第3話 意外と言えば意外
オレの指に力が入る。
グルーガンはマガジン式で、8発ないし8個のスティック樹脂を装填できる。
撃ち尽くした事を気づいた時には異臭が脳を引っ掻いた、激しく。
また吐きそうだ。
だけど気にしてられない。
次第に奴は余裕を取り戻したのか「さぁさぁ勇者は何勇者になるのか非常に興味深いですね...私、そのためなら首を長くしてお待ちします。もっとも.....
首なしの脳無しですがね!!デュハハハハ!!」と笑えないシャレまでブチ込む始末だ。
──オレ、何か他に武器はないか...?
──店の商品みたくオレがよく知る武器は...?
オレは空いている片手でポケットをまさぐった。
いちいちリュックの中を探っておけない。
それにソレは俺にとって切っても切れない武器であると同時に誇りの象徴だ。
取り出したのは一個の少しくすんだ銀色の硬貨『100円』と灰色に輝く硬貨の二枚だ。
──いつだったか、一人のお客さん、一人のシニア女性に言われた。
『これが100円!?安いのね?ありがとう!』
──園芸を嗜むその人は100円の大型プランターを手に感心していた。
──こっちはそういう店だし、お礼を言われることは何もしてない。
──でも、なんだか自分も嬉しくなって、泣きそうになったことは覚えている。
──そのことを、店長に言ったらトレードマークのカイゼル髭を指で弄りながら笑って言葉を残した。
『ユウダ君はお客さんに100円と引き換えに楽しみをお裾分けしたのさ』
『お客様は神様じゃないし僕達もまた然りだよ。だからお互い様の精神で、お互い笑顔でお裾分けできたら嬉しいよね。一緒にそんな100ショップを目指して頑張ろうね』
店の経営は良くもなかったが悪くもなかった。
だが、オレやミナツキを含めた働く従業員もお客さんも笑顔が絶えなかった。
新商品が出る度に、ついついお客さん目線で、ワクワクした。
たまにクレームが来たり、返品を求められることもあったけど、そんなお客さんはいつも決まって「期待している」と言わんばかりに熱い視線をコチラに送り、後日また来店して、笑顔を浮かべて、お裾分けしたり、されたりする。
「オレは100円ショップに勤めてる!化物のお前に言っても仕方がないが聞け!基本的に!この硬貨一枚で店の商品一個と交換できる!脳無し魔王がどんな店かは知らねぇ!けどな!コレだけは販売員として言わせてもらう!『オレはお客さんに100円と引き換えに楽しみをお裾分けできる!』その自信と誇りがある!お前には!お前の店にはあるのか!?違うだろ!?恐怖と絶望を売りに!ただただ敷居が高い店だ!人の大事なもんを目の前で壊す!最低の店だ!だから同じ100円ショップを掲げてるお前が痛いよ!すげぇ痛い!!だけどお前に人の心の痛みなんて分からねぇよな!?だったら物理的に味合わなきゃな!!」
オレは二枚の硬貨を奴の傷口に捩じ込んでやった。
黒い血が、返り血となって顔にかかった。
それは錆びた上に熱せられた鉄の匂いと、肌に張り付く泥のような肌触り、自身の肉が焼ける悪いものだった。
奴の体は酷く痙攣したが、
「デュフフ...運命や願いが100円硬貨一枚で一個叶うとしたら何を願いますか?」
エコーがかかった低い声は、どこか余裕を感じさせた。
そして、その声は聞き覚えがあった。
「オレは......名前負けしない本物の勇者になりたい!てか、なるんだよ!!」
「その願い、お買上でございますね?ありがとうござ...」
男の声は酷く上機嫌で、
「言わせねぇよ!!」
「ぐがっ...!?」
あろうとしたが、オレはそれを許さない。
オレは自分の膝を折って、奴の股間を蹴り上げたのだ。
化物といえど急所は同じだった。
崩れ落ちる奴の体。
レベル1の勇者が放つ股間蹴りで倒れる魔王兼店長。
意外と言えば意外なオチだった。
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