。運だけで生きている奴を見たばかりだったからだ。そいつのせいで俺は彼女を失った。
「やっと見つけたぞ
叫びながら走ってきた洋一が英司に殴りかかった。英司が襟を掴まれて地面に倒される。
「東南連合南区代表
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