マロン・グラッセ

 栗を使ったお菓子の定番といえば、海外だとマロングラッセ

 日本では、モン・ブランで間違いないでしょう

 

 日本においては、まだまだマロングラッセを扱っているパティスリーは少ないですし、わざわざ買いに行く消費者もいないというのが現状

 栗を食すなら、天津甘栗や和栗がありますからね

 そんな中で、一粒300~600円もするマロングラッセはなかなか選ばれません

 食べたことがある人も、たいていはプレゼントなどの貰い物が多いのでは?


 さて、このマロングラッセですが、作るのに非常に手間暇がかけられています

 使うのは、いがの中でも一番大きな栗一つ

 殻を剥き、まず糖度20度シロップ20ボーメで2日ほど煮ます

 その後、2日ごとに24,28,30、32と糖度を上げていき、最終的には30に戻してから保存(糖度32だと糖化――いわゆる結晶化するため)

 香りづけに、バニラや洋酒が用いられることも多いですね


※ボーメとは比重を表す単位――科学の分野だと〈゜Bé〉こんな風にややこしい記号ですが、製菓だと〈B〉のみで記されていることが多い

 水1ℓに対して、溶かした砂糖の量が多いほど糖度が高くなります

 熱いシロップの場合だと、20Bは砂糖794g、24Bだと1092g、28Bは1470g、30Bは1700g、32Bは2054g


 上記の通り、長い時間、火にかけるので作っていく過程で幾つかの栗は崩れてしまいます

 現在では、量産するシステム(機械による完璧な温度管理)ができていますが、当時は職人の腕一つで作られていたため、とても贅沢な逸品とされていました


 しかしながら、このお菓子が人々に受け入れられるには時間がかかりました

 何故なら、栗は貧しい人々が食べる保存食の一面があったからです

 

 事実、2016年になった今日でも、加工していない栗を好まないフランス人はいらっしゃいます

 というか、日本でも和栗を食べる機会は減ってきているので、若い人は苦手という方が多いかもしれません

 曰く、食べにくい、ぼそぼそしている、味だって素朴でほとんど感じない(田舎だと、虫が入っていて嫌いになったとかもありますが)

 

 そんな不人気だった栗を秋のお菓子の王者に変えたのは、国王のシェフかつシェフの帝王と謳われたアントナン・カレーム(1784~1833)

 余談ですが、彼をモデルにしたライトノベルが野村美月先生――ファミ通文庫さんから出ていますね


 ちなみに、マロングラッセと似たお菓子はルイ14世(1638~1715)の頃に既にありました

 ただ、甘く食べやすく、日持ちさせるための加工だったので、煮崩れていたり、糖化していたりと洗練されたものではなかったようです

 それでも、フランスのアルデシュ地方を始めとした地域では、クリスマスや新年のお菓子として親しまれていたとか



 それでは、最後に紅茶と合わせてみましょう

 どれだけ姿を変えようとも、マロングラッセは栗に違いありません

 ですので、やはりコーヒーは合わないでしょう

 また、フレーバーティーもお勧めできません

 たとえ栗のフレーバーであっても――

 

 マロングラッセの大半はバニラや洋酒の香りを纏っていますので、これ以上の香りはいらないのです


 あの、素朴な味

 栗の形をして、栗の歯ごたえを持ちながらも柔らかく、口の中で綺麗に溶けていく独特なテクスチャー

 

 これを活かすのは、やはりノンフレーバーのストレートティー

 アッサム、キームン、セイロンがいいかな

 もちろん、アッサムはC.T.C.ではなくてリーフで

 

 イメージだけでなく、お値段や作り方を見てもマロングラッセは贅沢なお菓子です

 だから、紅茶もオシャレで決めたい

 というわけで、私はマロングラッセにはリーフのアッサムティーでいただきます


 ちょうど秋の季節ですので、皆様もマロングラッセを買ってみてはいかがでしょうか?

 一人で食べて、ちょっとした贅沢やオシャレを楽しむのも良し

 二人で食べて、ちょっとした特別感を味わったり――

 みんなで食べて、高すぎるお値段に文句を言い合うのも楽しいかと思います

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