第4話「人生は、ロシアンルーレット」【ナツ】

人生というものは、ロシアンルーレットだ。

わたしはいつも、そう思っている。

もし目の前に扉があれば、とりあえず開いてみるだろう。

その先がどこに繋がっているかなんて、考えても仕方ない。

もし目の前に道があれば、まずはそこを歩いてみる。

その先が天国であろうと、地獄であろうと、どちらでもかまわない。

ここではないどこか、そこへ行けることが大切なことなのよね。

だから、もし拳銃が道端に落ちていれば、拾って撃ってみるの。

どうなるかなんて、考えたってしかたないじゃない。

そこにはきっと、戦慄的な世界が待ち受けている。

わたしは、いつもそう思っていた。

そして、わたしが会うことにしたそのおとこの子こそ、道端で見つけた拳銃。

わたしは、そう思っているの。

おとこの子って言っても、三十手前のおとこのひとなんだけれどね。

そのひとは、謎なひとだ。

なぜなら、彼は信じているみたいだから。

わたしが、空を飛ぶことができるということを。

まあ、普通はそんなことを呟いていたとしても、詩的な表現だとか比喩的なことだとか思うじゃない。

でも彼は、わたしが空が飛べると信じているらしい。

危ういと、思う。

とっても危ういし、怪しくもある。

それだけで、わたしには会ってみるのに十分な理由となった。

わたしは、知りたかったの。

わたしが何ものであり、なぜ空を飛ぶことができるのかということを。

何しろ、わたし自身まだ自分が空を飛べるということが信じがたい、ありえないことだと思っている。

わたしですら信じていないことを、彼は信じているらしい。

一体どこからそんな確信を得たんだか、見当もつかなかった。

彼の名前は、アキオ。

トオノ・アキオと名乗っていた。

4年間ずっと、引きこもっていたそうだ。

まあ、わたしも似たようなものなのだけれど。

アキオは、わたしを尋ねてくることにした。

4年間、ずっと閉ざされていた扉を自分の手で開いて。

不安と期待、そのふたつが並んで輪になって踊っているような気がする。

彼は、扉を開いたけれどわたしもまた扉を開いたような気がしていた。

それは、常軌を逸した世界に繋がる扉に違いない。

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