第92話 新国家の外

 約3か月前。

 東南連合の残党を殲滅し、下級エリアを統一したギルドのボス、ありすは主要メンバーをアジトに集めて、とある計画を立てようとしていた。はずだが、


「は!? 今なんて言ったありす?」


 壁にもたれかかっていた祥平しょうへいが素っ頓狂な声を上げた。

 ジルとロッドも激しく動揺している。


「だから、新国家の外に行こうと思うって言ったの」


 ありすはソファーに深く座り、平然とそう繰り返した。


「ボ、ボス、外は危険です」


「何が起こるか分かりやせんよ」


 ジルとロッドがありすを止める。


「それはここにいても同じでしょ。それに初めから決めてたんだ。下級エリアを統一したら外に行くって」


 ありすは1度決めたことは絶対に曲げない。それはここにいるギルドのメンバーの全員が知っている。


「行くってどこに行くんだ?」


 俺がありすに聞いた。


「学校に、みんなに会いに行こう」


「会いに行こうって俺もか?」


「当たり前でしょ! 乃愛と祥平も一緒に行くからね」


「私はいいけど」


 乃愛がそう言って視線を祥平に向けた。

 乃愛は数日前に突然下級エリアに現れた。ありすも祥平も驚いていたが、脱落して死んだと思っていたはやとが生きていたぐらいだ。何ら不思議ではない。生きていて良かったとみんなが口を揃えた。

 はやとの時は東南連合の残党を殲滅している最中で、しかも電話だったから細かいことは聞けなかった。そのため詳しい話は乃愛から全て聞いた。


「まぁ、いいんじゃないか」


 祥平が長い髪をかき上げてありすに視線を向けた。


「じゃあ、あたしが留守にする間、ギルドのことはジルとロッド、揚羽に任せるね」


「任せて! ちゃんと先輩たちがさぼらないように見張ってるから♪」


「俺はお前がさぼらないかの方が心配なんだがな、揚羽」


「へへへっ」


 揚羽がジルにツッコミを入れられて嬉しそうに笑う。


「レイナのことも頼んだよ」


「私からもお願いします」


 ありすと乃愛が頼んだ。


「分かりやした。何か事を起こさないように見張っておきやす」


 ロッドが手を小さく上げてそう言った。

 乃愛の話だと地下帝国という場所でレイナは暴れていたらしい。レイナは乃愛より前に下級エリアにやってきたが、とても人を殺したりするような奴には見えない。大人しく、人の陰に隠れるているようなそんなイメージだ。


「よしっ、伝えることも伝えたし行こっか」


 ありすがソファーにかけていた黒いマントを身に纏った。


「行くって今からかよ」


「逆に洋一はいつだと思ったの? ほら行くよ」


 ありすがドアを開き外に出た。こうなってしまってはもう完全にありすのペースだ。

 祥平も黒いマントを身に纏いありすに続いた。


「洋一どうしたの? 行こう」


「あぁ、分かった。みんな行ってきます」


 黒いマントを羽織り、乃愛と一緒に外に出た。

 ありすと祥平はすでに新国家の外に通じるゲートがある東区へ向かい歩き始めていた。


「ありす! すぐ追いつくから先に行っててくれ!」


 ありすが振り向き俺に手を振った。


「乃愛はありすと祥平と先に行っててくれ。俺はこの後、食堂で待ち合わせをしてたから断ってくる」


「うん。気を付けてね」


 乃愛と別れて俺は食堂に向かった。

 アトマと沙羅さらと待ち合わせをしていたのだ。急に予定が入ったから断るしかない。

 電話で伝えればいいとも思ったが、外に行く件もあるので直接会うことにした。

 北区にある食堂に入るといつもの席にアトマと沙羅がいた。その隣の席に剛と里菜、ミナトがいた。


「あれっ? 洋一さん、お昼食べないんですか?」


 手ぶらで来た俺にアトマが首を傾げる。


「ごめん。急に用事が入ったんだ」


「そうなんですか」


「ちょっと、ありすとかと外に行くことになってな。何日か戻らないと思うから剛、俺が戻るまで2人を頼んだ」


「外って……まぁ、俺はいいけど」


「そんな、心配そうな顔しなくても子供じゃないんだから私とアトマは大丈夫よ」


 沙羅がそう言って口にスープを含んだ。

 アトマも沙羅もギルドに所属してからどこか変わったように見える。

 沙羅と初めて会った時は、酒に酔っていて体を売っていたんだっけな。インパクトが強すぎて今でも覚えている。

 アトマはトイレに起きたところを俺がカジノまでの道を聞いたんだっけ。

 2人共その時と比べて随分と明るくなった。


「じゃあ、行くわ!」


「行ってらっしゃい」


「気を付けて下さい」


 食堂を後にしてみんなが待つゲートに向かった。


「あっ、洋一来た!」


 ありす、祥平、乃愛がゲートの前に立っていた。


「悪い。待たせたな」


「ううん。用事は済んだの?」


「完璧だ」


 俺とありすのやり取りを見ていた祥平が振り返りゲートに足を進めた。警備員に国民証を見せると簡単に新国家の外に出ることができた。

 これは正規の手続きだが、新国家の中には外と通じている秘密の抜け道があるらしい。そこから出入りしている者も多いと聞いたことがある。

 何はともあれ無事外に出ることができた。


「で、だ。どうやって松林高校まで行くんだ?」


 祥平がスマホのアプリのマップを開いた。しかし、現在地が表示されなかった。妨害電波かなんかだろうか。

 貴族には一ノ瀬みみという機械に長けている女がいる。マップに現在地を表示させなくすることなんて容易にできるだろう。


「ここはどこなんだ?」

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