第91話 林が与えた役割

◆  ◆  ◆


 ここで場所を銀城に移し、金軍のありす率いる攻軍が銀城に辿り着く前まで遡る。

 銀軍の将軍である林が銀城から姿を現し、作業をしていた仲間に飲み物を配り、労いの言葉をかけていた。

 将軍ゲームが始まって以来、何かと林と行動を共にしている犬夜いぬやも一緒だ。

 林は集まった人らにしばらく声を掛けると犬夜にその場を任せ、罠を仕掛けた場所に向かった。





 俺と乃愛のあ、レイナは銀城近辺の茂みの中にいた。3人で向かい合って座っている。


「作業は順調。後は敵を待つだけだな」


 俺は土で汚れた手をぱんぱんと叩いて払った。

 レイナは俺の言葉に反応せず、じっと地面を見ている。


「洋一、なんで林は私たちに役割を与えたんだろう」


「さあな。俺には分からないな」


 乃愛の質問にそう答えた。

 将軍ゲーム開始直後、林は銀軍全員のポイントを回収し、自身が思う最低限のポイントを均等に再分配した。

 実はその他にも林は行動を起こしていた。


 林は銀城に俺、乃愛、レイナ、犬夜など数人を呼び出し、それぞれに役割を与えたのだ。

 俺と乃愛、レイナには奇襲部隊という役割を与えた。そして今後実行しようと考えている作戦を伝えた。


 林の作戦はこうだ。

 林が仕掛けるよう命じた罠に掛かった敵兵は必ず後退する。万が一後退せず銀城に向かってきたとしても門の内側に待機させている斧部隊が敵を迎え撃つ。

 後退した場合は斧部隊を追わせ、森の中に追い込む。

 そして、木の上に身を隠している俺たち奇襲部隊が木の上から槍や土のうの雨を降らせてさらに追い討ちをかける。

 その奇襲部隊の隊長に俺が選ばれたのだ。

 斧部隊には犬夜が選ばれた。


 林は作戦の流れを一通り話すと奇襲部隊の俺と乃愛にだけ作業に取り掛かるように指示を出し、銀城の外に向かわせた。

 銀城には林と犬夜、レイナ、それから斧部隊の隊長を任された笠松吾平かさまつごへいが残った。

 林に銀城に残るよう言われた3人は各々個別で極秘の任務を言い渡された。


「噂をすれば林だ」


 落とし穴が仕掛けられた方へ歩いて行く林の姿を見つけた。


「あっちからこっちは見えないよ」


 乃愛の言う通り俺たちがいるのは茂みの中だ。それに距離も少しあるので林からこちらは見えないだろう。


「はやし……」


「レイナ?」


「なんでもない」


 乃愛がレイナに聞いたがレイナは首を振った。


「俺たちだけ休憩してるのも悪いしそろそろ持ち場に戻るか」


「そうだね」


 俺たちは立ち上がり持ち場に戻った。


「洋一さん、お疲れっす!」


 高い木が生い茂っているエリアに俺、乃愛、レイナが戻ると、へこへこと男が近づいてきた。

 ギルドの顔馴染みの男だ。銀軍には何人かギルドのメンバーが選ばれている。


「お疲れ! 進行状況はどうだ?」


「もうすぐ終わりってところっすね」


「そうか。悪かったな俺たちだけ休ませてもらって」


「そんなの気にしなくていいっすよ。俺らだって交代交代でやってるんで」


 へこへこと男が頭を下げる。

 進行状況をチェックするべく辺りを見回すと、奇襲部隊に選ばれた約150人が協力して作戦の準備をしていた。

 落とし穴を掘る際に出た土を土のう袋に入れ、それをロープで木の上まで引き上げる。

 別の部隊が斧で切った木や竹の一部をもらい、手頃な大きにカットし先端を尖らせて槍を作った。それも木の上に運んだ。


 これだけ準備をしても金軍がどこから攻めて来るのか分からないので、俺は偵察部隊の情報を参考にし、いくつかのポイントに奇襲部隊を分散させてスタンバイさせた。

 どのポイントでも準備が整っていることを確認すると俺はロープを使って木の上に登った。

 俺が登った隣の木に乃愛とレイナが登った。


「うひゃっ、さっきも登ったけど高いね」


 乃愛が下を見て体を震わせる。


「間違っても落ちるなよ」


「うん」


 頷いた乃愛よりも上の枝に立っているレイナは右手に持った槍の先端を地面に向けていた。その表情は無表情だがどこか笑っているようにも見える。

 ポケットの中でスマホが振動した。


【偵察部隊A班を撃破したと思われる敵兵約200人が銀城に接近している模様。奇襲部隊は準備せよ】


 偵察部隊の隊長からのメールだった。

 すぐ近くまで敵が迫っているようだ。

 俺は送られてきたメールの文面に【息を殺して絶対に気付かれるな。それができるかどうかでこのゲームの勝敗が分かれる】と付け足し奇襲部隊のメンバー全員に送信した。

 俺も心を落ち着ける為に深呼吸をした。


 数分後、俺たち奇襲部隊が潜んでいる木の下を金軍のありすたちが通った。

 隣の木にいる乃愛が、ありすの姿を見つけたのか目で合図を送ってくる。ギルドのメンバーの揚羽やジル、ロッドの姿もあった。


 なんとかこの場をやり過ごすと無意識にため息が出た。この場をやり過ごしたという安堵からだろうか。そしてやり過ごしたということはいよいよその時が近いということだ。

 林の策通りに事が運べば、罠に掛かったありすたちが引き返してここを通る。そうしたら奇襲部隊の出番だ。


 作戦を聞かせれたとき、そこまでするのかと一瞬躊躇ったが、これは選別ゲームだ。手を抜いて戦うなんて真似はできない。俺は2度の選別ゲームでそれを痛いほど経験している。

 それに外のみんなとも約束をしてきたんだ。こんなところで俺はまだ死ねない。

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