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14階の自室から眺める夜の顔は真っ暗ではない。
今夜は月も星も見えない、雲が墨色の空を幾重にも、遠くまでグラデーションしていて、遠くで雷光がその顔を照らす。
誰が、夜はカラフルでないと言ったの?
レインボーのように色彩豊かなカラフルさはないかもしれないけれど、私にはこのグラデーションがカラフルと思える。
それに、静まり返った世界が運ぶ風と匂いには、リカーネーションがある。
同じ恋人と何度別れを繰り返せれば前に進むの?
真夜中に良く冷えた白ワインの入ったグラスを床に置くと、カツンという割れそうで割れない音がする。
夜が静かなぶん、世界が寝静まり返っているぶん、カツンという音は、そこにスポットライトがあたるように大きく研ぎ澄まされたように聞こえる。
割れそうで割れないのはグラスではなく、私自身かもしれない。
このグラスが割れたなら、私自身の心も砕けるかもしれない。グラスを持ち上げて乱雑にグラスを叩き置いてみる。
カン。
音がとがっただけでグラスはまだ割れない。
壊れてしまえばいい、私もグラスも。そうは思うものの、どちらも一向に壊れない。
壊したいようで壊したくない。
壊したくないようで壊したい。
壊れてしまうと、悲しくて仕方がない。
壊してしまえば、全ての不安と恐怖から解放される気がして、壊してしまいたい。
壊してしまうために、高くグラスを振り上げた自分を、自分たちを悔いるばかり。
雷光が遠く見えないかなたで暴れている。
あなたも、私と同じように、この瞬間を過ごしているのですか?
同じTRYならば、どうして壊す選択以外ができなかったのですか?
修復するよりも、壊してしまう方が簡単で、楽だと思ったから?
叩き割られたグラスの破片は触れる物全てを傷つける。
それなのに、もうこれ以上、誰も傷つけないように1つ1つ拾い上げ葬られることを待っている。
星も月も見えない夜空の向こうで、涙を流すように雷が光る。
夜風が私の頬を優しく静かに撫でる。
遠くの夜空で誰かも涙を流しているのか、夜風は少し湿っている。
今夜は、もう目を閉じよう。目を閉じよう。
遠くで雷光が夜空を照らす。
雷光が私の背中を照らす。
背中越しに、頬につたうものを照らし、夜風はまた湿り気を増す。
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