オークションの舞台裏
「……こ、怖かったあああああ! あの人もウェイルにぃの知り合いなの?」
「……ああ。治安局の人間でな。あんなのでも一応世話になってる恩人の一人だよ」
「ボ、ボク、殺されるかもと思ったよ……!!」
「今のステイリィは無駄に大きい権力を握っているからな。下手に触れない方が身のためだぞ」
ステイリィはここ最近、またも大きく地位を上げたと聞く。
若い女局員というだけで現場ではそこそこ重宝する存在らしいし、誰よりも手柄を数多く立てている。
ラルガ教会の悪魔の噂事件やヴェクトルビアのクーデター。
さらにクルパーカー戦争でも大いに活躍している(と治安局内では思われている)。
手柄の大半はウェイルのおこぼれという状態なのだが、そこはステイリィ、全てを自分の手柄だと上に報告しているのだ。
特にヴェクトルビアとクルパーカーの件は大きく評価され、今では治安局サスデルセル支部の支部長にまで昇進している。
ウェイルは手柄というものに一切興味はない。
したがってテイリィに手柄を独り占めされてもどうでもいいと考えている。
むしろウェイルとしては無報酬で事件に協力してくれる信用できる人物が昇進することは都合がいいとさえ思っている。
要するにギブアンドテイクが成り立っているわけだ。
そんなわけで、この都市で彼女に逆らうことは治安局に逆らうことと同義である。
フレスも下手にステイリィに文句を言えないということだ。
「……ウェイルにぃの知り合いってさ、凄い人ばっかりだよね。色んな意味で」
「ほっとけ」
ステイリィの介入により、良くも悪くもフレスの発言は棚上げされることになった。
ようやくとばかりにルークも会話に入ってくる。
「電信で何がしたいかは聞いたが、本当にやるのか? この二人しりで」
「ああ。こいつらも鑑定士になれば嫌でもやることだ。試験対策も兼ねて経験させてやりたい。無理は百も承知だが、頼まれてくれるか?」
「無論だ。フレスちゃんには借りがあるからな。喜んで協力させてもらう。早速これからやってみるか?」
「ああ、出来る限り数をこなさせたい。早速頼む」
ウェイルとルークの会話に、置いてけぼりを喰らうフレスとギルパーニャ。
話の中心が自分達の事だとは判っているので、少しばかり不安になる。
「ねぇ、ウェイル。これからボク達に何かさせるの?」
「そうだ。お前達はこれから三日間、『オークション専属鑑定士』をやってもらう」
「ええっ!? ウェイルにぃ!? それ本当!?」
「本当だ。いい勉強になるぞ」
「そ、それは……!! う、うわぁ、緊張してきた……!!」
「……ギル、オークション専属鑑定士ってなんなの?」
「それはね――」
――オークション専属鑑定士。
オークションハウスには、必ず一人以上の鑑定士が常駐している。
オークションで落札した品に、鑑定証明書を発行するためだ。
それ以外にも、競売品として提出された品が、本当に本物なのか鑑定しなければならない。
それら業務を専属にこなす鑑定士をオークション専属鑑定士と呼ぶのだ。
また、オークション専属鑑定士の数によって、オークションハウスの規模が決まると言っても過言ではない。
大手オークションハウスになると、一日の取引は三百回以上にも及ぶ。
それほどの数オークションを開催し業務を回すとなると、少なくとも数十人以上の鑑定士が必要になるとされている。
ちなみに現在ルークのオークションハウスには、プロ、アマ含めて鑑定士は十六人ほど働いている。
ウェイルも昔はこの中の一人に含まれていたのだ。
「そんな大それた事、ボクらがしていいの!?」
「していい、じゃなくて、やるんだよ」
「ボクらプロじゃないんだよ? 失敗してもいいの!?」
「勿論駄目に決まってるだろ? だから鑑定士という職は責任が重いんだ。でもお前達はこれからその鑑定士になろうとしているんだ。遅かれ早かれ責任を背負う立場になる。だからこそ、今のうちに慣れておけ。二人とも、頑張ってこい」
「う、うん! やってみるよ!!」
「不安だけど、頑張るよ! いこ、フレス!」
こうしてフレスとギルパーニャはルークに連れられて、実際の業務に携わることになったのだ。
――●○●○●○――
ルークの後に続いて二人がやってきたのは、第二オークション会場の舞台裏。
多くの従業員達が、忙しなく、それなのに妙に静かに、オークションの準備を行っていた。
「ルークさん、ボク達、ここで何するの?」
「そうだなぁ。……そうだ、二人はオークションに参加した経験はあるかい?」
「うん! 一度だけ、ギルと二人で参加したことがあるよ!」
(……普通のオークションじゃなかったけどね……)
「その時ウェイルから色々と教わったんだよ! 出品者には手数料が掛かるとか、サクラに気をつけろ、とかさ!」
「サクラか。そうか、結構深いことまで教えているんだな」
「…………う、うん」
二人が参加したのは、盗品や拾得品などを扱った裏のオークション。
これが果たして普通のオークションに参加したことになるのか、甚だ疑問ではある。
「なら一般的なオークションの流れは一通り理解は出来ているんだな?」
「うん!」
「ならば少しは安心だ。ならばここのオークションはよく見ておくんだ」
ルークがそう言った直後、舞台表の方から歓声が聞こえてきた。
たった今、競売品が落札されたようだ。
「……よし、うまく行ったみたいだな。二人とも、舞台表に移動しなさい。二人の席は用意したからな。しっかりと見学してみろ」
「……移動するの? 普通のオークションなら見たことあるから大丈夫なんだけど」
「それがな。この第二会場は普通のオークション会場じゃないんだよ。初めて見るには面白いから、よく見学しておきなさい」
舞台裏は次のオークションへ向け、忙しなく動き始めた。
「ルークさん、次の競売品、お願いします!」
従業員と思わしき人がルークの元へやってくる。
「ああ、判った。さあ二人共、移動しなさい。そうそう、二人はあくまで
「判ってるよ!」
「そんなお金もないからね!」
ルークに促され、オークション会場へと移動した二人。
舞台裏から出る時、ルークが鑑定士らしき人物と打ち合わせしている様子が見えた。
「普通のオークションじゃないって、一体どういうことなんだろ?」
「そうだなぁ。見てみれば判るよ」
「そだね」
用意された席に座り、舞台を見ると、何やら見慣れない設備が施されてあった。
真正面には二、三段ほど高い位置に机が用意され、そこに三人の鑑定士が座っていた。
その両側にも、正面よりは少し低い高さで揃えられた机が並んでいる。
左には先程見た従業員と、そして舞台裏にいた鑑定士が座っており、対する右側には、一般人と思われる人と、これまた鑑定士が座っている。
それら三者で取り囲むように置かれた真ん中の机。
「……ねぇ、あの席、一体なんなんだろうね?」
「私の記憶が正しければ、これって裁判所そっくりなんだけど……」
そう、これはまさに裁判所の配置であった。
真正面に座った鑑定士は、差し詰め裁判官といったところ。
「ボク、こんなオークションみたことないよ?」
「私だってないよ。でも師匠から聞いたことはある……」
すると一人の従業員が、競売品らしき品を持ってきて、真ん中の机の上に置いた。
周囲の喧騒も徐々に小さくなり、シンとした雰囲気が会場を包み込む。
(……ねぇ、ギル。これって一体何なの!?)
(これはね――)
コソコソ話を遮るかのごとく、正面に座っていた鑑定士が叫ぶ。
「――これより、
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