サン・トノーレ

 サン・トノーレといえば、パリのフォーブル・サン・トノーレ通りを思い浮かべる人も多いと思う

 そこはエルメスの本店を始め、パリに拠点を持つブランドのほとんどが集まっている世界屈指の高級ブランド街

 

 また、位置的に様々な観光名所が点在しておりますので、旅行雑誌などでは良く取り上げられていますね

 ルーブル美術館、セーヌ川、マドレーヌ教会、コンコルド広場、エリゼ宮殿、オペラ座……etc.

 まぁ、フォーブル・サン・トノーレ通り~サン・トノーレ通りは結構な距離がありますが

 

 それに伴うように、近辺にある飲食店も有名どころか軒並み揃っています

「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」「ジャン=ポール・エヴァン」「ラデュレ」「ダロワイヨ」「アンジェリーナ」……etc.

 ちなみに、日本の「とらや」もあったり

 

 

 そんな街の通りと同じ名を冠するお菓子、Saint-Honoréサン・トノーレが誕生したとされるのは1846年

 考案者は菓子職人のシブースト

 もしくは、彼の弟子であるオーギュスト(その場合は1863年)

 名前の由来も彼のお店がサン・トノーレ通りにあったというのと、聖人サン・トノーレから取ったという2つの説があります

 

 しかしながら、サン・トノーレは主にパン屋・製パン職人の守護聖人なんですよね

 パン屋はお菓子も手掛けるという理由から、菓子職人の聖人もかねているだけという(菓子の守護聖人はサン・ミッシェル、サン・ルイなど)

 

※聖人について、かなり大雑把な説明

 特定の分野における崇拝対象となる人物、いわゆる偉人のこと(1つの職業に複数名いる場合もあり)

 カトリックの国ではあらゆる職業の聖人がおり、聖人の日――個々の職業の祝日が定められています(サン・トノーレは5月16日)

 フランスでは、毎日がなにがしかの聖人の祝日となっているほど

 焼肉屋、ミートパイ職人、飲み屋経営者……etc.(ほんと節操ないです)

 

 名前のサンはsaintのこと(フランス語では最後の子音を発音しない)

 また、Hは無音なので発音しない(例HERMESエルメス

 そして、フランス語にはリエゾンという連声がある(次の単語の始まりが母音だと、通常は発音しない子音と繋がる)

 Saint-Honoré(この場合tとoが繋がる、hが無音の為)

 だから、サントノーレという発音に至る


 閑話休題、お菓子の説明


 基本となるのは、パイ生地(またはタルト生地)とシュー生地

 扱うクリームはカスタードクリームとメレンゲと少量のゼラチンを合わせたクレーム・シブースト

 こちらは間違いなく、菓子職人シブーストが考案したもので、別名をクレーム・サン・トノーレとも言います

 

 構成はちょっと説明が難しい


1、丸く伸ばしたパイ生地の縁をなぞるように、上からシュー生地を絞る

2、パイ生地の中心にシュー生地をSの字に絞る(パイ生地が膨らまないようにするためなので、S字である必要はない)

3、上記を焼き上げる。それとは別に小さなシュークリームを沢山つくる

4、焼き上げた小さなシュー生地の上部に飴がけする(薄く丸い飴を乗せる感じに)

5、4のプチシューを焼き上げた2――外周のシュー生地の上に飴でくっつける(プチシューで円の周りを全部覆う)

6、中心にこんもりとクレームを絞って山形にならす

7、ならした上に、サン・トノーレ用の口金を使って矢羽状にクレームを絞る


 と、長々と説明しましたが最近ではこんな形は見かけません

 それどころか、クレームシブーストを使っているお店も少ないです

 メレンゲを使いますと、どうしても日持ちがしなくなりますので(衛生的にも、見た目的にも劣化が早い)

 あとはコストの問題ですね

 材料費はもちろんのこと、シブーストは手間が多い上に汎用性が低いので

 

 近年、使われているクリームで一番多いのはカスタードクリームクレームパティシエ―ルホイップクリームクレームシャンティでしょう(6の手順がクレームパティシエール、7がクレームシャンティ)

 あとは変わり種――チョコレート、ピスタチオ、キャラメル……etc.

 形はプチシュー3つで詰め詰めになる小型のモノが定番(4つ目を高く積み上げる)

 たまに、円形ですらないところもあります

 プチシューにはクリームを詰めないお店もありますが、だいたいはクレームパティシエールが入っています(変わり種は除く)


 このお菓子の特徴は、豪華な形と食感の〝妙〟です

 飴のパリッ、シュー生地のザクッ、クレームのフワッ、パイ生地のサクッ

 とてつもなく甘いこのお菓子を食べ続けられるのは、ひとえに多彩な食感のおかげ

 

 カスタードクリームと生クリームで作られている場合なら、まず子供は大好きな味かと思われます

 ただし、甘い物が苦手な男性や大量のクリームが駄目な人はNG

 

 これはある意味、クリームを食べるお菓子でございます


 なので、紅茶もストレートに限るかと

 ミルクティーでは重すぎるのが私の体感

 フレーバーティーもちょっといただけない

 圧倒的な脂肪クリームなので、アイスティーもいや


 ということで、ホットのストレートティー

 それも個性の強いウバやダージリン、アッサムをおすすめする

 その中でも、私が好きなのはウバ

 ウバ特有のキレのある渋みが、濃厚なクリームを次々と口へと運んでくれる


 ……まぁ、コーヒーでもいんですけどね

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