真白

「全ては白紙に戻る。

遅かれ早かれ貴方たち二人は白紙に戻る運命だったのよ。

私はこれで良いと思うわ。」


当たるも八卦、当たらなぬも八卦。もともとさほど期待してきたわけではないけれど、そう言われると、一瞬頭が真っ白になる。


青空に浮かぶ白い雲は私が何歳いくつになってもふわりと爽やかな白で、バニラソフトクリームは甘い白のままで、豆腐の白も柔らかいつるんとした白いままなのに、大人になった私の中に浮かぶ「白」は崩壊を表すものと化した。


白紙に戻る。今まで段取りや計画、手をかけて進めてきたことが何かの拍子に無駄になり、ゼロに戻る。

費やした時間も努力、なにより気持ちも全てがゼロにもどる。

白い煙をたてて消えてしまう。

それを目の前にする私は頭を真っ白に立ち尽くして失望、あるいは絶望するのだ。


何歳いくつになると白は純白でなくなるのだろう?


お盆休み、混み合う空港行きの電車の座席で、

10歳くらいの少女と隣り合わせている。

私も含めて無機質なスマホやタブレットを出す大人に囲まれて

その子が大きなキャンバス生地の手提げから取り出したのは、

A4サイズのお絵描き帳。


お絵描きという幼い子供では無い。

夏休みの宿題、絵日記?


野次馬根性でそっと覗き込む。


彼女は恥ずかしそうに自分のお絵描き帳を開き覗く。


想像の世界じゃ無いよ

これは本当に起こっていることなんだよ。


どうやら物語を書いているようだ。


彼女のお絵描き帳にはマス目も線もなく真っ白。

まるで彼女の将来と可能性のようだ。

そのページのどこから、どのように描いても良い。

どんな風に色をつけても良い。立体的に折ってもよい。

可能性に溢れている。


ネットの情報や

誰かの意見に左右されない、自分の想像を思ったままに書きなぐる。

マス目なんかの枠に収まらなくて良い。

引かれた線の上にいなくても良い。


真っ白な紙に縦横無尽に書きなぐれ。



そう。ペンじゃなくて、2Bくらいの鉛筆で

力強く。

間違ったら消しゴムで消せば良い。

そしてまた真っ白にして、また想い描き、想像を形にしていく。


可能性。将来。未来。素直。ありのまま。夢。


真っ白。


良い言葉。


大人になると

いつから

真っ白がマイナスイメージなるんだろう。


頭が真っ白。

白紙に戻す。


あったものがゼロに戻る。


努力したものがすべてゼロに戻るという崩壊を表す。



真っ白とはゼロになること。

ゼロになるということは

何をしても良いということ。

悪い意味じゃ無い。

新しいチャンスが

出会いが

想像が生まれるということなのだから。


少女が新しいページをめくる。


待てよ。


白紙にするという事は何も消しゴムで消すだけじゃ無い。

書き損じなんてどこにもない。

書き溜めたことを参考にしながら、

開いた真新しいページにまた書きなぐる。

白紙に戻るではなく、白紙を新たに用意しました!ってな感じに。



カバンから彼女のお絵描き帳を覗く者は他にもいる。

ペヤングやきそば

UFO焼きそば....。


少女がお絵描き帳を戻そうとカバンを開く。

一平ちゃん焼きそば...。


なぜ全部焼きそば?

未来の物書きさんは即席焼きそばがきっと好きなんだろうな。

チープなようで、それらが完成されるまでの物語が深そうだ。

この焼きそばに至るまで、白い紙を何枚も何枚も、何度も何度もめくったんだ。

失敗なんてどこにもない。

年齢なんて関係ない。


真白は永遠に約束のない、未知数な未来を表す。

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