第90話 見知らぬ敵
◆ ◆ ◆
斧を持った銀軍兵との一戦を終えた俺たち独立軍は、ありすさんと合流するべく南に向かって山道を歩いていた。
戦いで負傷したフトシの治療をするべくコロモと里菜、ミナトが一時離脱した。
それによって現在の独立軍は俺、
「あのっ、本当にこっちであってるんですか、リーダー?」
瑠羽子が力の無い声で聞いてきた。
「大丈夫だ。地図通り進んでるから間違ってないよ」
俺はスマホの画面を見て、英司から送られてきた手書きの地図を確認する。
「なんだか騒がしいな」
「うん。近いな」
隣を歩いていた祥平と目で合図する。
近くで戦闘が行われている可能性がある。ありすさんの攻軍か
「はやと、近づいてきてないか?」
後ろを歩いていた剛がそう言った。
剛の言う通り確かに複数の叫び声が徐々に近づいてきている。
「みんな、行こう」
銀城がある南から東に進路を変え、声がする方向に向かった。
少し足を進めるとすぐにこの声の正体が分かった。
「ありすさんだ!」
ありすさんと
でも、なんで金城の方向に走っているんだ?
ありすさんは銀城を落としに向かったはずだ。
「ありす! なんで戻ってきたんだ!」
祥平が叫ぶ。
祥平の声でありすさんが俺たちに気付いた。
「後ろ! 逃げて!」
「後ろ……?」
ありすさんがそう叫んで俺たちの横を通り過ぎて行った。
攻軍が完全に通り過ぎてありすさんの言葉の意味がようやく分かった。意味を理解すると同時に俺たち独立軍は攻軍の後を全力で追っていた。
あの場に残っていたら全員間違いなく死んでいた。斧を持った銀軍兵が150人、いや200人ぐらいで攻軍を追ってきていたのだ。
「ったくあの戦いの後からの全力疾走はきついぞ」
鮫島が顔をしかめて必死に走る。
「あんたはタバコを吸ってるからだろ」
「うっせぇー、もじゃもじゃ! タバコを吸ってないお前もヘロヘロじゃねーか」
鮫島が尾口の鳥の巣のような髪の毛をわしゃわしゃと触る。
「触るな」
尾口が鮫島の手を払う。
「ほら、そんなペースじゃ追いつかれるよ。わたしとリーダーが一番後ろを走るから死にたくなかったらペースを落とすんじゃないよ」
「分かったよ。くそっ!」
鮫島と尾口が走るスピードを上げた。
それと入れ替わるように菜月が尾口と鮫島の後ろに回った。これで菜月が最後尾だ。
「ということだ。祥平と剛には、瑠羽子と尾口、鮫島を任せたぞ」
「あぁ分かった」
「はやとも気を付けろよ」
祥平と剛に体力が残り少ない3人を任せて俺は菜月の元へ向かった。
菜月はまだ体力の心配は無さそうだ。さすが柔道で全国2位になっただけのことはある。
後ろを振り返ると銀軍兵は追ってきているものの距離が離れ始めていた。どこから追いかけてきているのかは知らないが、斧を持って走るのは相当体力を削るはずだ。
「副将は金城に向かっているようね」
「あぁ、攻軍の様子を見るに途中で何かあったんだろ」
ほんの数分で俺たちは攻軍に追いついた。
これにより俺と菜月は攻軍の最後尾を走っていることになる。
攻軍の人たちを見ると衣服が汚れていて、額から血を流している者もいた。皆同じく目の輝きを失っているように見えた。
「おい、何があったんだ?」
俺は前を走っていた攻軍の女に尋ねた。
「ジルさんとロッドさんが……それにギルドの人たちも」
女は振り返らずにそう答えた。
そういえばジルとロッドの姿をまだ見ていない。ギルドの顔見知りのメンバーもだ。
女の言葉に俺は最悪の事態が頭に浮かんだ。
(死んだのか?)
