第二話 ゲームの世界に行けるらしいです。

「じゃあ、今日の授業はここまでだ……日直!」


「起立!礼!着席!」


「ありがとうございました位言えよな……」


先の先生が言った通り、俺のクラスは皆号令の時にありがとうとは言わない。他の先生は気にしていないがこの社会科の先生だけは毎回落ち込んでいる。


「なあ陸、放課後暇?」


そう言いながら宮本は俺の肩に寄りかかってきた。やめろ俺にそんな趣味は無い。


「いや、バイトが……」


「え、陸バイトしてないじゃない」


おのれ七菜花……許すまじ


七菜花の言葉を聞いてさらに体重をかけて 遊ぼうぜー なんて言ってくる宮本。


「わ、わかっ」


「ねえ」


わかった。そう言おうとした時、イロハちゃ……黒澤 イロハさんが話し掛けてきた。


「なんですか?」


俺と宮本、そして七菜花は黒澤さんの方を向いて次の言葉を待った。


「あの…………助けて下さい」


「「「え??」」」


それは突然の事だった。助けて?何からだ?元彼?それともいじめ?そんな事を考えながら各々で頭を悩ませていた時、さらに追い討ちをかけるように彼女は……黒澤 イロハは言った。


「山崎君、私と一緒に魔王を倒して欲しいのっ」


倒す?魔王を??なんだなんだ、アプリゲームの勧誘か何かか?流石に二次元よりの容姿だからって実は私はゲームの世界の住人なの!なんて非現実的な展開にはならないだろうし。


「実は私……ゲームの世界の住人なの」


言っちゃったよ。合ってたよ俺、というか黒澤さんがゲームの世界の住人?って事はやっぱりあのイロハちゃんなのか……?


「ちょ、ちょっと黒澤さん何言ってるの?ゲームの世界の住人?魔王を倒して欲しい?どういうことなの??」


七菜花は随分と混乱しているみたいだ。それなのに宮本は、


「劇か何かか?」


呑気だなこいつ。


「えっと、ごめんなさい。私は山崎君に話しているのでお二方は……」


「「え?」」


なるほど、意外とズバッと言うな黒澤さん。よし、一番気になっている事を思い切って言ってみようか。


「あの、黒澤さんはゲームの世界の住人なんですよね?」


「はい!そうです!」


もしかしたら……


「きゅ、きゅんクエのイロハちゃん……?」


「きゅんクエ?」


おっと、つい癖で略称してしまった。


「萌えろ!きゅんきゅんクエストのイロハちゃん、ですか?」


「え、」


え?まさか違う?見当違い!?


「知ってるんですか?私の世界!」


イロハの瞳がキラキラ輝き、陸を期待の眼差しで見ている。


まるで伝説の勇者を見つけた時の村人のようだ……上手い言い回しが思いつかないからこれでいいか。しかし、私の世界か、やっぱり黒澤さんは二次元の住人なのか?それとも只の厨二??


「えと、毎日やってるゲームなので知ってます……その、助けるとは一体?」


頑張った!頑張ったぞ根暗系オタク!二度も質問してやったぞ!ご褒美にラノベ買って帰ろうかな。


「そうですね、凄く簡単に纏めると私と一緒にゲーム……もとい、きゅんクエの世界に入って魔王を倒して欲しいのです!」


確かに簡単に纏めたが、新しい謎が。


「どうやってゲームの中に?」


これがはっきりしないことには何も始まらない。そう思ったら勝手に質問してた。無意識って恐ろしい。


「それは、このペンダントで!」


そう言ったイロハの手のひらの上には綺麗なエメラルドグリーン色の水晶がはめられたペンダントがあった。そのペンダントを陸は知っていた。


「そのペンダント……」


そう、そのペンダントはゲーム内に出てくる別次元に飛べるペンダントなのである。


「この世界にもこのペンダントで来たの、勇者を探しに」


まだ信じるには値しない(というか只のコスプレ少女に見えてきた)が、二次元に行ける。試すには十分すぎる動機だった。


「き、協力します」


「やったぁ!!ありがとう!山崎君!」


「え?って陸!何受けてるのよ!」


うわ、七菜花が凄く怖い顔してやがる、般若かよ。


「結局ゲームの話なんだな!」


きっと宮本は全く状況を理解してないだろうな。まあいいが。


「じゃあ、さっそく行こうか!山崎君」


「え、ちょっと!まっ」


そこで七菜花の声が聞こえなくなった。聞こえなくなったというよりは景色が変わったというような……だめだ全く伝わらない。


にしてもやっぱり来てしまったんだな、目の前に広がる大自然や足元に居る小さなモンスター、俺達の服装で全てを察した、ここはきゅんクエの中だ。何か言いたかったが言葉が見つからない、どうしたものかと俺が必死に言葉を探していると、不安そうな顔をした黒澤さんが覗き込んできた。


「山崎君、大丈夫?」


「あ、うん。大丈夫です」


それでも眉を下げている黒澤さんに笑いかけると安心したように笑い返してくれた。可愛いなあ。


「さあ山崎君、始めようか!冒険を」


「う、うん」


こうして俺と黒澤さん、もといイロハちゃんの魔王を倒す為の冒険が始まったのだった。


「あれ、これ元の世界に帰れるのか!?」



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