第2話 錆びた懐中時計
「それじゃ、また来るよ」
フランクが行きつけのダイナー(大衆食堂)から出てくると、ライアンが必死の形相で息を切らしながら走ってきた。
「どうしたんだライアン、何をそんなに急いでるんだ?」
「いよぉフランク、今俺の母さんが倒れたんだ」
「そいつは大変だ、それで医者には診てもらったか?」
「そんな金があるわけねぇだろ!
だからこいつを質屋で売るんだ」
ライアンがポケットから錆びた懐中時計を取り出す。
「これはお前の親父さんの形見じゃないか
何よりも大切にしてきたものなんだろ?」
フランクが驚いた。
ライアンの父親は去年、過労でこの世を去っていた。
「あぁ、何事にも変えられないとても大切なものだ
だがこのままだと俺は家族を失っちまうんだ」
ライアンが焦りをみせる。
「と、とにかくお袋さんの面倒は俺がどうにかするよ」
「悪いな、頼んだぜ」
フランクがライアンの家へと向かった。
ライアンも質屋を目指し必死に走った。
ライアンが質屋のドアを開けた。
「すいません、この時計を買っていただきたいのですが」
丸々と太った趣味の悪いスーツと腕時計をした質屋の主人が、それまで読んでいた新聞を畳むと懐中時計を取り上げる。
「ダメですな、こんな錆びついた時計なんか買い取れません」
金歯を覗かせながら主人が時計をライアンに返した。
「死んだ父親の形見なんです
とにかく金が要るんです、お願いします」
ライアンが必死に頭を下げる。
「こんなガラクタを買い取ることはできませんよ
さぁ、お帰りください」
店主が再び新聞に目を通した。
「お袋が死にそうなんだ、医者に行く金が欲しい!」
ライアンが目に涙をためながら叫んだ。
「しつこいぞ、この若造め
そんなバレバレのウソをついたってこんなガラクタは買い取れないといっておるだろ!
さぁ帰れ、早くしないと警察を呼ぶぞ!」
主人がライアンを怒鳴りつける。
「この成金野郎め!
お袋が死んだらお前の責任だぞ!」
ライアンが店を出た。
ライアンが力なく自宅へと戻った。
すると、そこには何かを言い出せずにいるフランクとベッドの上で眠っているような表情のライアンの母親がいた。
「残念ながら、たった今息を引き取ったよ」
フランクが申し訳なさそうに呟いた。
「ち、畜生!」
ライアンがフランクの胸ぐらを掴んだ。
「なぜだ、なぜあの時計を買ってもらえなかったんだ
なぜ俺たちアイルランド移民はこうやって虐げられなければならなんだ!」
ライアンがその場に泣き崩れた。
傍らには、何も言い出せず立ちすくむフランクがいた。
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