第5話「外の世界はすべてがリアルタイム」【アキオ】

僕は四年ぶりに、外へ出た。

部屋の外の世界、そこは時間の流れが違う世界であるように思える。

閉じた空間では時間は淀んでおり、ゆっくりと流れていく。

でも外の開けた世界に出ると、時間の流れがとてつもなく速く思えた。

しかも、多くのものがインタラクティブな反応を要求する。

僕はそうした要求に答えるため、久しぶりに脳の活動を全開にしていた。

まあ、ネットの世界でもインタラクティブだといえば当然そうだけど、リアルタイム性を要求される場面はさほどない。

でも、外の世界はすべてがリアルタイムだった。

僕は、外は強度の世界だと思う。

測定したり、数値化することのできない力が次々に襲いかかってくる。

四年前は、そうしたことを当たり前にやっていたんだなあと思うと、少し驚く。

無重力の世界に慣れた宇宙飛行士が、久しぶりに地上に降りたらこんなふうに感じるのかと、思ったりする。

さて、僕が会いにいこうとしている彼女は、ナツと言う名だ。

ハヤカワ・ナツ。

彼女は、そう名乗った。

ナツは、僕と同い年くらいのようだ。

仕事はしているみたいなのだが、要領をえないところを見るとフリーターみたいなものらしい。

彼女は僕らの暮らす極東の島国の、首都圏に住んでいる。

海の近くらしいが、海辺な感じではない。

空港や高速鉄道の駅も近くにあるようで、首都圏の玄関口ともいえるエリアだが、然程開けたところではない。

けれど、下町というほど寂れているようでもなかった。

このあたりは住宅地と商業地の区分が少々曖昧になっている、エリアのようだ。

僕は、ナツの指定した最寄り駅から少々迷いながらも、スマートホンの地図を駆使して彼女の住む家へ向かった。

秋の夕暮れ時であり、歩くにはいい気候だ。

けれど、ありふれた街並みが続くその街は、さして散歩するのに楽しく感じさせる場所ではない。

そして、ようやく僕は彼女の住むビルを見出す。

それは古い城塞かと思うほど老朽化した、雑居ビルだった。

五階建てだけれど、エレベータとかはないようだ。

一階には、営業しているかどうか怪しげな喫茶店がある。

ビルの中には、色々な事務所があるようだけれど、個人の住居も混在しているふうだ。

ナツは、そんなビルの最上階にあるペントハウスに住んでいた。


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