それぞれの目的

「オラオラオラオラッ!! もっともっと、ブッ壊してやるぜ!!」

「フフフ、これはなんだか癖になりそう……♪」

「これはこれは、自慢のコレクションを思う存分暴れさせられるのですから、最高に爽快ですよ!! 楽し過ぎて鼻血が出そうです!!」


 『無価値の団』の幹部三人は、各々部下を引き連れて自由にハンダウクルクスを破壊し回っていた。

 ウェイルが託した彼らの役目。

 それは盗賊になりきってこの都市を襲撃することであった。

 彼らが暴れれば暴れるほど、人々は混乱し、逃亡を始める。

 そうすることによって、駅に人が集中するように仕向けたのだ。

 駅に殺到した人ごみにルイが隠れ、混乱に乗じて汽車で脱出する作戦である。

 計画は成功と言って違いない。

 多くの人々は予定通り駅へ殺到したのだから。


「おい、ファイラー。もっと火薬をよこせよ」

「はいはい! どんどんお使いください!」


 ファイラーのコレクションとは、ズバリ爆弾であった。

 物資商人のファイラーは、もっぱら危険物について取引をしていた。

 危険物の一つである火薬を手に入れることは造作もないこと。

 彼は常々、自作した爆弾を試してみたいと口にしていたほどだ。

 実際に爆弾が大爆発を起こしている様を見て、異様に興奮しているようである。

 そんなファイラーからゼーベッグに渡った爆弾は、無慈悲にも都市を破壊していった。


「ハーッハッハッハ、爽快だぜ!」


 ゼーベッグたりとて人を傷つけるつもりはない。

 だが、彼もこの都市で無価値に成り果てた者。

 当然この都市に対する怒りや恨みは根深い。


「ゼーベッグ、少しやりすぎじゃない?」


 流石のペルーチャもゼーベッグの暴走に、少し引き気味であった。


「いいんだよ。警備隊もいない今だからこそ出来る復讐だぜ!? それにこれは作戦の内なんだ。楽しんだってバチは当たらないさ」

「確かにそうだけどね。私だってハンダウクルクスは大っ嫌いだしさ。でも、人を巻き込むようなことはしないで」

「判ってるよ。俺だって分別くらいつくさ」

「ほっほ! 爆弾はもっとありますよ! さぁ、『無価値の団』の皆さん! どんどん爆発させて下さいね!」


 ゼーベッグは復讐、ファイラーは趣味、ペルーチャはスリル。

 それぞれの目的は、ルイを補助するという一つの目的となって、この都市を襲ったのだった。





 ――●○●○●○――





「ねぇさん、大丈夫かい?」

「うん、平気。ルイは?」

「俺なら問題ない。後は汽車に乗ってしまうだけだ」


 人が大勢殺到したハンダウクルクス駅は、混乱の極みにあった。

 検問の為、僅かばかり残っていた警備隊も、あまりの人数に役に立たない状態である。

 駅員も必死で押し寄せる住民を抑えようと躍起になって叫んでいたが、その声すらも悲鳴や叫び声でかき消されていた。


「ねぇさん、行ってくるよ」

「……うん。私、待ってるから……!!」


 ルイとピリアは今一度抱き合うと、ルイは人ごみから抜け出して、駅のホームへと侵入した。


「おい、貴様! 勝手に入ってくるな!」


 駅員がルイを咎め、抑え付けようとしてくる。

 伸ばしてきた手を弾き、代わりに腹部へと拳を叩きつけたやった。


「……ガハッ……!!」


 くの字に崩れる駅員。

 それを見て、あたふたしていた警備隊も次々とホームへ入ってきて、ルイを捕まえようと走ってきた。

 ルイはすぐさま汽車の運転席に乗り込む。


「……よし、判る……!!」


 この時の為に、操作方法は一通り勉強してきたのだ。

 無論実際に動かすのは初めてだったが、不思議と失敗する気は起きなかった。


「行くぞ……!!」


 押し寄せる人々が見守る中、一台の汽車が動き始める。

 警備隊員も、動き始めた汽車に乗り込むのは危険だと判断したのか、それ以上執拗に追いかけてくることはなかった。

 蒸気を上げて、汽車は走り始める。


「……ついに……ついに脱出した……!!」


 遠ざかっていく雄々しき山『ハンダウル』に美しい湖『クルクス湖』。

 手に持ったルクセンクから盗み出した機密書類と、そしてそれらが本物だと証明するウェイルの公式鑑定書。

 ルイはついにハンダウクルクスからの脱出を遂げたのだった。



「これでハンダウクルクスは――生まれ変わる……!!」


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