正義の契約
フロイド
第1部 大恐慌時代
第1話 アイルランドから来た二人
1924年、アメリカ北部はイリノイ州にあるシカゴ。
工業地帯として有名なこの町の製鉄工場で二人の若者が額に大粒の汗を流しながら必死に作業をこなしていた。
その若者の名はフランク・ハンバーとライアン・ウィリアムズ。
共に20歳の将来溢れる若者であった。
「今月の給料もこれしか出なかったか」
ライアンが薄い給料袋を手に取りながらぼやく。
「まぁ仕方ないさ、俺たちみたいなアイルランド移民にはこれだけでも充分だろ」
フランクが苦笑いをする。
実は二人の祖父はアイルランドからの移民であった。
1849年に起こったアイルランドの大飢饉の影響で数多くのアイルランド人がアメリカに仕事と食べ物を求めてやってきた。
二人の祖父もその内の一人だったのだ。
しかし、本来アイルランドというのはアメリカ人の多数であるイングランド系のルーツであるイングランドに支配された土地であったことから不当な差別を受け続けていたのだ。
それはこの当時でも全く変わっていなかった。
「お袋さんの病状はどうなんだ?」
フランクがライアンに尋ねる。
「ちっともよくなる気配はないな、なんせ薬はおろかろくな食事も与えられていないからね」
ライアンが寂しげに呟く。
ライアンの母親は当時不治の病とされていた結核に侵されていた。
「困ったことがあったらなんでも言えよ、俺たちは同じ仲間なんだから」
「悪いな、それじゃあまた明日」
ライアンがフランクと分かれる。
ライアンが自宅のドアを開ける。
「帰ったよ、母さん
今日は奮発してなにかうまいものでも食べに行こう」
しかし、目の前に入ってきた光景にライアンは恐れおののいた。
「母さん!」
ライアンの母親が血を吐いて倒れていたのだ。
「ひ、ひどい熱だ!」
ライアンはすぐに医者を呼ぼうとした。
しかし、ライアンの家には医者にかかる金もなかった。
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