信じたくない。信じたくないがそれが事実だとしたらこうやって金城に向かっていることも辻褄が合う。
さらに数分走ると金城の正門が見えてきた。
見張り役がありすさんの姿を確認するとゆっくりと門が開いた。俺たちは門の中になだれ込むようにして入った。
最後尾の俺と菜月が門をくぐると門は閉じられた。
門のそばで攻軍の大多数と鮫島や尾口が地面に大の字になっていた。
「ちょっと上から外を見てくる」
「分かった」
菜月にそう言い残し、見張り役がいる石垣の上まではしごを使って登った。
「あ、あなたは独立軍のはやとさん。どうかしましたか?」
「見張りお疲れ様です。少しいいですか?」
「あっ、はい。どうぞどうぞ」
見張り役の男は左に移動し、俺の為にスペースを作ってくれた。男は5人組が集められたときに近くにいた人だった。
俺は石垣の上に作られた場所から外を見下ろす。
俺たちを追ってきていた斧を持った銀軍兵は金城を見上げると南の方角にぞろぞろと引き返して行った。
その中で男が1人立ち止まり、俺を指差して、
「ターゲット確認。次会ったら殺す」
と、笑顔で言った。
そして、その男も金城の前から立ち去った。
「はやとさん、あの人とは知り合いですか?」
「いえ、全く。初めて会いました」
俺を殺すと言った奴と目が合った瞬間に俺は鼓動が早くなったのを感じた。
姿が見えなくなった今でも普段より少し鼓動が早い。
「外の様子は俺には分かりませんけど、城の守りは任せて下さい。英司さんの指示で全方位を見張ってますので」
「ありがとうございます。引き続きお願いします」
「はい」
はしごを下り、みんなのところに戻った。
門の前でありすと揚羽、祥平の3人が話をしていたので俺もそこに加わった。
「ありすさん、銀軍兵は引き返して行きましたよ」
「そう。それは良かったわ。いくら武器を持っていても独断で敵の本拠地に攻め込むような真似はしなかったのね」
ありすさんがふぅーっと息を長く吐いた。
「はやと、なんか顔色悪いぞ」
祥平が俺の顔を見てそう言った。
「これは大丈夫だ。ゾーンに入った後は反動で体が重くなるんだ。少し休めば元に戻る」
敵が攻めてこないと分かり緊張状態が解けたのだろう。全身が重くなった。
「ゾーンって?」
揚羽が首を傾げる。
「後で説明するよ」
「うん」
今揚羽に一から説明している時間はないので、落ち着いたときに話すことにした。
「門開きます!」
見張り役の男が大声でそう言い、石垣の下にいた数人に指示を出した。
指示を出された数人は門の前に集まると内側に門を開いた。
重い音を立てて開かれた門の外には独立軍のリーダー
「急に呼び戻して、なんかあったんかいな」
「詳しくは分かんないすけど、英司さん曰く緊急らしいっす……」
「いいとこだったよな?」
「もう少しで全滅でしたね」
玲央の手には銀軍兵が着ていた銀色のビブスが握りしめられていた。10着近くはあるだろうか。
玲央が俺の前で立ち止まった。
「なんでそんな汚れてるんや?」
「敵と遭遇して戦ったんだ。お前こそそのビブスはどうしたんだ?」
玲央がそう聞かれてニヤリと笑った。
「敵の小隊と一戦交えたんや。もうちょっとで全滅やったんやけど、兄貴からの呼び出しとなれば仕方ないわ」
玲央が仲間の元に戻った。
すると、金城から将軍の英司を護衛している
「全員揃ったみたいだな。今から緊急で会議を行う。5人組のリーダーと副将、独立軍のリーダーは2階に集まってくれ。英司さんがお待ちだ!」
「それ以外はどこにいればいい?」
祥平が不破に聞いた。
「攻軍と独立軍の人は城の中で待っててくれ。1階で好きなものを買って休むといい」
不破は城の守備をしている人たちにも声を掛けに行った。
「それじゃ、会議に行ってくる。剛は里菜とミナト君を探してみたらどうだ? 城の中にいるはずだ」
「あぁそうするよ」
剛が頷いた。
「鮫島、尾口行くぞ」
俺と鮫島、尾口で会議室に向かった。
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